第138話 リラクゼーション3


「私の番かぁ…。」


とうとう最後の生贄であるひなちゃんが語り出す番となった。

ひなちゃんと幸祐里は吉弘くんと出会ったのがほぼ同じタイミングだ。



私は、入学式のタイミングで出会っているのでその点において少しリードしていた。



しかし、彼女たちは同学年という最大のアドバンテージを活かし、じわじわとリードを詰めてきた。




幸祐里は吉弘くんとウィーン旅行に行き、

海外旅行に関して、私は完全に後塵を拝す結果となっていた。


ひなちゃんはロシア旅行だったので私の少し後だった。



しかし、私の旅行は年末年始である。

あの地獄のデスマーチ事件において、私は吉弘くんと年を越した。

先生もいたが。




年を越したが、あれは旅行と言えるものだったのだろうか…?


仕事なのでは…?


確かに楽しかったが、先生の家だし、先生も死にそうになりながら仕事してたし

そういう意味では純粋な旅行は私はまだしたことがない。


悔しい…!


私が嫉妬の炎を弱火で燃やしていると、ひなちゃんが語り始めた。




「私の出会いは結構自分にとって衝撃的なところが多くて。」


「わかる、出会う時ってそんなもんだよね。」



ひとみさんが同調する。

ひとみさんの出会いも衝撃的だったのかな?





「まぁ私って自分で言うのもなんですけど、

いわゆる清楚系女子大生の最高峰にいるというか。」



「本当だよ。自分で言うな!」

みんなから総ツッコミが入る。



「まぁまぁまぁ…

まぁ、女子大生の頂点は私だとか思ってたんですけど、

大学入って周りよく見てみると、あれ、そんなでもないぞ?


みたいな。


たしかに、日本トップクラスであることは間違いないんですけど、同じくらいの人時々いるよね?ってなって。」



「ほう、井の中の蛙的な?」



「いや、どちらかというと、強者は強者を知るというか。」



「嫌味だな!」



「その中で出会った強者の中の強者が幸祐里であり、実季さんなんですけどね。」


ひなちゃんはやり方が強かだ。

自分も上げつつ、相手も上げてくる。



「で、まぁ、そんな優れた顔立ちなので、モテまくるわけですよ、昔から。

その過程で、男性に対して求める美のレベルがだんだんと上がってきまして。

ちょっとやそっとじゃまるで興味持てなくなっちゃいまして。」




「うーん、なるほど。と言っていいのかな?」



「そんな中で出会ったのがヒロくんでした。」



「見りゃわかるけど、顔に対する第一印象は?」



「実はあんまり覚えてなくて。」



「え?!?!」



「いや、まぁイケメンというものにそもそもあんまり期待してなかったというか。

それなりにモテてきた身としては、顔で判断するのはやめようと。

まぁヒロくんの顔見るようになってからは美の暴力に骨抜きにされてしまったので、私の血の一滴に至るまで全てを彼に捧げたいと思うようになったんですけどね。」




「初手ヤンデレムーブがすごい。」




「プロヤンデラーとして、

私が彼にヤンデレムーブしていることは決して悟られてはいけません。

あくまで心の中で。」




「え、怖い。」




「私の中で荒ぶるヤンデレ魂を必死に押さえつけて、彼のことは過去問で手懐けて。

まず、私としては共依存の関係に持ち込みたかったんですけど


そうは問屋が卸さないというか。うまくいかなくってそっからしばらく悩むんです。」



「というと?」



「ヒロくんはすでに依存するべき対象というのか、

のめり込むものがすでにあったんですよ。」



「なるほど、それがピアノか。」




吉弘くんは、私の演奏を聞いてすぐにピアノにのめり込んだ。

今の話を聞くとかなりタッチの差だったということがわかった。




「そうなんです。

全然思い通りに行かなくて、

暖簾に腕押し状態でまったくうまく行かなかったんですけど、


ヒロくん攻略のために観察してたら彼めちゃくちゃ頭いいことに気がついたんです。」




「ほう!」




「特に英語・スペイン語に関してはネイティブレベルで、

アカデミックな会話とかできるんですよ。

それで教授のスピーチ考えたりしてるの見て、『あ、このひとすごい。 』って。


それでしばらくしたら、

そんな彼がテストの過去問がない!って言ってくるわけですよ。」




「あちゃー」




「そんな抜けてるところがかわいいなって。

なんとかしてあげたいなって思って、

色々手配してあげて、彼は山を越えるわけですよ。」




「じゃあ進級の立役者だ!」




「そうなんです!

女って、男のこと可愛いなって思ったら終わりなんですよ。


もう何されてもかわいい。


沼です。沼に落ちるんです。」




これに関しては完全に同意せざるを得ない。

いわゆる推しが尊いというやつだ。

もう何されても許してしまう。


救いなのは吉弘くんがそこまでヤバい沼らせかたをしてくるかではなかったところ、かな…、たぶん。

いや、ヤバイか。




「で、ヒロくんが出演する文化祭のチケットくれて、一緒に回ったりして。

その文化祭でピアノしてるの見てまた激惚れして、人間として好きになっちゃって、


そしたらヤンデレとか言ってらんないレベルで好きになっちゃって。


なんか陳腐に思えたんですよね、相手を自分の思い通りにしたいとか。

私が彼がどこまで行けるのか見たくなったというか、彼の夢に乗っかるというか、


うまく言葉にできないんですけど、夢見させてもらってる感じに近いですかね、今は。」






「なるほどねぇ。


推しかぁ。

依存関係になるところを踏みとどまったの偉いね。」



「なんか、すごいんですよ、本当に。

行動力も発想力も、想像力も。


自分が隣に立った時に、彼の価値を下げる女じゃいけないって思って、これまで以上に自分磨きましたね。


頼られる女になりたいって。」



「なんかすごく素敵。」



「そしたらライバルこんなたくさんいて驚きましたけど。」



「まぁそれはね…」




私としても他の子たちの話を聞くと勉強になる。

なんか気も引き締まる。


あしたからもっともっと頑張んなきゃって。

吉弘くんの横に立てるってことは当たり前じゃないんだなって。



明日からまた頑張ろ!

でも今日はだらけさせて〜


マッサージ気持ち良すぎる…。

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