第五幕 天使か悪魔
今思い出した…
軍に入る前よりもホヌと出会うよりもずっと前のこと。私も地方の村出身だから。
「オマエ気持ち悪いんだよ。」
「さっさと死ねよ」
「それは一種の呪い。または病気です。」
「こんな子に産んでごめんね…」
はあ。何度思い出せばいいんだろ?
もう無くなっただろ。やめてよぉ思いださせないで
「…伝道師さま。私の話を聞いてくれませんか。」
「私は…脇役です。みなさんが言う“神”の声をそのままお伝えするのみです。」
「はい。では私たちの神に問います。私は病気です。村のために生まれましたが病気が理由で捧げ物にはなれませんでした。私に生きている意味はあるのでしょうか。」
目の前には当時の私のようなヒト。どんな言葉が欲しい?慰め?助言?肯定?
「…神にはなんと問いたいのでしょうか」
「私がこの村のために何が出来るか…です。」
この村は6歳が捧げ物だと聞いた。彼女は少なくともその倍は生きていそう。だとしてもまだ子ども。おそらくこの子の親も、同じような…
「神は…神は、迷っておられます。あなたがその歳まで悩み生きていて何度悔んだか測り知れないと。だから、どんな言葉を伝えたいか分からないと。」
「そう、ですよね。なら、私は…」
「でも、ひとつ言えるのならば。村のために一生働きなさい。病気に負けない強い体になって、その悩みも忘れるくらい周りから慕われる存在になりなさい。」
「え?それは…どういう?」
「病人は弱い。その言葉をあなたに送ったのは誰ですか?私には分かります。少なくともあなたではない事。医者や親からそう言われただけでしょう?」
「確かに…そう、ですが…でも、」
「言い訳をしてはいけません。自分がどんどん弱く思えます。だから自分は思った以上に強いんだ!と、思うことが大事ですよ。誰もあなたの強さを見たことはないんですから。私には分かります。あなたはこの村で一番強い。」
「そう、ですか!なんだか頑張ろうと思えるような気がします!…私にもなにか出来ることがあるなら…それをまずは見つけないとですね…ありがとうございます!」
「みなさんの神の声、私がお伝えいたします。しかし、今日はここまで。神にも休息が必要なのです。それでは。」
頭痛で重くなった頭を転がして本棚の奥に逃げる。いまは……よくわからないや。
「なんで生きてるのか…わかんないよ」
「…ホヌ?」
どれくらいじかんがたったのか。きがつけば横たわって寝ている。そばには涙でぐじゅぐじゅになったホヌが私にぴったり張り付いている。かかっているひざ掛けも同じくぐじゅぐじゅになっている。
「ホヌ?離して。重い。」
「へっ?ご、ごめん…起こしちゃった?」
「いや、ちょっと悪い夢を見て起きちゃったかな?」
「き、今日は疲れたね〜えーっと、まだ日が落ちたばっかりだから、は、早く寝たら?」
あー、いつもは看病される側だから慣れてないんだな。
「ホヌ?」
「は、はい。なんでしょうか」
「ホヌのピアノが聴きたい。調律師は朝来るんだったよね?まだ夜だから大丈夫。まだ寝たいから優しいやつ弾いて。」
そ、そう〜?ならしょうがないね〜。とイスに座り鍵盤に指を置く。ソフトペダルを強く踏み込む。
元々私は脇役に過ぎない。ホヌと出会ったのも私が街の通りでひとり小銭稼ぎに歌っているとき、ホヌに声をかけられたのがきっかけだった。
「ピアノ弾くから歌ってよ」
この物語はホヌが主人公で私は引き立て役。それ以上でもそれ以下でもない。
あの小さい体であのか弱い声で。私が彼を守りたいと思った。いっしょに音楽をしてるときも、いっしょに軍に入って暴れたときも。ずっとずっと彼が主人公。
「センセイ?あまり考えすぎない方がいいですよ。センセイは私を救ってくれたじゃないですか。もちろんハコビヤさんのことも。あなたは脇役ではなく救世主なのですから。」
ユウレイさんはいつもそうだ。いつも私の欲しい言葉をくれる。私の心を覗いてはキズを癒してくれる。
「…ありがとね。もう大丈夫だと思ったんだけど、ね。」
「いえいえ…私なんかなんで死んだか思い出せないんですからね。まだマシだと思いますよ、ふふっ」
「ああ、それもそうですね。私が言うのもどうかと思いますが。」
「でも、ハコビヤさんの心配をできるのもあなたしかいないんですから。ホヌさんもあんな状態ですので。」
ホヌの奏でる優しい旋律が月明かりと相まって幻想的に映る。やっぱりこの演奏で歌える私は幸運だな。そう思うことにした。
視点:????
隊長、今度は〇〇地方の〇〇山にあるバリ村という村です。
ああ、そっちに行ったのか。まあ、反対は海だしな。別に海のほうに行っても問題ないのにな。
…多分、わざと…かと。
なんでだ?ホヌの能力的に海の方がいいだろ?
