第134話 夜の部。


「扉が…」




「「「「でかい…」」」」






先輩にはRedRoseというボールルーム?にご飯が用意してあると言われて


来てみればめちゃくちゃでかい扉があった。




「あ、ヒロ君これ。」




「んっ?」




見てみれば、黄緑色の付箋が貼り付けてあり、

「押す」の一言のみ書いてあった。




「押してみようか…」



「うん…。」




よいしょっという掛け声と共に扉が開かれると、

そこはカジノルームだった。






「ようこそ!!!」


そしてキャストと呼ばれるディーラーや、黒服の方々に挨拶をされた。




「「「「ど、どうも…」」」」


「ようこそ、当カジノへ。」


空気に飲まれて圧倒されている我々の元へ、支配人、もとい、我らが偉大なる大先輩がやってきた。


「それでは、ここに、藤原ファミリー

卒業大祝賀会〜卒業祝いもあるよ〜を開催いたします!!!!」



先輩のよく通る声でそう告げられると、ホテル全体がどよめいたかのように喝采が上がった。


「!?今のは!?」



「俺の一言でタイミングを合わせて、ホテルの中にいる従業員全員に叫んでもらった。」


「やることが細かいね、いちいちあんたは。」



インカムで全従業員に声を届けてタイミングを合わせたらしい。



「まぁやってることはテストマーケティングみたいなものだから。」




「は、はぁ。」



「それでは!気を取り直しまして、

今からルールの説明をいたします!」




「「「「ルール?」」」」




「ここに、1人100万円分のチップがあります。

計算しやすいように、為替は無視して、ざっくり一ドル100円計算なので、一万ドルですね。」



どこからともなくバニーガール姿の女性がワゴンを押しながらやってきて、そのワゴンにはちょうどA4くらいの大きさで底の浅めな箱が乗っており、その中にはカジノチップのようなものが入っていた。

