第117話 帰国。


「なんか一年ぶりだとやっぱり懐かしい感じがする。」




1年というのは短くも感じられるが、案外長い。

一年あれば、小6は中1になるし、中3は高1になる。

一年という期間は案外長い。やれることもたくさんある。



一年前の羽田空港に居た私はやりたいことが見つかり、音楽の仕事もぽつぽつと入ってくるようになり始めた時期だった。


一年後羽田空港にいる今の自分は、音楽の仕事で生計が立てられるようになり、さらに成長したいという意欲に満ち溢れている。



「おかえり!」




私がゴロゴロとスーツケースを引いて空港の車止めまで出ると、おかえりと声をかけてくれたのは実季先輩。

三人揃ってお出迎えかと思いきや先輩だけのお出迎え。




「あれ?2人は?」




「2人はヒロの家片付けてるよ。

免許持ってるの私だけだから私が迎えに来たの。」



三人には家の合鍵を預けてある。

私が居ない時は自由に使ってと言い含めてあるのできっと自由に使ってくれてるんだろう。



「なるほどねぇ。ありがとう。乗りにくかったでしょ、これ。」



アメリカまで持ってきていた車とピアノはすでに空輸した。

ピアノは本日夕方に家に着く予定で、車は一足先に日本に着いており、先輩が荷受けまでしてくれたのだ。


「ううん、座席高いしまわりが見渡しやすいから乗りやすいよ。

でもアクセルとブレーキがちょっとシビアね。」


「まぁamgですから…。」

amgとはもともとメルセデスベンツのチューニングメーカーで、別会社である。


今は、この2社が合併したため同じ会社になり、さらにamgチューンが身近で人気な存在になったとかそうでないとか。




「でも、乗りやすいっちゃ乗りやすいよね。

後ろの座席はちょっと座り心地よくないけど。」




「でしょ?


G63のロングだから、後ろ広いし荷物たくさん詰めるし、いい車だよ。」


「へー、ロング。一つ賢くなりました。」


そんな車談議をしていると自宅マンションに着いた。


「お疲れ様でした〜。運転ありがとうね。」


「ヒロこそお疲れ様。荷物持とうか?」


「まさか。女の子にそんなことさせられないよ。スーツケースとバッグしかないのに。」


「そりゃそうか。」




エントランスに入り、コンシェルジュさんに挨拶すると、おかえりなさいと笑顔で言われた。


なんか家に帰ってきた気がするわ。




エレベーターに乗って我が家の玄関を開けると、いきなりクラッカーの発砲音が!

撃たれたかと思ってびっくりすると

ひなちゃんと幸祐里がニヤニヤしながら立っていた。


「「おかえり!!!!」」


「びっくりさせるなよ……。ただいま!!」



荷物を部屋に置いてリビングに行くと、部屋が飾り付けしてあり、ダイニングテーブルの上には豪勢な食事が!!


「え!?」


「私たち三人で作りました!」


「記憶を辿りながらヒロの好物をリサーチして!」


「今日はパーティーです!!」


「おー!!!ありがとう!!!!!」




そのあとはやんややんやの大騒ぎ。

宴も酣といったところでピアノが調律師さんと共に着荷した。

防音室に運び込まれたピアノを調律師さんと組み立てて、調律してもらい、セッティングも私好みにしてもらった。


調律師さん曰く、だいぶしっかり弾き込まれてきて、ピアノが馴染んできてこれからは4ヶ月に一度くらいのペースで調律すれば大丈夫とのこと。




「ありがとうございます!」


「いえ、私もこのピアノに関わることができて幸せです。ありがとうございました。」


と、いうことで。

音楽家がいて、おいしいご飯があって、パーティーときたらきまってるよね?

ピアノ弾きますか。



「よし、じゃあパーティーの締めはピアノ弾こうかな!」


「よ!待ってました!」


「キャーステキー!」


「大統領!」




一曲目は特徴的な和音から始まる英雄ポロネーズ。

ある意味私が音楽にのめり込むきっかけとなった曲のうちの一つ。

私の大事な曲だ。


渾身の一曲を弾き切ると万雷の拍手が。

三人しかいないけどね。


「なんか、同業の先輩の前で弾くなって緊張するね。」


「もうヒロの演奏は私がどうこう口出しできるレベルの演奏じゃないよ。

もう演奏家としても音楽家としても一人前。」


「先輩にそういってもらえるとは光栄です。」


「音楽家どうしでもそういうのあるんだなぁ。」


「ね、私たちにはどっちもすごいってことしかわかんなかった。」


「わからなくていいよ、私の演奏だけ楽しんでて。先輩のはたまにでいい。」


「あ!言ったな!?!?」

聴衆が三人だけのコンサートは続いていく。

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