第127話 日常回
抱えていた仕事もひと段落し、今日はたまたまみんなで晩御飯を食べることになった。
ウーバーイーツで、各々がイチオシする飲食店の、さらにイチオシメニューを1品だけ家にデリバリーしてもらい、みんなでご飯会をすることになった。
そうそう、そういえば我が家にテレビが来た。
ひなちゃんが意外にもテレビっ子で、初任給でテレビを買ったためだ。
とにかく大画面のテレビが欲しかったらしく、買ったてはみたが、別で借りている自分の家に置き場がない。
ということで今は私の家にある。
ご飯も食べ終わり、食器も食洗機に入れたところで、一息ついてリビングのソファでゴロゴロ。
何の気なしにテレビを見ていると、いわゆる売れっ子にあたる作曲家たちが最近注目の若手を挙げていくという企画をしていた。
「へぇ、注目若手作曲家ねぇ。」
「ヒロ呼ばれるんじゃない?」
にやにやとしながら幸祐里がからかってくる。
「いや、これ収録だから。」
「あ、そっか。」
相変わらず少し抜けている幸祐里だ。
「ほら、でも名前は挙げられるかもよ?」
「どうだろ?あんま表立って熱心な活動はしてないからなぁ。」
からかう幸祐里と違い緋奈子はどうしても私をテレビに出したい様子。
「出たいなら私から番組に伝えとこうか?」
既にプレイヤーとして名前が売れ始めている実季先輩は言うことが違うね。
「大丈夫だから。」
ここだけの話この番組からのオファーは何度か来ている。そして、毎回断っている。
理由はまず第一に仕事したくないから。
そしてテレビタレントになりたいわけじゃないから。
実季先輩に淹れてもらったルピシアのお茶を啜りながらぼーっとテレビを眺める。
最近ぼーっとする時間もなかったなぁなんてしみじみ感じながら。
『そして!注目の第一位は!…』
テレビの声は空虚に耳朶を打つ。
『藤原吉弘!!!!』
はっ?
って
あっちぃ!!!!
思わずアツアツのお茶をこぼしてしまった。
ダイニングテーブルを拭いていた実季先輩の手は止まり、
テレビを食い入るように見つめ、
食後のデザートであるケーキをいよいよ頬張ろうとしていた幸祐里の手は止まり、
だらしなく口を開けてテレビを見つめ、
テレビ前の特等席を陣取り、最初から食い入るように番組を見ていた緋奈子は目をキラキラさせながらテレビ画面と私の顔で視線を行ったり来たりさせている。
『いやいや!ちょっと待ってくださいよ!
私と同じ答えじゃないですか!!!』
ドンという効果音とともに、また違う人が出すフリップに書かれた私の名前。
『やっぱり本物ってこういうことなんですよ。』
ドンドン!という効果音とともに、まあっ違う人の出すフリップに書かれた私の名前。
『まさかの満場一致で!!!……』
「ま、まぁさすが私たちの彼氏というか?」
おい、幸祐里、お前の鼻は天狗の鼻か?
伸びに伸びた鼻が見えるようだぞ?
「さすがヒロくん!!!!やっぱりすごい!
見てる人は見てるし、気づいてる人は気づいてるんだなぁ…。」
しみじみとさも当たり前のことのように受け入れる緋奈子。
「まぁ順当な結果よね。」
苦笑い気味にも、全面肯定の実季先輩。
「ま、まままm、まぁ、落ち着けよ。」
私の一言も聞こえておらず、
テレビなから垂れ流される私を手放しで褒める内容にいちいち感想を述べて、3人だけでドンドン盛り上がっている。
「こりゃまだ終わらんわ。」
そんな夜もある。
〜〜〜〜〜〜ある日のテレビ番組~~~~~~
「今日は今をときめく、売れっ子作曲家三名の方に来ていただいておりまーす。
まず、未来了介さん!」
「どうも〜。」
万雷の拍手で会場のお客さんが迎え入れてくれる。
「続いては山田総一郎さん。」
「今日はよろしくお願いします!」
「そしてまあお馴染み、準レギュラーみたいなもんですね!
蔦屋悪位置さん!」
「何をおっしゃいますやら。」
毎回のちょっとしたいじりに会場もほほえましく笑いが起こる。
〜〜〜
〜〜〜
「それでは、注目の第一位は!!
未来さん、お願いします!」
「ズバリ!藤原吉弘さんです!」
「…ね!
会場誰も存じ上げない。」
あまり有名ではない名前が出てきたことで会場は静かになっている。
「いやいや!ちょっと待ってくださいよ!
私と同じ答えじゃないですか!!!」
「なんと!!!!
山田さんも同じ!!」
「すいません…小倉さん。
僕も同じです。
やっぱり本物ってこういうことなんですよ。」
「まさかの3人一緒!!!