だからです。力を使いすぎてしまう。
ホヌが暴走を?
ええ、します。地の利を得た暴走ほど恐ろしいものはありませんから。おそらく敵味方関係なく壊滅レベルかと。
面白そうだな。あいつらが暴走する味方にやられるザマ!
今回もずいぶんと余裕がありそうですね。
まあな。なんだかんだ上手くやってくれるからな。あいつら。
呼び戻す気はあるんですか?
お前面白いこと言うな。あるわけないだろあんなゴミ。今じゃなんでそばに置いたのか不思議でな。
そうですね。まさか隊長に攻撃するなんて。
ああ、あのときはお前がいなかったらどうなってたことか、感謝してる。
どうも。ではいつも通り偵察に。
ああ監視もな。ほどほどによろしく。
はい…失礼します。
はあ。今更言えないよ。ボクをここに置くためにわざと…だって。また言う機会逃しちゃったな。
視点:ユウレイ
「ですが、本当に良かったんですか?」
話の流れで懐かしい話になった。
「え?なんのこと」
「ハコビヤさんのことですよ。」
「あー。」
「そうだね」
実のところ、私は彼女…ハコビヤのことをよくわかっていない。彼女は街に着く前に必ず現れては、何か術をかけて消える。その繰り返しで、彼女が何者かは分からずじまいだった。
「ユウレイさんってハコビヤのことどこまで知ってるの?」
「ほぼ分からないに等しいでしょう。初めて会ったのは私たちが隊長の側近だったときくらいですし。」
「そっか!じゃあセンセイーせつめいよろしくっ!」
「はいはい…わかりましたよ。…そうですね。まずはハコビヤの能力について軽く説明しておきましょう。」
センセイが「いててて…どっこいしょ」と体を起こす。
彼女の放った言葉は良かれ悪かれ形になる。それは異能力として制御ができる。ただし、強い言葉を使えば使うほど制御が効かなくなる。…ここまでいいですか?
はい…質問です。その術はハコビヤさんの意思の強さは関係していますか?
うーん。私の仮説になりますが多分ある程度制御しているんだと思います。単純に言葉の強さだけではない何かがあったこともしばしば…
おー。なるほど
では…彼女は今、隊長の側近かつ私たちの監視もしています。それはご存知ですね
はい、何度か見かけますね…街に行く前に必ず出てきてくれますもんね
はい、彼女の力はそこで大きく発揮されます
例えば今を例に考えるとわかりやすいでしょう
彼女:「この村ではセンセイが伝道師。仕事内容は…」
…みたいな感じで大雑把に大体その通りになっているはず
確かに大体同じ
じゃあ能力は何なのか。その答えには最近気が付きました。もう一度ハコビヤが言った文を読み返して
「この村ではセンセイが伝道師」
さあ、わかったかな?
答え合わせとしては…
“範囲を指定してその場の常識を変えること”
今私、センセイが村の中でのみ伝道師。と言うわけだよ。
なるほど、確かにそれは納得です!そういえばこの村に来るとき、クマに襲われたこともありましたよね。あのときは確かクマに対して「ステイ」の一言だった気がしますがそれは…?
ユウレイさんなかなか面白いことに気が付きますね!
それほどでも…
それについてはハコビヤ本人もよくわかっていなかったので研究しました。本人曰く、「使えるときは体がピキピキする」らしいので。
ぴき…は置いておいて、本能ではしっかり使い分けられているんですね
どうやらそうらしいですね。しっかりした発動条件は分かりませんでしたが、大まかに3つがわかりましたよ。
ええ!気になります
では!まず一つめ
発動対象と目が合う。
二つめ
声が届く(言語は違ってもいいみたい)
三つめ
本人が可能な動きであること
…の三つ全てが当てはまっていると100%発動していました。
はい!センセイ、質問です
どうぞユウレイさん
確かにクマにも通じると言うことは声が聞こえる範囲はできそうですが、私たちが村に入るときにも能力発動してましたよね?あそこで村人には聞こえていなかったと思うのですが。聞こえていても目が合っていないだろうし…
おお!またまた良い質問ですねお答えしましょう!
それは私たちが能力をつけられていたからです。暗示…と言った方がわかりやすいかと。
暗示…村人にはついていない、と?
正確には拡げたが正しいかと。より簡単に言ってしまうなら異能の『感染』…。先ほども言ったように条件は少なくとも三つ。それを彼女は伝道師と言う職業で解決して見せました。その証拠に私のやっていたこと全て、三つの条件が当てはまりやすいようになっています。
異能にかかった人が同じような状況になると感染る。今に当てはめると…ここにセンセイの話を聞きにきた人全員ハコビヤさんの異能がついている。そういうことですか?
はい!よくできました!その通り。もう説明は要りませんね
なるほど…ありがとうございます!
それではここで本題に。なぜ、あなたは異能にかからない?
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