第148話 ルームツアー2



「これはすごい…。」




「でしょう。」




大きな鏡に、キッチンと同じく天然だとわかる大理石の天板。

色味もまとまっていてかなりスタイリッシュだ。




「この入れ物やフレグランスは?」



「我々からのプレゼントです。」



「なんと…!」


雰囲気ととてもよくマッチしているガラス瓶や、柔らかに香りを放つマドエレンのディフューザー。


見ただけでふわふわだとわかるチャコールグレーのタオル類。




「タオル類は今治で揃えました。

アメリカのタオルは固いからと、弓さんのおすすめです。」



「ありがとうございます!」



「こちら、浴室ですが、ガラス扉を開けて、ロックをかけると擦りガラスになります。」



「おぉ!」



中に入って実演してもらったが、確かに浴室の中は見えなくなっている。



「ちゃんとシャワーブースも分かれてますので使いやすいと思います。」



「アメリカの一般的なところだと割とバスタブの上にシャワーついてますもんね。」



「そうですね、そちらの方が一般的だと思います。

給湯システムなんかは日本のもの入れてますので使いやすいと思います。」



「やはり馴染みがありますからね。」



「この水回りやキッチンは前の方相当拘られてたので、我々としても工事が簡単でした。」



「そうなんですね。」



「次はウォークインクローゼットです。

こちらもクッチーナの手が入ってます。」



「すっご…」



脱衣所の横の扉を開けると、まるでセレクトショップのような空間に繋がった。

まさに見せる収納。

一流のセレクトショップの見た目をしており、衣装待ちの私の全ての服を入れたとしても到底埋まらない。


家族4人の服を全て入れたとしてもまだ余裕がある。



「こちらから入りますとストックにつながってます。」



「今ストックって言った。」



「えーっと、クローゼットのクローゼットです?」



「もうお店じゃん。」



「ですよね。」



絨毯張りのふかふかの床を踏み締めて我が家のセレクトショップを見て回る。



「こんなに素敵な家なのにどうして前の方は出て行かれたんですかね。」



「前の方もとても気に入ってらっしゃったんですけど、

子供も生まれて手狭になったとか。」



「手狭。」



「おばあさまも住まわれて家族三世代でお使いでしたので。」



「にしても広いですよね。」



「そうですね。邸宅と呼ぶに相応しいかと。」



「お金持ちの世界ってわからん。」



「ですねぇ。」

そんな世間話をしつつ、ルームツアーを進めていく。





「あらかた説明し終えましたので次で最後ですね。」



「ほう。わかりました。」

来る時に登ってきた階段をおり、リビングとは逆サイドに案内される。



「こちらコンサートホールです。」



「おぉ〜!!」



「前の方がヨーロッパ系の貴族の家系の方だったと言うこともあり、頻繁にこのお家でホームコンサートを開かれていたようです。

その名残で、このように割と立派なコンサートルームがあります。」



「これは素晴らしい…」



コンサートルームはかなりの大きさで、小規模な立食パーティーもできそうな作りだ。



「前はフルコンサイズのグランドピアノが置いてあったみたいですが、そちらは新しい引越し先に持って行かれたようです。」




「私もピアノは日本から持ち込む予定なのでそれは問題ないです。」




「よかったです。

音響もだいぶこだわられてたみたいなのでとてもよく残ります。


書類上は反響版を調整すると、最大残響2.0となってますので、人や物がもっと入れば少し短くなると思います。」




残響2.0というと満席時のサントリーホール並みだ。

この部屋で2秒も残響すると逆に音がぼやけそうなので工夫が必要かも知れない。




「よく響きますね…。

私自体が割と響くタイプなので、反響版を入れない方がいいかもしれません。」




「そうですか。

であれば角度を0に合わせると0.9くらいまで抑えられるようなので調整しておきます。」



そう言うと徐に壁際のスイッチを操作する。

するとウィーンというモーター音のような音と共に反響板が平らになり始めた。



「こんな感じです。」



「自動なんですね。」



「ですね。」



コンサートホールを見学したあとは練習室だった。



「こちらは練習室です。」



「練習室もあるんだ。」



「こちらは残響がほとんどゼロなので、レコーディングルームとして使っていただく想定です。

隣のホールからは搬入扉で繋がっているので、サイズ的に入りさえすればピアノを持ち込むことも可能です。」



「なるほど。」


確かに、現状の仮歌の録音やデモテープの作成などはスタジオで行なっていたが、こちらだとそうはいかない。


家に機材はあるのに正直持て余しているのが現状だ。



今後家でレコーディングできるようになったらかなり仕事の幅も広がる。

これは嬉しい誤算も知れない。



「以上になりますがご質問大丈夫ですか?」



「はい、大丈夫そうです。」



「わかりました。もしまた何かありましたらご連絡いただければと思います。」



「なにから何まですみません、ありがとうございます。」



「とんでもないことです。」



「内装の工事は完了しているようですが、あとは庭だけですかね?」




「そうですね。

来る時に目に入ったかと思いますが、まだ注文してる庭木や屋外駐車場の整備等終わってない部分ありますのでそちらの工事完了を待っていただく形になります。」



「わかりました。そちらも楽しみにしておきます。」




「よろしくお願いいたします。この度はご利用いただきありがとうございました。」



「こちらこそありがとうございました。」




用事が済むとさっと帰るあたり、仕事ができる人であることを改めて実感する。



それじゃ荷解きと荷物整理からやりますかね。

おっと、その前にみんなに着いた連絡しなきゃ。

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