第139話 リラクゼーション4


「おい!」



「、、、はっ!!!!」



「もう集合時間だぞ。」





なんてこった。

マッサージされ始めて、ほとんど記憶がない。

疲れていたのだろうか。



「もうそんな時間ですか。」



背術師のお姉さんに聞いてみると、相当頭が凝り固まってたらしい。


頭を使いすぎているとのこと。




「まぁヒロは音楽家だからなぁ。

頭使いすぎてるってのも納得だわ。」



「自分ではわからないんですけどねぇ。」



「そもそも脳みそは疲労を感じないからな。

あと若いうちから頭使いすぎると頭皮が凝り固まってハゲる。」



「!?

それは由々しき問題ですね…。」



まぁ頭髪に関して大きなこだわりはないが、

ハゲるのは避けられるのであれば避けたい。




「どうだ、だいぶスッキリしたろ?」



「はい、めっちゃくちゃ体が軽いです。

今ならゴルフでもかっ飛ばせそうだし、ピアノもすごいのが弾けそうです。」




「こんなことでパフォーマンスの最大化を狙えるのなら

もっと体労って、最高の仕事をするのが男ってもんだろ。」




「たしかに。

自分についてきてくれてる奥さんたちのためにも、もっとカラダ、労ってあげなきゃですね。」



「そういうことだな。」



霧さんと歩いて集合場所に向かってると、奥さんsがまっていた。



「あれ?霧さん、なんかうちの奥さんたち光ってないですか?」


「ハハハ、そんなわけで…あれ?なんか光ってる?」



「おそいぞー!」


「私たちどうよ!」


「とても充実しました!」




男子三日会わざれば…

というが、女子は三時間会わざれば…

ということらしい。



どう見てもツヤツヤしてるし、ホクホクしてる感じがする。



「なんか、3人ともつやっつやだね。すごくかがやいて見えるよ。」


「なんか人として充実した時間でした!」


「ほんと!日本でも施術受けたいくらい!」




「ところでヒロよ、

俺の会社ではフランチャイズでこのエステを展開しようと思ってだな。」



「この商売上手め…!」


このあとめちゃくちゃ店舗展開した。












「さて、そろそろ帰りの時間だな。」




私たちの荷物は既にバトラーの手によって船に積み込まれており、来たときとは明らかに荷物の量が異なっていた。


来た時はスーツケースひとつの荷物もなかったのに、沢山のエルメスやリモワ、グローブトロッターと言った名だたる名品が中身をパンパンにしてお土産の名目でプレゼントされていた。