これで会場の皆さんもわかるでしょ。
どんだけすごい人なんか。
ほら、どよめいてはるわ。」
これだけの有名人がそろって一位の名前を挙げているということで
やっとすごさがわかったのか会場がどよめいた。
「たぶん、会場の皆さんも、曲はご存知だと思う。」
「今も詳しい方の中では結構有名になり始めて入るんですけど、
でも僕らの業界での彼の波は、多分それ以上だと思う。」
作曲家でもある未来さんが言う。
「そうかもしれんけど、お三方とも、もうアーティストやもん。」
「お前もやろ!」
「いやいや、もう。
もう僕は。僕なんかとてもとても。」
「こいつやらしーわ!!!」
グループのメンバー同士のじゃれあいに会場が盛り上がる。
「で、この藤原先生とお呼びした方がええんかな?
藤原先生はどこがすごいんですか?」
「え、藤原さんはですね、
まずセンスが独特なんですよ。」
「センス。」
〜紹介VTR〜
「はぁ〜。
なるほど。
もう既存の枠に囚われないんですね。」
「そう、あと噂なんですけど
ピアノで作曲されてるらしくて。」
「そーなんや!
最近だとデジタルで曲つくらはるセンセも多いらしいですよねぇ?」
「そうですね。
多分なんですけど、藤原さんはピアノで弾いた楽譜をそのままデータに起こして、微修正とかはデジタルでやってらっしゃる感じ。」
「ハイブリッド。」
「まぁ確証はないんですけど、あくまで、そういう印象を受ける!というだけです。」
「根拠はない、と。」
「実はですね、その話が二つ目に続くんですけど…。」
『何もかも全てが謎』
〜紹介VTR〜
「え、待って待って。
この人、こんな謎なん?」
「謎です!」
「何もかも?」
「何もかもです!」
「え、性別とかも?」
「表に出てないからわからないんです。」
「名前男やん!」
「作曲家は名前なんて適当ですから。
私悪位置ですよ?
他にも有名どころだとネコさんとかいますし。」
「あぁ〜。」
「曲聴いてみても、女性的でありつつも男性的だったり、男性的でありつつも女性的だったりっていうテクニックがいっろんなところにある。」
「ちょ、待って?そんなんおかしいやん。」
「そうなんです、だから、業界中が誰だこいつは!って探してます。」
「え、その藤原先生はいつからいたの?」
「そうなんですよ。
そこが問題で。
気づいたら突然この業界にいたんです。
華々しいデビュー、長い下積みがあったわけでもなく。」
「俺やったらぐぁーいって俺ですよー!!いうけどなぁ。」
「そうしないからかっこいい。」
「どーもすんまへんなぁ!!」
「で、藤原さんの代表作こちらなんですけど…」
♪♪♪
「あ!これスカイラインのCMや。
ねぇ!会場の皆さんもご存知の方多いと思いますけど!」
「この曲僕もダウンロードして移動車で延々リピートしてます。」
「うそ!俺もやん。」
「これ仕事終わった後の移動車で、夜の首都高とかで流れてきたらもうたまらんよな。」
「訳もなく涙出るよな。」
「たぶんこの曲が藤原さんのデビュー作です。」
「「「「えぇ〜!!!!」」」
「これも作曲家が表に出てないんですよ。
車の方が先にちゃんときてる。」
「でも我々の業界の一部では衝撃が走りました。」
「そうなんやぁ。」
「でね、何がすごいか、何が衝撃かっていうと、ちょっとキーボード弾きますね。
何がすごいかっていうと、まずコード進行がすごい馴染みがいいんですよ。
なのに毒が所々置いてある。」
「どく?」
「本来メジャーで進むはずなのに、ここ。
ここで一個余計な音が入ってるんですね。
これがあるとないとでは大きく変わってきます。」
「なんかこれだけ聞いたらマイナーコードみたいに聞こえますねぇ?」
「メジャーなのにメジャーじゃない。
でもマイナーにもなりきれないコードなんですよ。」
〜そもそもメジャーとマイナーとは〜
「じゃちょっと通しで行きますね。」
♪♪♪
「「おぉ〜!!」」
「で、これがさっきの余計なやつ抜くとこうなる。」
♪♪♪
「これはこれでええような…。」
「凡曲というよりはむしろ名曲のような…。」
「名曲ではあるんですけど、耳に残らないんですよ。
だからCMには不向きですよね。
車を見たらこの曲が浮かんで、この曲を聴いたら車のことが浮かぶ今の様子には結びつかないんです。」
「「「あぁ〜」」」
「そういうことですか!」
「そう。だからこれがデビュー曲の彼がすごいっていう話なんです。」
「なるほど!」
〜〜〜
「なんか今日藤原先生の話で放送終わったような気ィするわ。」
「まぁね、それだけ熱量が伝わったということで。
スタジオライブはこの曲です。」
「さっきの続きやん!」
「最後まで藤原先生。」
「それでは、また来週〜。」
「もう次は先生呼ぼ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます