第四幕 キーワード

 神とは、人間が考えたモノだろう。誰かが必死に助けを乞うて生まれた存在だろう。そういうのはよく霊的な何かが絡む。存在証明のために名前を欲しがるから。

「神とは、唯一無二。みなさんの良し悪しを左右する存在です。普段から行いに気をつけていれば、神はそれそうなりの対価をあなたに与えます。」

まあ、60点くらい。あながち間違いではないと思う。


村人にとって、神とはどんな存在なんだろう。


例えば祈る対象に神の存在が適任だった。

例えば安全な場所が欲しい。

例えば村の安泰を強く願った。


「みなさん。神はどんな存在であると思いますか?1番身近な存在。1番尊い存在。まずは皆さんがイメージをすることが大事です。必要なのは、

〈なぜ神が必要だったのか〉

さあ、神の姿を思い浮かべてみましょう。村のためだけの神を。私はその神と会話しましょう。そして言葉を伝えましょう。願えば神は答えます。」



視点:ホヌ

ピアノも弾いたしなんだか眠くなってきた。あとはセンセイに任せても大丈夫そうかな?


「ホヌさん。ちょっとよろしいですか?」


重い眼を擦りながらユウレイに導かれるがまま本棚の奥に進む。

「実はこの裏に道が続いているのですが扉を開ける方法がわからなくて。ホヌさんなら何かわかるかと思いまして。」

あー、さすがユウレイ。ちゃんと体は透けるんだ。

「ちなみにその奥には何かあった?」

「いえ、それが暗すぎてよく見えないのです。」

おー、なんか人間っぽいこと言ってる。

「そうだなー。この本棚の裏なんでしょ?」

「はい。ちょうどこの裏に道が続いていますね。」

こういうのって、たいていスイッチがあるとかレバーがあるとかなんだけどな。…ん?そもそもこんな小さな村にこんな仕掛けを作る技術も裏にトンネルかなんかを掘る技術もあるのかな?

「あ」

カチッ

「あら」


小さな音を立てて本棚がひとりでに動く。数秒後そこにはまさしく“手掘りされたトンネル”が姿を現す。どうやら仕掛けは飛び出た本を押し込むこと。見つかったとき用に言い訳をいくつか考えたがそうなる前にこの中を見る方が僭越そうだ。入り口にはランタンが置いてあり、ありがたくそれを使うことにした。


「かなり奥の方まで進んでいるようですが…」

「やっぱり…そうだよね」


景色が一向に変わらない。何度かこのスコップでつけたようなキズをみた。何度も3つ並んだ小石を見た。…同じ道を何度も通っている。

「ユウレイさん、風向きは?」

「こちらですね。おそらく…」

「うん。入ってきた方向かな。」

今度は反対に向かって進む。

「あら?風向きが…」

やはりおかしい。入り口はひとつしかないはずなのに急に風向きが変わる。いや、逆に?

「ユウレイさん。こっちに何がある?」

「ええ。こちらは…あ!」

ユウレイさんの大きな声に反射的に振り返る。風が吹いてきている方に。

「おーあったね。」



まず見えたのは鉄格子。古く錆びた様子で明かりもない。目の前には1人のこども。ただ正座をしてこちらを見る様子もなければ僕たちがいることに対して反応する様子もない。

「あのーすいませーん。あ、私だと聞こえないかな?」

ユウレイジョークをかましたところで交代する。

「ちょっとお話し聞いてもいいかい?」

「、、、!」

小さな彼はこくんと頷いた。


「まず、君はかみさまを知ってる?」

こくん。


「君は6歳になった」

こくん。


「お腹が空いている」

こくんこくん。


「喋らないのは、母親や村の人からそう言われているから」

…こくん。


「じゃあ最後に。君は外で遊びたい?」

…………。


「なるほどね。」

こどもはこちらを見向きもしない。これもきっと村の掟かなにかだろう。




君にお願いがあるんだ。いや、君にしか頼めないお願い事だよ。聞いてくれるかい?


…こくん


今この村は悪い人に襲われていてるの。だからぼくは村のみんなを救いたい。そのために来たんだ。だから君にもそのお手伝いをしてほしいんだ。協力してくれるかい?


…ほんとに


君がここにいることが何よりの証拠だよ。悪い人に捕まらないように、ここに君のことを隠しているんだよ。


え?


その悪い人たちを僕たち旅人がこらしめてやる!だから一緒に戦ってくれるかい?


……うん!


