質量保存のおとうと

赤ぺこ

第1話

 ぺちん、と間の抜けた音が鳴り響くと、弟のマコトが縮んでいた。

 だいたい頭一つ分だから、20cmを少しオーバーしたぐらい。全身が一回り縮んだといった方がきっと正確で、「どうせすぐ身長が伸びるんだから、大きめの服にしときなさい」と母が買ってきたトレーナーが、かなりだぶついていた。それでもすぐ気づかなかったのは、マコトがソファに埋もれながらゲームをしていたせい。水鉄砲に入ったインクを放出して陣地を塗り合うやつで、ちょっと目がチカチカするけれどキャラクターは可愛い。私が通っている高校でも人気で、男子がゲーム機をこっそり持ち込んでよく対戦をしていた。


 私はゲームがあまり得意ではないから、基本的には見る専門。その日もマコトのプレイ動画を一通り眺めた後、それに飽きてスマホで面白そうなTikTok動画を漁っていた。だから、半分になったその瞬間は目の当たりにはしていない。ぺちんも、最初はテレビから流れてくるゲーム音だとばかり思っていた。


 マコト自身も縮んだことに気づいていないみたいで、

「たまにはお姉ちゃんもゲームしない?」

 と、呑気な様子でコントローラーを私に向かって差しだしてきた。

 袖口から覗く五本の指はまだ少年特有の肉付きの良さが残っていて、ヤマネパン屋で販売されているグローブ型のクリームパンを想像させる。この美味しそうな指が、これからずっと縮んだり萎んだりするのは悲しいな。お相撲さんぐらい食べさせれば、成長速度が縮むスピードを上回るかな。だとしたら毎日ケーキでも買ってきて無理矢理マコトの口に放り込もうかな。

 そんなことを考えながらプレイしていたせいで、あっという間に負けてしまった。

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