なんと太っ腹な…。


この鞄に関してもどこまで本当かはわからないが、霧さん曰く余ってたからいいとのこと。


ひとみさんも、私たちそんなに荷物持って旅することないからとのこと。




一瞬考えたが、おそらく世界中に既に家があり、


そのどこにもたくさんの生活用品があるので、そもそも旅に出る時に荷物を持たなくて良いのだろうという結論に至った。


そもそもスケールが違う。






楽しかったこの天国のような時間もいずれは終わりが来てしまう。


悲しいような寂しいような、それでいて日常にもどれるという変な安心感もある。


なんとも不思議な感覚だ。




「本当にありがとうございました。


とっても忙しいのに、私たちのために時間を割いてくれて、その上こんなにも沢山の、普通じゃ経験できないような体験までさせてもらえて。」




「いいんだよ。


俺にできることは、周りのみんなに、自分しかできないことをしてあげることだ。


そこからまた俺を超えるような奴が出てきたり、俺には考えもつかないようなことを仕出かす奴が出てきたり、そんなことがあったらおもしれぇじゃんか。」




「霧さんの想像もつかないようなことってあるんですか?」




「まぁ、俺にはそもそも芸術系の才能なんか皆無だし、


そもそも俺じゃ想像もできない世界で生きてるんだよ、ヒロは。


頭の中で音が鳴り続けてるなんか想像もできん。」






そう、私の頭の中では音が鳴り続けてる。


いろんな音だったり、音楽だったり、その時々で多分違うのだが、気づいた時には既にこうだった。


私も絶対音感を持っているけど、


絶対音感にもいろいろなものがあり、日常の音全てが音階で聴こえる人もいるというが


私の場合はなんらかの音や音楽が常に鳴り続けている。




私にとっては別に不思議なことでもないし、


うるさいとも感じない。


別に眠れるし、不快だと思ったこともない。




気にしなければ気にならないものだ。




「逆に私は無音の空間というものが想像できませんよ。」






「そうなんだよ、想像できないんだよ。


だから、自分じゃ想像もできない相手と一緒にいるのは楽しい。




思いもよらなかった化学反応が起こされる。」




「たしかに。」




「だから、自分の可能性も、他人の可能性も


想像して限界なんか決めてんじゃねぇぞ?


世界はお前が思ってるより広い。」




「そうですね。」




「でも世間はお前が思ってるより狭い。」




「?どういうことですか?」




「まぁ生きてりゃわかるさ。」




「そうですか。


でもなんとなーく、なんとなーくですがちょっとわかるような気もします。


1人で悩まず、孤独を感じず、自らを顧みて


世界に羽ばたいてみたいと思います。


私の羽ばたきが霧さんにも届くように大きく。」




「それでいい。




よし、戻るか!」




「はい!」




「いっかい憧れてたんだよな、こんなふうに


後輩に先輩風吹かすの。」




「もうビュービューでしたよ。台風。」




「うるせぇ!」




でも私はきっと忘れないだろう。


天才実業家という言葉すら生ぬるく、


これから世界を席巻することになる実業家が、私のために時間を取ってくれ、


長い時間を共に過ごし、生き方、生き様をすぐ近くで見せてくれたことを。




そして、2人で見た、船のデッキから眺める沈んでいく夕日の美しいことを。








その後は来たときとは少し違う道のりで帰った。


船からとんでもない高級なヘリコプターで帰るのは同じだが、入国はちゃんと空港で行った。






まぁその入国も、羽田空港の片隅にあるヘリポートに着陸し、


着陸した先には既にバスのような大きさのロールスロイスが停車しており、運転手さんがドアを開けて待っていた。






車で案内されたのは見たことも入ったこともないような建物で、プライベートジェットの利用客専用の施設らしい。




そこで滞りなく入国手続きをした後、先ほどのバスのようなロールスロイスに乗り、再び我々が拾われた大学前へ。




「流石にチェンテナリオ回収したんですね。」




「そりゃ悪戯されたら困るからな。」




おそらくお付きのスタッフさんが回収したのだろう。




「ヒロは車は?」




「いえ、家に置いてあります。」




「せっかくのG63AMGなんだからしっかり走らせてあげなよ。」




「これからは機材積み込んだりとかもあると思うんでしっかり走らせます。」




「よろしい。じゃあ家まで行こうか。」




「ありがとうございます。」




霧さんは家までバスのようなロールスロイスで送ってくれて、


どこからともなく現れたお付きのスタッフさんによって、大量の荷物も我が家のエントランスまで持って上がってくれた。






「本当何から何まですみません。」




「いいってことよ。


こうでもしないと俺も休みとれないからな。


こちらとしてもありがたい。」




「そう言っていただけると助かります。」




「じゃまた、海外行くときとか連絡ちょうだい。


行けそうなら予定調整して駆けつけるわ。


でも流石に大統領と会談中とかだったらごめんね。」




「その辺は弁えてます。」


霧さんがいうと冗談なのかがわからない。


ちなみに、数週間後、この話は冗談ではなかったことがわかるのだがそれはまた次の機会に。






「じゃあまたな。」




「ありがとうございました。またお会いできるのを楽しみにしてます。」




「おう。」






怒涛のような卒業祝い旅行の日程が修了した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る