…ありがとう。じゃあまずは自己紹介をしようか…




実際このあと夜の間に来ると言う軍の人間を人質に取り色々やるわけだから何も間違ったことは言ってない。でも、これを二ヶ月の間に終わらせる、となると…。

「そろそろ終わりそうですよ。」

「わかた!よし!」

「ねえ。」

こども…もといニードは細い腕を一生懸命伸ばしてぼくの服を掴んだ。

「どうしたの。」

「お兄ちゃんたち行くんでしょ。なら、これを覚えておいて“無知は罪”ね!」

ニードは再び正座をし直すと目を前髪で隠し瞑想を始めてしまった。

「そうだね。さ、いこう。」

そうして再びランタンを持ち図書館へと急いだ。出口はユウレイさんが導いてくれた。ニードの警告はすぐに意味がわかるだろう。ユウレイさんがこの隠しトンネルを見つける前に色々調べてくれたようだから。


「えっと、確かこのページの…」

入り口に着くや否やすぐに一冊の本へと向かう。もちろん開いた本棚は力ずくで戻しておいた。

「ああ、ここですね。」

サッと渡された本を読む。そこには大体あの村のお兄さんが言っていたことと同じようなことが書かれている。でも、やっぱりおかしい。矛盾している。


本の仕掛けが偶然で開くような簡単な仕掛け


村を訪れる人の扱いがやけに優しすぎる


初対面、掟があるというのに旅人だとわかると話し始めた子ども


あれ、そういえばここで教会ごっこをしていたはず…

「ホヌさんっ!背後!」

何かが空を切る音が聞こえる。僕は咄嗟に本棚のない左手に前転。

チッ。っと冷たい視線が背中に刺さる。…センセイは大丈夫だろうか?戦闘員じゃないから心配だ。

「ホヌさん!センセイは大丈夫です!さすがセンセイですね!」

ああ、そっか。彼は口が上手い。なんか上手いこと言って戦闘を回避したのだろう。僕にはできないな。


このッ

さっきからうざいなーこのおっさん。動きも鈍いし軍の人間ではないのか?なら、村人?まさか、正体ばれた?だったらセンセイが無事なわけない。なんなんだ、このおっさん。


へへっ

きゃあ!

ユウレイさん!


何が目的なのかわからない。なんでユウレイさんを攻撃した?いや、正確にはしようとした、だけど。彼女死んでるから当たらないんだけどね。でもおっさんには視えてるんだ。でも、今ここで声を上げたら村人に気づかれる。僕にもおっさんにも利点はないのになぜこんなところで?まあいいや。どうやら拳銃も持ってるようだし村の住人ではなさそうだからさっさと気絶させるか。


「ぼくー?ちょっとストップ。お話聞いて!」

うわあ。多分今いる人種で1番苦手なタイプだ…

「手短に」

「うむ。まずオイラはどちらかというと仲間だ。共通の敵がいるだろ?」

「あーあそこ(帝国軍)ね」

「そお。んでね?ひとつ提案なんだけど。」

そう言って封筒を渡される。中身を確認する。


   バリ村の処遇について


 今日まで我帝国軍はバリ村を貴重な人的資源として搾取を続けて参りましたが、数々の防衛行動により難航を極めておりました。そのため、下記日付より以下の部隊をこの村に派遣いたします。


…月…日  魚雷、爆破部隊 ダイヤ、スペード


作戦等はそれぞれの軍隊長に任せる。証拠隠滅を目的とした行動なので漏洩注意…


ここから先はどうでもいい。それと、もう一枚。手紙のようだ。


親愛なる……ー


突然の手紙で申し訳ないが、これからキミに国家機密を話す。口が上手くて頭のいいキミのことだ。きっといいことに使えるだろう。ただ、約束してほしい。これが国家機密だと言うことを。


こ から我々帝 軍の爆撃部 がキミの住  を爆破しにいく。

日付は…

部隊名は…

コーヒーのシミだろうか。手紙が茶色く滲んでいてところどころ読めない。が、大体状況は把握した。


「まさかこの手紙を書いた軍人を探せとかじゃないよね?」

「んなまさか。それこそ自殺行為じゃないか。逆だよ逆。オイラはこの手紙を受け取った子を探しているんだ。協力してくれるかい?期間はたしか二ヶ月だろ?この村爆発されたらもう探せないからさ〜頼むよお。オイラもきみたちのこと手伝うからさ。今はこの村に起こったこと知りたいんだろ?あと、オイラは今村人に変装してるからその立場も使っていいからさ。ね?」


はあ、とため息。確かにこっちにとっても都合のいい話ではある。


「ああ、それとねー」

と、おっさん。何やらズボンのポケットからくっしゃくしゃになった紙切れを渡される。

「これ、仲間のリスト。オイラ以外にも何人かいるしなんか軍の人間も紛れてるらしいから注意ね。ああ、あとね。なんでオイラが君たちのことを知っているかって言う質問などは受け付けませんからねー。オイラには…オイラたちには特殊なルートがあるんだから。無知は罪。気をつけな。あとねー…」

「まだあんの?」

「これで最後だヨ。あそこの伝道師って言ったっけ?牧師?まあいいや。きみたちの仲間はもうすでに用済みのようだよ?」

視線をセンセイに向ける。何やら騒がしい。


「私は…脇役です」

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