色とりどりあって、たくさん楽しめるように すでに崩してくれているみたいだ



「いまからこのチップを使って、どのゲームでも結構です、カジノゲームをしてもらいます。」



「ほぉ。」



「そのチップが最終的に100万円より増えていれば増えた分も含めて、全てお祝いとして進呈致します。」



「「「「おぉ!!!」」」」




「減っていれば、残念でした。

減った分しかお祝いは差し上げられません。」




「それでもすげえよ。」



「そして特別ルール!!!!」



「おっ。」




「ヒロは一回だけ俺に挑戦することができます。

ルールはヒロの方で決めてOK。


勝てば俺の持ち物で好きなものをひとつあげましょう。

なんでも。

船でも車でも家でも。」




「おぉ!!!!!」




先輩は気前が良すぎる。




「それでは!皆様どうぞお楽しみください!!!」




「「「「はーい!!!!」」」」





「じゃあ何から行く?」


「ここは王道のルーレットでしょ!」



「「「さんせーい」」」






私たち4人はルーレットの卓につき、説明を聞いた。

まぁなんのことはない。

よくあるルーレットだ。


一つの数字に賭けるのか、複数の数字に賭けるのか。


赤に賭けるのか、黒に賭けるのか。


大穴狙いの0か00か。






ルーレットといえば、

都市伝説としてまことしやかに語られるのが一つ。


ディーラーは任意の数字を狙ってボールを入れることができる。


というやつだ。






結論から言うとどうやら嘘っぽい。


なぜなら今私たちの目の前にいるディーラーはボールを投入する際にルーレット台の方を見ていないから。



「なんでも好きな数字に入れられるって聞いたけど、あれ嘘なんだね。」



「あ、それ私も聞いたことある。」




「でしょ?だって、台の方見てないもん多分嘘だよね。」



「ね。」




しばらく適当にかけていると、減ったり増えたりを繰り返し、最終的に15ドルほど増えたところで飽きた。




「費用対効果が悪い!」




「まぁカジノだから…」

そう苦笑いをこぼすのは実季先輩。




「つぎ!」



「「「よし、次!!」」」






我々が次に座ったのはバカラ。

プレイヤーとディーラー(バンカー)に2枚ずつトランプが配られて、足した数の下一桁が9に近い方が勝ちというシンプルなゲーム。




賭け方がこれも色々あるが


私はよく理解できなかったので、早々にチップを動かすだけの遊びとなった。




しかし意外。

ここで驚くべき適性を発揮したのが緋奈子。




最初の数ゲームでポンポンと勝ちを重ね、あっという間に2万ドルまで増やした。




「緋奈子その調子!」



「任せて!」



完全に観戦モードとなった私たちは緋奈子の勝負を固唾を飲んで見守っている。



緋奈子がカードを絞っている。

絞るとは、カードの端っこを少しずつ折って、なんの数字が出てくるのかを楽しむ遊びらしい。




「おっ、ナチュラル?だ。」




プレイヤー側に配られたトランプは7と2。

足していきなり9なので、無条件勝利である。



緋奈子がチップを置いているのは、もちろんプレイヤーに賭けることを表明する場所。


5000ドルを置いていたので、この瞬間2.5万ドル近くまで伸ばした。




「うちの嫁がしてる、勝負師の目が怖い。」




「緋奈子はああ見えて大胆なところあるから…。」


と、幸祐里。


「そうなの?」




「そしてヒキもあるし、勝負強さもある。」


と、実季先輩。


「なにそれかっこいい。」




嫁の新たな一面を発見した私だった。




そうこうしつつ、減ったり増えたり、増えたり減ったり。

現状の持ちチップ数が以下の通りである。



実季先輩はルーレットに戻り、ちょこちょこ勝負をしていたのだが、

手堅く少しずつチップを増やし、10000ドルから180000ドルにまで増やした。

一度戯れにかけたルーレットの00のマスが当たったのがいい仕事をしている。






幸祐里はブラックジャックが気に入ったようで、のめり込んでいた。


途中バカ勝ちしており、10000ドルから1000000ドルほどまで増やしたのだが、その勝ち分を溶かしてしまい、結局現在9000ドルほど。


ラスベガスでは、キャデラックで来てバスで帰るということわざがあるというがまさにそんな感じ。


ギャンブル向いてないからやめとこうな、幸祐里。




勝負師緋奈子はというと…






「プレイヤーに、オールイン。」




緋奈子は配られたカードを絞ることもせず、


さらっとめくる。




「…ナチュラル…!!!」




緋奈子は、その結果に感動することもなく、


冷酷な目をして、目の前に山と積まれたチップを一瞥する。

既に緋奈子のチップ枚数は計測不能状態だ。






「おい、ヒロ。あの子ウチで働かせないか?

俺より強いかもしれん。」




「まぁ、緋奈子が良いといえばいいですけど…。

霧さんより強いとかはないでしょう。」




この旅で今までよりグッと距離が近くなった私と霧島先輩だが、いつのまにか先輩のことを霧さんと言うようになった。


「霧さんといえばカジノ」というのは有名な話で、カジノの勝負でカジノを手に入れたという伝説すら持っている。




「俺のカジノゲームはイカサマみたいなもんだから。」


イカサマ…?


「ちょっとよくわかんないですけど…。」


「まぁ良いんだよ、じゃ後でちょっとスカウトさせて貰うぜ。」




「ウッス。

あ、あとそろそろ勝負してみたいです。」




「お!やるか!じゃあゲームは何にする?」




「ポーカーで!!」



「わかった、じゃあ今からセッティングするぞ!」



そう言って霧さんはどこかに手を振り、何かの合図をした。



「よし。行くか!」




「え?セッティングは?」




「今してるから大丈夫。今チップ何枚ある?」




「えっと、緋奈子に乗っかってバカラで増やしたのが


15万ドル分と、実季先輩に乗っかったルーレットの00が32万ドル分と、幸祐里と一緒にブラックジャックをやってた時に増やした分が10万ドル分くらいですかね。

全部で60万ドルくらいかな…?」





「お前も大概じゃねえか…。」




「恐縮です。」




「勝ち額がでかいときは事務所の振込みにするか、手持ちで現金で持って帰るか、いろいろやり方とか、しなきゃいけない申請とかあるから、一応聞いとけよ?

俺はあんま詳しくないけど、詳しい人インフォメーションにいるから。」




「あ、ありがとうございます。」




「よしついた。ここで勝負します。」




そうしてやってきたのは、先ほどとは明らかに異なる、

豪華でありつつも静謐さを湛えた、どう見てもハイパーVIP専用のカジノルーム。




「こ、こんな豪華な部屋…!?!?」




「そしてギャラリーもいる。サクラだけど。」




どうやらスタッフさんが、タキシードやドレスを着て場に花を添えて下さっているらしい。


セッティングとはこういうことか。




先ほど勝負を切りのいいところで切り上げてきた奥さん方も既に到着していた。


緋奈子だけ後ろにバニーガールがついていて、台車でとんでもない量のチップを運んでもらっている。


正面から見るとバニーさんが見えないくらいの高さである。




「よし、じゃあ勝負するか!」




「はい!お願いします!」






そうして、私と霧さんの勝負は始まった。

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