第133話 先輩の遊び方


朝食を食べると、すぐに目的地についた。






「あれ?ここ私が知ってる香港じゃない。」




「おっよく気がついたな。ここは島だ。セブンティーンアイランドという。」




「島?」




「そう、島。」




「なんの?」




「俺の!」




「「「……???」」」

あまりの話の大きさに頭がついていっていない。



「俺がリゾートを展開してるのは知ってるだろ?」




「まぁ、風の噂で…」




「そのリゾートとして、島丸ごと買い取ってみたっていう話。

大きさ的には大したことないんだけどな。

ちなみにこの島は17番目のリゾートアイランドだからセブンティーン島。」






私は頭を抱えた。



「先輩…。」



「日本で言うと、熱海の初島の4倍くらいか。」

あんたとんでもねぇよ…先輩。




「なんというか、スケールすごいですね…。」




「まぁ、運が良かったのよ。俺はとことん運に恵まれてるから。」




「そうなんですか…。」

そう言う先輩の顔はどことなく憂いを帯びていた。



「ちなみに、計画としては島丸ごとをカジノリゾートにしようと思ってる。」


「とんでもねぇよ、この人。

ハリウッドの悪役みたいなこと言ってらぁ。」




「統合型リゾートって言うんだけど、今日本でもそこそこ話題でしょう。」




「まぁ聞いたことはありますね、横浜とか。長崎とか。」


「あんな感じのものを作ろうと。」


「なるほど。」


「東洋のラスベガスってやつだな。」


「それはマカオでしょ」


「この島も近いから同じようなもんだよ。」



先輩たちと楽しくお話をしていると、このとんでもない大きさのメガヨットが滞泊する気配を感じた。

そろそろ島に上陸するのだろう。




「じゃ荷物待って降りるぞ〜」


先輩の先導で我々御一行は船を降りる。


馬鹿でかい港というよりはこじんまりしてるが停泊スペースの深さがとんでもない港を出るとすでに待機しているロールス。


そのロールスに乗り込んでみんなが案内されたのは関係者しか利用できないホテル。

島のてっぺんにひっそりと佇んでいる。





そのホテルを見た時、我々は思わず息を呑んだ。

それほどに洗練された建物だった。




「この建物はサウジアラビアの王族が昔住んでた宮殿をそのまま向こうから移築したんだ。


まぁ大きさは小さいんだけどな。

移築できるところだけ移築してきた。」




「どうりで…。」



「よし、このあと落ち着いたら海で遊ぼう!

車も用意してるからそっち使って下降りて海に来てくれ!」




「「「「はーい!」」」」




「その後はまた夜もパーティーだ!

そこでメインイベントを開催する!」




「おぉ!」



「メインってなんですか?」

私は恐れもなく尋ねた。




「メインって言ったらあれよ。」


「あれ?」


「カジノゲーム!!!!」


「!?!?!?」


「俺に勝てたら俺のコレクションカーを一つあげよう!」


「私が負けたら?」


「歌ってもらおうか!」


「地獄だ!」




私には絶対に負けられない理由ができた。


我々一向はあてがわれたとんでもない大きさのスイートルームに、ごくごく少しだけの荷物を置く。


バスルームに行くと先輩の気遣いであろう、高級なリゾート満喫セットが用意されていた。




肌触りの良いタオルや、水着。

おおよそ必要であろうものは全て揃っていた。

不思議なのは、そこにブランドのタグタグなものが一つも付いていなかったことだ。


先輩のことだから高級ブランドで揃えそうなものだけど…。





リゾートウエアに着替えて、ホテルの玄関に出てくると人数分のバギーが用意されていた。

こういうのもアクティビティの一環ってことか。

たまんないね。


先ほど集合場所に指定されたビーチに来てみると、その光景に圧倒された。


白い砂浜、透き通る海、広がる地平線。

こんな光景があると言うことに感動し、魂を洗われる気分だった。




「こっちこっちー!」


声がする方に目を向けると、寝心地の良さそうなビーチチェアと、馬鹿でかいパラソルの下で、みんな寝転んでいた。


ふとよそに目を向けると、そこにはバーカウンターもあった。




まさに、欲しいものはなんでもある

といった光景だった。





「とんでもないものつくりましたね、先輩」


「俺が欲しいものを集めたらこうなった。」


私もこのようなことが言える人間になりたいものである。

私もみんなに倣い、ビーチチェアに寝転び、海を満喫すると先輩がどこからともなくジェットスキーを引っ張り出してきた。




「海、入ろうぜ!!!!」




先輩のその一言から私たちの夏は始まった。


※日本ではまだ桜の開花宣言もされていません。






その後はジェットスキーで大暴れし、バナナボートで海に投げ出され、船で引っ張ってもらって波に乗るウエイクボードとやらに挑戦し、明日は全身筋肉痛だろうといったところで、一旦解散となった。




「温泉もあるからしっかり体温めてから晩御飯なー。」




「「「「はーい」」」」




面倒見の良い先輩の声かけにちゃんと返事をしてから我々は部屋に戻る。




3人の嫁と合わせて4人で部屋に戻ると

私に向けて用意されたであろうタキシードと

3人の嫁に向けて用意されたであろうドレスがハンガーにかかってクローゼットに収納されていた。




「これは…」


「着て…」


「集まれって…」


「こと…?」




幸祐里にはやわらかな黄色の春らしいドレス

緋奈子には名前のように目の覚めるような緋色のドレス

実季先輩には新緑の緑色のドレスだった。





「ちょっとこれ…」


「ん?どれ?」


緋奈子が持ってきたドレスを見てみると




「これウンガロのドレスよ」


「私のはヴェルサーチェ…」

実季先輩が呟く。


「私のは、ぼ、ぼー?」

そもそも読めない幸祐里。


「ボーディエ!それも超高級だから!」

詳しい緋奈子である。



「ほえー、そんなのがあるんだねぇ。」

私の知らない世界である。




「ヒロくんのタキシードは?」



「私のはアルマーニですね。着やすいです。」

そこそこかしこまった衣装を着る機会が多い私にとっては


アルマーニとはなかなか馴染みの深いブランドである。




「すっかり高級志向になっちゃって…」




幸祐里に揶揄されるが、見た目に気を使うことはそんなに悪いことではないと思う。

特に演奏家界隈では見られてナンボ感はまだまだある。

ネットなどで匿名の演奏家も増えたが、まだまだ魅せてナンボだ。




「うるせー!」




あえて反論せず、場を盛り上げておく。




「それじゃ、行きますか!」


女性陣の用意が整ったところで、先輩に指定された会食会場に向かうことにする。

次はどんな遊びを教えてくれるんだろう?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る