第142話 晩御飯


「おっすおっす〜」




夜は先約があると言っていたひなちゃんだがわりかし早い時間から合流してきた。




「先約はいいの?」




「ちょっと諸事情あってバラしになったから、スタート間に合いそうだし早めにきた!

どう?髪色!変えてみた!」




「なるほど、そういうことか。髪色すごい似合うよ!」




ひなちゃんは最近は明るめの茶色の髪色だったが、どうやら今回は金髪にしたようだ。

もともと清楚系だが、ロシアの血も入っていることからわかるように少し西洋風の顔立ちのように見える。


そして肌は驚くほど白い。

白なのに緋色とは、これいかに?


とも思わなくはないが、ひなちゃんは緋奈子の名に恥じぬほど、心が熱い。

うちに秘めたる情熱は誰にも負けない。



そんなひなちゃんは金髪になったが、顔立ちとよくマッチしており、若々しさを感じる。



「緋奈子めっちゃ金髪似合うね。金髪憧れるわぁ〜。」



「幸祐里もしたらいいじゃん。多分似合うよ。」



「私したらキャラ被るじゃん。」



「「たしかに。」」




「今何の話してたの?」



「そうそう。9月からのアメリカについて。」




「たしかに、まだざっくりした話しかできてなかったね。

わたしたち最初からついていくつもりだったから、それに向けて普通に準備してたわ。」




幸祐里も緋奈子も、肝が座ってるのか、


かなりフットワークが軽く、世の中のことはたいてい根性で何とかなると思っている節がある。



「なるほどな。私は2人は普通にアメリカ来るって話だけは聞いてたから、

一緒に住める大きさで家考えてたけど、それで正解?」




「正解正解。

日本の法律上籍入れてないけど、わたしたちみんな夫婦だしね。家族じゃん。」



「そうそう。


なんか変な感じするのは確かだけどね。

踏み込みすぎるのはアレだから、あんまり経済事情とか口出しはしないけど。」




私たちの家はほぼほぼ独立採算制という形で

それぞれがそれぞれに財布を持っている。


共有財産という形でいくらかは毎月一つの口座に集めているが、その口座は投資口座なので、すべて投資に回している。



それぞれ3人がそこそこ稼いでいるので、

私の稼ぎに依存することもなく、思い思いにお金を使っている。



ゆくゆくは投資の方が凄い方になったら、島でも買ってのんびりしたいねという話は出ているが、すでにそこそこな島くらいなら買えるくらいの益が出ていることを彼女たちはまだ知らない。





ちなみに稼ぎで言うと私は彼女たち3人とは年収の0の数がおそらく1つか2つほど違うので、たとえ3人がいますぐ無職になったとしてもあまり問題はない。


YouTubeの収益に加えて、普通の作曲収入と継続で仕事を入れてくれているCMとそれらのダウンロード収益はとってもおいしいれす。



良い子のみんなは原盤権を売ったりしちゃダメなんだぜ。

私も最初の頃は原盤権ごと売ってたけど最近作る曲は全て事務所のものにしている。


あまり言われないが、今は原盤権も欲しいと言われた仕事については、普段の単価の100倍をふっかけている。


それでも欲しいと言われることもあるけどね。






さらに蛇足だが、弓先生の収入は推定だが

少なく見積もって私の年収からさらに0が2つか下手をすれば3つほど増える。


あくまでも色々経費を抜く前の会社に入ってくる金額ベースではあるけども。


だって歌手で一番稼ぐ人が180億円くらいだからね。

弓先生は、世界規模で歌手にも映画にもミュージカルにも曲を作って、さらに原盤権も売ってなかったらどんなレベルだろう。


やはりショービズの本場アメリカはえげつない。






「一応ね、向こうに4年住む予定だから、今の家は賃貸で回して、なおちゃんにお金が行くようにして、


私たちは向こうに家買っちゃおうかと思ってるんだよね。」




「うん、いいと思う。」




「賛成。ちなみに実季先輩も賛成だよ。

前から向こうに住むの賃貸より買うのがおすすめって言ってたし、もし私がいないときに家の話になったら戸建てを猛プッシュしてって言われてた。」




さすがは実季先輩である。

抜け目がない。




「賃貸は元々考えてなかったんだよね。持ってく荷物とかの関係もあるし。

あと弓先生の家もめちゃくちゃ広いけど、流石に他の人の家に四年も住むのはね。」




「うんうん。たしかに。」



「でも向こうって家買うのどれくらいするんだろ?」



「億はするんじゃない?」




「えっとね、今私が買おうとしてる家が14億円。」


我ながら口に出して金額を考えると、とんでもない買い物をしようとしていることがよくわかる。




「「………?はっ?」」


2人がハモる。


その反応になるのも仕方がないだろう?




