第143話 家を買いました。
「これで完了ですかね…。」
「ですね。お疲れ様でした。」
弓先生が懇意にしているエージェントの方との打ち合わせを終え、家の購入資金の払込みとリフォーム代金の払込み、一部有価証券の処分などを行い、正式に家の所有権を手に入れた。
場所はイーストリバーの東側、ブルックリン北西部に位置するウィリアムズバーグ。
近年再開発が進み、地価の上昇が著しい。
最終的に今回は諸々込みで17億円ほどで購入できたが、もう数年もたてば、おそらく大学を卒業する頃には60億円でも買えるかどうか怪しいというところだろう。
「とてもいい買い物をされましたね、藤原さん。」
「そうなんですかね?私のことなのでまだあまり実感がありませんが…。」
「この地域は今からどんどん便利になります。
お店もたくさんオープンし始めてますし、マンションやホテルの建築ラッシュも始まってます。
藤原さんの家はその中でもわりと閑静な高級住宅街なので静かですし治安もいい。
私も引っ越すならウィリアムズバーグに引っ越すと思います。」
「なるほど…。」
「私は現地の不動産屋と引き続き打ち合わせを行なって随時報告します。
リフォームの進捗具合などの確認のために一度現地にお越しいただきたいのですが可能ですか?」
「可能です。いつごろにしましょう?」
「居住開始が今から2ヶ月後の7月ですから
6月ごろでいかがでしょう?
6月ごろであれば内装は完了しているので、荷物を入れていただいて結構です。
ある程度洋服などは持ってこられた方が良いと思います。」
「わかりました。
それでは6月初旬で予定組みますので、都合がよろしい日をまたご連絡ください。」
「承知いたしました。」
「よろしくお願いします。」
私はエージェントとガッチリと握手をしてその場を後にした。
その日の夜、家の進捗で報告するとみんなに伝えておいたので、ちゃんと3人の奥様が揃っていた。
「と、いうことで、お家の購入が完了しました!」
「「「おぉ〜!」」」
「今回かかったお金をざっと計算しますと、約17億円でした(端数切り捨て)」
「凄い金額だね…」
「一応みんなからもお金もらってるし、
そもそも投資の運用益も使ってるし、
実際私の持ち出しは10億くらいだよ?」
「それでも凄いよ!!」
幸祐里はどうやら納得しない様子。
「あのね、いまニューヨークって物価の上昇がすごいんだよ。」
「それは聞いたことあるよね?」
「うん、あるある。」
「私たちが買った家って、10年前だったら多分5億とか6億とかで買えたんだよ。」
「それでもすごいけど…」
「たぶん、この家は私が卒業する頃にはたぶん60億でも買えないくらい価値が値上がりするのね。」
実際これはあり得ない話ではなく、ついこの間もマンションの最上階のペントハウスが270億円で分譲された。
そんなことが普通にあるのがニューヨークなのである。
「ほう…」
「つまり不動産投資みたいな側面もあるってことよ。」
「なるほど…。」
「私が賃貸じゃなくて、購入にこだわったのもそういうこと。」
「そっか…」
「だから気にしないで。
みんなからは1人あたり5000万ももらってるし。」
「まぁそうね。」
「そんなことより楽しもう!」
「うん!」
その後、具体的な日程をみんなに伝え、一旦解散となった。
私は、家の中にあるアホみたいな大きさのウォークインクローゼットからリモワのスーツケースを5個ほど引っ張ってきた。
私はスーツケースが好きだ。
いや、リモワが好きだ。
マニアと言ってもいい。
私はリモワを収集しているが、
その全てが旧式のトパーズと呼ばれるもので、アルミニウム合金でできている。
84Lサイズのトパーズが2つ。
一つは普通のアルミ、もうは一つはステルスと呼ばれる、黒のリモワだ。
使えば使うほど黒が削れて中の地金が出てきて味になってかっこいい。
同じラインナップで64Lのものも揃えている。
そして機内持ち込み用のパイロットケースと呼ばれるもの。
まだ他にもクラシックフライトなど色々あるがそれは引越し時に持っていくこととする。
今回の6月の確認では、大学の用事も済ませたいので現地に1〜2週間は滞在する。
そのため、エージェントさんが言ってたようにある程度必要な荷物は全て持っていく予定だ。
流石にピアノは持っていけないので大学のピアノを使う予定である。
車はスカイラインを持っていく。
ベンツを持っていくとみんなの足が無くなるので、私しか運転できないスカイラインを持っていくことにした。
「さてと、こんなもんかな。」
クローゼットにあった靴やスーツ、シャツ、普段着、ダル着、時期的に使ってないので持っていけそうな冬服などを片っ端からスーツケースに詰め込んでみると結構埋まった。
あとは弓先生に渡すお土産、自分が使う楽譜、最低限のPC周辺機器を詰め込んで準備完了である。
あとは出発の日を待つのみ。
「思ったより早かったな。」
「だね〜」
今日は幸祐里の運転で成田に向かっている。
このでかいベンツが、後ろの席はスーツケースでパンパンだ。
今回はファーストクラスでニューヨークに向かうことにしたので預けられる手荷物は三つまで。
一つオーバーするので、2万円の超過料金を払うことになっているがまぁ問題はない。
いつもならおそらくビジネスクラスで行くのだが、ふと気になって、いつも決済に使っていたANAのアメックスに溜まっているマイルを見てみると軽く地球を4〜5周できそうなほどマイルが溜まっていたので、これ幸いとファーストクラスのチケットを入手した。
空港に着くと、車からスーツケースを下ろし、よく海外旅行のファミリーが使っている大きなカートにスーツケースを乗せ、Zカウンターという、ファーストクラスとダイアモンドメンバー用のチェックインカウンターの場所に向かう。
幸祐里とはそこのカウンターの入り口でさよならした。
ファーストクラスのカウンターってもう建物みたいなんだよね。
「じゃあ気をつけてね!」
「うん、ひと足先に現地でみんなが暮らせるように整えとくね。」
「よろしく頼んだ!!!!!」
「任された!」
ちょっと前まで、幸祐里は私が海外行くときは不安そうな顔をしてついてきたがったりしていたが、なんとなく年月の経過を感じて少し寂しい。
ラウンジの入り口で搭乗券を見せ、追加料金をマイルで払い、スーツケースを四つ預けてしまう。
あとは小さめのボッテガのボディバッグとリモワのパイロットだけ、という身軽な状態になると、まだ飛行機に乗る前なのに一仕事終えた感がある。
「さて、ラウンジ行ってなんか食べますか。」
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