第六幕 レポート
視点:ホヌ
とりあえずセンセイは無事。もろもろ設定もうまくいきそうだから安心して。
…うん。報告ありがとね。じゃ
またね
ふう。センセイもいろいろ抱えてるし、ユウレイさんはなんか力弱くなってる気がするし、変なおっさんはスパイだし。なんだこの村。本当に軍の栄養部分だったのか?警備ザルだしそもそも軍の人間はそんなにいないし。まるで旅人に入ってきて欲しいようにも感じるけど…まああと二ヶ月もすれば終わることだし。夜のうちに資料とか集めておこうかな。
おうい!ちょっと!おいらだよ!お い ら!
げっ。
音についてきて!
おと?
おっさんだ。声はおっさんだが姿が見えなかった。やはり彼も異能を使えるのか。窓から覗いただけだから単純に見えなかった?まあいい。とりあえずついていこう。
こっちこっち〜
…なんであんなに上機嫌なんだ?きもちわるい…
さあ、この辺でいいかな?
この辺…?音を頼りについてきたが姿が見えない。
ああ、ちょっとそこで待っててね…あ、よいしょ
うわっ!
煙…のようなものが木の裏からムワッと流れてきた。おまけに鼻がムズムズしてきた。
おーまったせー…って、あーキミもしやネコアレルギー?
ねこ?
そう、ネコ。ネタバレしようかと思ったけどキミの鼻が感じ取ったみたいだね
…おかしい。どこにアレルゲンのネコなんているのだろうか。
ネコはね、臆病なんよ。自分からオラオラいかないの。一度だけだから状況把握してね。
んあ?っえ!
木の裏から出てきたおじさんが煙を立ててどんどん小さくなっていく。次の瞬間、瞬きをするとおじさんのいたところにネコが1匹こちらを見ている。黒猫。瞳は満月のような深い黄色。月の光で毛がキラキラひかる。
というわけ。おいらこういう能力だからさ、潜入任務は任せておいて!
でもなんでこの村に?この村、家畜以外の動物見ないけど
だからだよ。ネコは珍しいし受け入れられやすい。黒猫なのも良かったらしい。なんかウケがいいんだよね。
…これ、使えるな。
ん?なんかいったか
いや、のちに潜入捜査で使えそうってだけ。ただボクからは離れて行動して。んじゃ!状況は大体わかったからまたね!
えーもういっちゃうのー?せーっかく君らにもメリットのある情報持ってきたのにー?
(早くこのアレルゲンから離れたいんだけどな。)
なに?協力体制なら作戦参謀くらいはするけど…
トンネルで見つけた子。君のお友達なら説得できるんじゃない?
その子を仲間にしてメリットは?
手紙を受け取った張本人かもしれない。
それはキミらのメリットだよね?ボクたちには関係ない。
あーあ。その様子じゃ、ここにある本読んでないんだね。おいら優しいから答えをあげる。
L_89上列3段目一番左をみてごらん。
それじゃ。まずはお友達と相談すればいいよ。答えはいつでも。実行するなら支援する。
どう?悪くないでしょ?
キミたちがその子を説得させればいいんじゃない?
それができたら苦労してないの。みーんな口下手さ、おいらも含めてね。子どもからは好かれないタイプだね。
あっそ。まあ読んでから決めるよ。
そうね。いい返事、まってるよー
さて。病原体も行ったことだし、あの本読んでみるか。
図書館のーえっと…あ、これか。タイトルは
『世界の奇病』
あの子はこの中の病気に罹ってるってこと?
あからさまに付箋がはみ出してたりマーカーで塗りつぶしてシワシワなページがあるな…
時狂病(クロック症)について
時狂病【じきょうびょう】(以下クロック症)について調べた。
この奇病の最大の特徴はある一定の条件を満たすと年齢が変化することにある。現在の記憶がなくなり幼かった当時の人格が現れるのだ。その逆もあり、子どもの姿から成年の姿に変わることもある。そのときはその歳まで経験したことは覚えている。
例えば、3〜20歳までを何度か行き来したとしよう。3歳に戻ると記憶はないが20歳に戻るとそれまで行き来したときの記憶はある。
このことからクロック症は一種の記憶障害とも言える。何度か経験した幼少期時代をほぼ正確に記憶していることから脳にはかなりの圧がかかっているのではないかと脳の専門家は指摘する。
しかしこれだけではない。このクロック症は大人から子どもの姿に戻る、またはその逆でも細胞に変化が起きる。子どもから大人になれば細胞が老いていき、大人から子どもになると細胞が若返る。人格も髪の毛のクセまで変わってしまう。また識字率や言語まで変わるため関わりには症状についてよく知っておくことが大切である。
クロック症の発動条件について。一番初めに述べたようにこの奇病にはある一定の条件がある。まだはっきりとしたことはわかっていないが確定要素を述べようと思う。
その1。命の危険があるとき
飢餓、外傷、毒ガス…あらゆる「死」と直面すると必ずクロック症の症状があらわれる。
その2。ストレス
いわゆる鬱。病名がつくほどになると、ほぼクロック症の症状があらわれる。
その3。その他
ごくまれに上記二つに含まれずクロック症が発症するケースがある。実験台が少ないため、理由は不明である。
こうしたことから不死の病と称されることもあったが、それは間違いで彼らはなぜか突然死亡する。ある日身体が衰弱し数分で死に至る。