「14億。」




「いやいやいや、えっ?」




「無理無理無理無理。」




「いやそれがそこまで無理じゃなくてね、頑張ればいけるっていう感じなのよ。


先生の紹介で、弁護士さんも不動産エージェントも先生が普段お仕事をお願いしてる方だから値切り交渉と手続きは破格でやってくれたし。」


2人からはこれで破格なのか?といった非難の目で私を見つめる。




「地獄みたいなローン組むの?」



「え、臓器売ってもそんなお金作れないよ?」

体が商売道具の私たちにとってはそれは圧倒的に悪手だぞ、緋奈子よ。




「えっとね、まず私の貯金を全部ぶっこむと残りが1億くらいなのね。」






「「まてまてまてまて。」」



「えっ?」



「そもそもそんな貯金あったの!?」



「そこがまず驚きなんだけど!」




「そりゃ溜め込んでますから。もう作曲も2〜3年やってますし。

楽曲提供した曲も軒並みミリオンですし。


ダウンロード印税も、出してる曲ぜーんぶ合わせると1億ダウンロード超えてますし。


最近は原盤印税も入ってきてますし。

カラオケ印税すごいことになってますし。

サブスクの方も美味しい思いさせてもらってますし。


たっっっくさん納税してますし。」




何度も言う。作曲は美味しいのだ。

一粒で何度も美味しい。


とにかくピアノに集中したい私にとって、

時間を確保するのにこれほど適した、そして勉強になる仕事はない。


だってピアノの練習がてら仕事ができるのだから。

おそらく1日の24時間のうち15時間くらいは仕事をしていると思う。平均で。




「あー言われてみれば…」


「納得…。」




「税理士さんから報告とかもらうけど、多分年間で会社に入ってくるお金はすごいことになってんじゃないのかな?10億くらいは入ってると思うよ。


社員私たち4人であとは契約してる税理士さん、弁護士さん、マネージャーさん秘書さんくらいだけど。


あ、秘書さんは弓先生のとこで普段はしてるからうちの人ではないね。」



「え、すご。」


「いや、作曲家ってすごいわ…」


「まぁ音楽は歌うよりも作る方が稼ぐんだよね。

だから私もプレイヤーとしての活動に集中できると言うか。」



「まぁお金の心配はしなくていいもんね。」



「そうそう。

多分あと数年は寝てても年間何億かは入ってくると思う。事務所に。」




「不労所得…!」


「甘美な響き!」




「で、最初の話戻るけど、


残り一億は投資口座のほう整理して捻出しようかなと。」




「あー、あったね…そんな口座。

天引きにしてたから忘れてたわ。」


幸祐里らしい豪快さである。




「多分月のお給料の半分位はそっちに回ってるよね?」


反面、ひなちゃんはしっかりしている。

簿記を持っているだけある。



彼女たちは私の事務所の所属なので、そのお給料もウチの事務所から出している。


「そもそも投資の方って利益出てるの?」


「あ、それ気になってた!」




「えっとね、去年一年間で出た利益が、、、」


バッグの中に入れっぱなしにしていた、報告書を見る。

利益出てるの?とか舐めるなよ幸祐里よ。

出ているに決まっているだろう。


いや、出ていてくれ…。




「「利益が…?」」




「えっと420万」


ん?思った以上に低くないか?




「ダメじゃん」


「じゃあ一億円ローンか。」


途端に逆に安心した空気が流れる。




「あ、ドルか、これ。」


私としたことが失敬。


ドル建ての表記を見落としていた。






「「…。」」




「えっと、420万ドル」




「4億2000万?」




「ひなちゃん、今円安だから一ドル150円計算だよ。」




「え、6億3000万!?!?!?」




「計算早。」


ひなちゃんは掛け算が異様なほど早い。




「それを一部やりくりして、処分とかしたら


ローン組まずに家買えそうだなって。」




「でも私たちも住むんだから、出せるだけ出すよ!」


「出す出す!」


話し合いの結果、1人5000万円ずつ、計1億5000万ほど出してくれることになった。


実季先輩不在だが良いでしょう、きっと。


先輩がごねたら、2人が宥めてくれるらしい。




「あ、ほんと?ありがとう。」


2人のありがたい申し出に涙が止まらない私。

涙出てないけど。




「じゃあ買おうよ!そのおうち!」




「どんなお家なの??」




「場所はニューヨーク近郊で、


割と弓先生の家も近いんだけど、昔の富豪が住んでたお家で、それが売りに出てたのよ。」




「「なんか凄そう…。」」




どうやら我が家は家を買うことでまとまったようだ。


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