第131話 先輩大暴れ
「せっかくだからさ、1日でできること全部やってみよう。」
「い、1日でできること…?」
霧島さんはこれまで数々の無茶を、半ば神がかり的な豪運でなんとかしてきた男だ。
現に、どこに向かっているのかわからないこのロールスロイスは信号に一つも止まってない。
「そう、1日でできること。」
霧島さんがそんなことを言うと不安しかない。
「さぁ、着きました!」
気づけばやってきたのは六本木ヒルズ。
「あれ、ヒルズ?」
「ヒロはまだまだまだだね。」
よくわからないが、霧島さんにバカにされたことだけはわかった。
ひとみさんは楽しくて仕方ないと言うようにクスクス笑ってる。
案内されたのは関係者専用入り口。
エレベーターはすでに待機しており、係員さんらしき方がドアを開けてすでに待機している。
「どうも!」
「あ、ありがとうございます…。」
エレベーターに一行が乗ると、ひとみさんが持ってた小さなバッグから硬質なカードを出し、それをかざすと、自然と上昇を始める。
「ま、まさか。」
「そのまさかだったりして。」
行き着く先は最上階。
「ここからもう一踏ん張り!」
なぜかエレベーターから降りた後は階段だった。
「もう想像はついたかな?」
「うっすら…。」
「おっ、勘がいいなぁ。じゃ、行こうか。」
そこにあったのはヘリコプター。
7人も乗れる、アストンマーチンとエアバスが共同開発した超高級ヘリコプターだ。
「さすが世界的セレブリティ…。」
嫁たちがあたらしい世界のドアを開けてしまったようで衝撃を受けている。
「あれ?運転は?」
「それは俺だよ。」
「あっハイ。」
怖い。
恐る恐るヘリコプターに乗り込んだ私たちは、すぐに空の人となった。
「意外とうるさいですね!!!!」
「だろ?だから俺もたまにしか乗らないの!!!!」
エンジンの音がすぐ近くで聞こえるため、自然と声が大きくなる。
ヘッドセットがあるが、正直気休めにしかならない。
「で、どこに向かってるんですか!?」
「海!!!!」
「うみ?!?!?!」
30分ほど東京湾の沖合に向かうと、とんでもなくでかい船があった。
まさか。
「よーし!!着陸するぞ!!!」
「!?!?!?!?」
やっぱりか…。
ヘリポートが2つもついてるようなスーパーヨット乗ってる人、日本でもこの人くらいだろ…。
何事もなく私たちは船に着陸し、次は海の人となった。
「す、すごい…!」
「えっ、ホテルじゃん…」
「こんなのが浮くんだ…。」
これが美しい旅の道連れ3人の第一リアクションだった。
そりゃそうだろう。
私だってこんなとんでもないものに乗る機会があるなんて思っても見なかった。
「じゃ、とりあえずみんな部屋に行って荷物でもおろしてきて!
ゲストルームはたくさんあるし、ちょっとした服屋さんなんかも船の中にあるから服とかはその辺で仕入れてきてよ!」
「もうスケールがおかしいんよ。」
「ヒロ、女の子が旅に行くにはたくさん準備が必要なんだ。
なのに、突然旅に連れて行くと言うことは、これくらいの準備をして当然なんだぞ?男として。」
「そ、そうなんですね。」
私は旅というものを大きく勘違いしていたのかもしれない。
「いや、霧島さん。
多分そんなことできる人、ほとんどいないと思いますよ…。」
すかさず霧島さんを嗜める、我らが頼れる長女的ポジション。実季先輩。
「そうか?まぁそうか。」
「そもそもこの船、どこに向かってるんですか?」
「ん?香港。」
「やっぱり…。」
「ちゃんと持ってきたろ?」
「はい。一応全員分のパスポートは持ってきてます…。」
「それでこそ!えらい!」
そう、前もって霧島さんから全員分のパスポートを持ってくるように言われており、どこかしら海外に連れて行かれるのだろうなという予感はしていた。
「それじゃ、一路香港へ!」
「はい…。」
「じゃあお祝いだし飯食うか!」
「「「「おぉ!!!!」」」」
「日本から特別に俺の行きつけのお店の方にきてもらいました!!!」
霧島さんの行きつけのお店といえば、『霧島の行きつけ』という本が出るほどの有名店。
むしろ霧島さんの存在が有名店にまで押し上げたと言っても過言では無い。
つまりそれくらい霧島さんは食事にめちゃくちゃうるさい。
美味い飯が英気を養うという理念に基づいて行動しているので間違いなくはずれがない。
そもそも船に呼ぶ時点でかなり頭がおかしいんだけども。
霧島さんに連れられて、食事会場に着くと、そこにはなぜかボールルームがあった。
え?船の中だよね?
「さ!みんな好きなものを食べてくれ!!お祝いだから!!!」
その日の夜はめちゃめちゃ宴会した。
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