以上がこれまでに解明された内容である。以降私の見解と治療法の可能性についてだ。
クロック症は古代からある奇病の一種だと考えられる。まれに数千年前の出来事を、つい昨日のように話すケースもあるからだ。最近見つかったこの奇病は突発的に起こるものであり薬などはもちろん、効果のあるものも一切見つかっていない。また、場合によっては自分がクロック症だと気づいていないケースもある。その場合、自分で気がつくことが大切だと研究者は言う。なぜなら混乱を招くからだ。驚きがクロック症にとってあまり良くないことだという研究結果があるそうだ。平穏に暮らすことが長生きの秘訣とも言えるだろう。
治療法についてだが、今のところ何の成果もない。症状を和らげ少しでも体に負担のかからないようにしたいところだが、理由がわからないと薬も作れない。上記のその他に含まれる症状が出た場合、どうすることもできない。
だが、私はひとつの可能性があることをここに記したい。それはクロック症同士が一緒にいることだ。奇病と言われるクロック症は罹る人数が少なく一緒に生活すると言う実験はできていない。そのため、幼少期からクロック症の患者を一緒に生活させてはどうだろうか。その固有の特徴から普通の人生ではありえないほど長く生きるクロック症は、同じクロック症の患者と一緒にいることで心の不安、つまり精神の安定をとれるのではないか。また発症した際のクッション代わりとして互いに協力できないか。実験は非常に困難だろうが、なんらかの成果は得られると期待する。
何だこれ。やたら長い文章だったけど結局何もわかってないじゃん。ただ、可能性は無いわけじゃない。朝起きたら先生に見せるか。…いや。声ぐらいかけたらどう?センセイ、ユウレイさん。
げ。バレてましたか。
あははー私もですか。さすがホヌさん!
読んでる最中違和感はあったけどまさか2人とも起きていたとは。んで?いつから起きてたの?
ついさっきです。なんか本棚の奥の方でガサガサ聞こえたのでね。村人かな?って思ったんですけど一応警戒はしておかないとね。
私もそんなところです。ところでホヌさんって文字読めるんですね。
うん、まあね。センセイは読めなかったはずだよね。
ええ。恥ずかしながら…数字くらいなら読めるんですけどね。まあまあ。とにかくその本なんて書いてあるんですか?
あー、これねー。まずタイトルは……
それから簡単にこの本の内容を説明した。その後で、
「そういえばこの村にも一人だけ子どもを見かけましたね」
と、ユウレイさん。
そう。まさにその話。まだセンセイには話してなかったよね。
ええ。すぐ近くでしたよね
あーそれはここの本棚だね。今は用もないから行かないけど、この先に鉄格子があって。そこに子どもが正座していたんだ。だから、この本を見つけたときにまさにその子のことじゃないかなって。あ、そっか。センセイにもうひとつ言っておかなきゃ。確かユウレイさんは会ったよねーあのおっさん。
はい。確かその洞窟を出て本棚を直した瞬間でしょうか。急に刃物と拳銃を持った方があらわれて……かくかくしかじか…
って言うことがあったんだよね。そのおっさん、仲間がいるらしくて他にも仲間がいるから君たちの作戦に協力するよって言ってた。んで、そのおっさんからさっきこの本のことを教えてもらって…
ちょっと待ってくださいね。まずそのお方は一体?そしてなぜ私たちに協力を?
おっさんたちはね、この村にこれを受け取った子を探しに来たんだって。
さっきもらったその子が受け取ったらしい手紙を読んでみる。
なるほど、その際他の仲間のリストなどは頂きましたか?
これかな?名前は…今読んでもわからないか。あ、あとね。おっさんはネコに化けれる能力持ってる。黒猫ね。
は、はあ。ずいぶん忙しい方ですね。
しかも共通の敵がいるって。ま、案の定あそこだったけど。
ほお。その方たちの目標はそれだけですか?
うん。今のところはね。それで、ぼくたちに協力して欲しいんだって。その子を保護するまで。
こちらのメリットは?
おっさんたちは普段村人に変装してるから、その立場と…後はこの本を見ればわかるって言ってたんだけど…ぼくにはわからない。
それで読んでいたのですね。なるほど。ちなみにホヌの足元でこれを見つけましたが何か関係はありますか?
ぴらり。自分の目の前に出された文字はヘビのような字体だし滲んでいて読みづらい。でも、確実にこう読める。
『ルビー国殲滅隊に告ぐ。』
ぼくが読み上げた後、多少の沈黙。センセイが口を開く。
一応、警戒はしておきましょう。敵意は見受けられませんから。
ぼくもその方がいいと思った。ただユウレイさんは違うらしい。
わざわざこれを見せたと言うことは…何か、こう…他の意図がありそうですけど。
それもそうだ。おっさんたちはなぜかぼくたちのことを知っていて、それでもこの紙が入った本を見せた。確かに何か意図がありそうだ。
でも、警戒はしておこう。
とりあえず今日はもう寝よう。
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