第147話 ルームツアー1

玄関口で靴を脱いでエージェントさんが用意してくれたであろうスリッパに履き替える。




「まずこちらリビングですね。暖炉があります。」




「暖炉憧れだったんですよね。」


リビングはかなり広々としていて、大きな窓があり、庭が見渡せる。

象徴的な暖炉も、大きなものが壁際にあり部屋の印象を暖かなものにしている。




「ニューヨークの冬は冷えますからね。

特にここは川沿いですし。冬はかなり堪えると思いますよ。1階も2階も床暖房入ってます。」



「わかりました。」


広々としたリビングの隣にはダイニングキッチンがある。

ちなみに家具も揃えてもらっている。


まだ搬入が済んでないものもあるが、すでに大半の必要な家具が入っている。

まるでモデルルームのような仕上がりだ。




「こちらはキッチンです」


「おぉ、広い。」


「システムキッチンはイタリアのテクノクッチーナが入ってます。

割と最近変えたばかりのようだったので、部品交換とメンテナンスはしてあります。」


「めっちゃおしゃれですね。」


「前の方のこだわりだったみたいです。」


ソリッドカラーのキッチンは天板と下部のツートンカラーが美しい。

そうおそらくは天然物であろう大理石のひんやりとした感覚が伝わってくる。


シンクは広く使いやすそうだ。




「基本的にトイレ、お風呂場、シャワールーム、ウォークインクローゼットも揃えでクッチーナが入ってます。」



「内装お金かかってんなぁ…」



「こちらダイニングの窓は開けると外のデッキに繋がるようになってます。

天気がいい春なんかは外でランチとかもできます。」




「アメリカの家といえばウッドデッキですよね。」



「これ、木に見えるけど実は木じゃないんですよ。」



「えっ。」



「生木だと雨とかで腐っちゃうじゃないですか。

だから木にめちゃくちゃ似せた樹脂なんです。


正確に言うと木粉と樹脂の混合物ですね。

メンテナンスフリーですよ。」



「それめちゃくちゃありがたいですね。」


ウッドデッキの見た目は木と変わらない。

なのにメンテナンスは楽。

これは流行りますよ。




キッチンの収納や食糧庫の説明を受けたあと、1階のゲストルーム、1階の客用シャワールームの説明を受けたが、作りとしては簡素でホテルのような作りだった。




「それでは2階に行きます。」



「はい。」


窓ガラスに囲まれて庭木がよく見える天然木の広い階段を登る。

無機質な階段と自然の柔らかな庭木がコントラストになっており、まるで美術館のような階段だ。




「この階段も素敵ですね。」



「やはり図面や写真ではわからない良さがありますよね。」



「えぇ、本当に素敵です。」



階段を登るとベッドルームがあった。



「ここがマスターベッドルームです。」



「ひっろ…」



「ベッドはシモンズのキングサイズが入ってます。」



「キングサイズってこんな大きかったですっけ?」



「アメリカサイズのキングなので、多分日本のキングの1.5倍くらいありますね。」



「ほぇ〜…。」

もうこんなベッド王族じゃん…。



「マスターベッドルームをこちらから抜けますと書斎に繋がってます。」



「おぉ。書斎。」



書斎はこじんまりとしていて落ち着きそうだ。



「棚は楽譜が入りそうな高さにしてるので、1段ごとのたかさを少し高くしています。」




「気遣いがありがたいです。大変助かります。」



「弓さんのおかげで、音楽家の引っ越しには慣れました…。」



「あっ……。」



「オーディオはソニーをご要望でしたので、ソニーのオーディオシステムを導入してます。

あちらのデスクに有線ケーブル出してますので、お手持ちのデバイスを繋いでみてください。

一応動作確認済みですが、不具合等ありましたらまた連絡お願いします。」




「わかりました。」


不具合あればとは言うものの、おそらく不具合なぞ出るはずもない。

そんな仕事をする人ではないと言うことはよくわかっている。




「この部屋防音も入れているので音量マックスでも隣のベッドルームにも響かないです。」



「ドア普通なのにですか?」



「そうですね。ドア普通なのにです。

まぁ普通と言っても防音扉なんですけどね。」



「最近の防音ドアってレバー下してロックするタイプじゃないんですね。」



「そうですね。あんまり見かけなくなりました。」



「なるほど〜」



「あまり考えたくないことですが、もし、暴漢が入ってきたりしたら戦わずに、この部屋に逃げてきてください。」



「暴漢…」



「この部屋に入ってドアノブを下げるのではなく思い切り上にあげればロックがかかるので、外からは絶対にこじ開けることはできないようになってます。」



「要塞じゃん。」



「割とセレブの間では常識かと…。」



「なるほど。」



聞けば壁の中にも鉄板が何枚か入っているので外から撃たれても中は何も影響を受けないらしい。





「あとこちら。床下空きますので、地下駐車場に直通の秘密通路になってます。

万が一の時はここから逃げてください。

予定されている通路ではないので梯子で降りる形にはなりますが。」




「…はい。」




「あと、この家、見えないようになってますが監視カメラたくさんついてまして、その全てをこの部屋でモニタリング可能です。


せっかく地下に逃げても地下にも暴漢がいたら意味ないですからね。

通報システムも屋敷のシステムとは別回線で構築してあります。

衛星電話なので、近隣一帯の通信がダウンしてもこの家はつながります。


おそらく他のお家もそうだと思いますが。」




「あ、はい。」


この人ミリオタなんかな…


「あと最後に。」



「まだあるの…」




「こちらのボタン押していただきますと…」


ピッと電子音が聞こえた。




「このように隠し戸棚が展開します。」



「どこかのスパイだと思ってる?私のこと。」



「アメリカは銃社会ですが、子供が触ると危ないですからね…。隠せるようにしなきゃ。」



あんた、目がキラキラしてるぞ。

絶対趣味だろ。




「続いてベッドルーム2の案内に参ります」



「逃げたな。」




そのあとはベッドルーム2、3、4とゲストルーム2、3を案内してもらった。



ベッドルームは3人に好きなように使ってもらおう。

ゲストルームは一応の体裁はすでに整っているのでそのままにしておくつもりだ。




「続いてお風呂です。」



「おぉ。ここ一番楽しみだったんですよ。」



「私もこの家の1番の売りだと思ってます。」



案内された脱衣所兼洗面所はまさしくホテルだった。

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