第114話 本番
~~~~~~side ???~~~~~~
ついた…!
ニューヨークについた!!!
ついにやった…!
やりきった!!
そして私はニューヨークに来た。
そう、ヘマをしてしまった期末テストの補講をなんとか乗り越え、
死に物狂いで頑張った結果、補講は思ったよりも早く終得ることができそうなことに気付いた。
そこで私は思った。
あれ?これ今日の最終便乗れば間に合うんじゃね?と。
いや、今日の補講次第だけど、今日の補講を巻きで終わらせて、
再テストとかにならないような高得点取れれば間に合うかも…?
泣く泣く我慢したヒロのニューヨーク公演に間に合わせることができそうだということに気づいた私は早かった。
まずはママに電話。
とりあえずできる手は打っておきたい。
行けるかはわからないのだけど、とりあえずパスポートと下着何着か持ってきてくださいとお願いした。
そこでまず厳しく問い詰められたが、何とか誤魔化して通した。
お昼にママからパスポートと最低限の下着類を受け取って、いざ午後の補講が始まってみると補講最終日の今日は案の定テストのみ。
これは勝つる。
補講のテストも満点で終えることができ、再テストにはならずに少し早く解散できた。
下着以外の着替えも持たず、大学に持ってきていた最低限の荷物、財布と携帯と充電器のみ持って空港にタクシーを走らせる…、よりも浜松町までタクシーで行ってそこからモノレールに乗る方が早そうだったのでそうする。
チケットは道中で予約した。
運よくエコノミーがすこしだけ余っていたので迷うことなく予約&決済。
言い忘れた(言わなかったとも言う。)のでママには2〜3日帰らないとメッセージ。
空港の長いエスカレーターを駆けのぼって、その前にその横にある緑のコンビニでメイク落としを買うのも忘れない。
飛行機に飛び乗った後は、お化粧を落としてから爆睡。
この思い立った時の行動力は誰にも負けないと思う。
緋奈子にだけニャンニャンさせないんだからね!!
私も混ぜなさいよ!!!!!
以上の私情を多分に含んだ怒涛の移動を経て、やってきたニューヨーク。
緋奈子にも連絡しなきゃ。
「ニューヨークきた。迎えに来て。空港の到着ゲート」
「ほんとに!?!?絶対間に合わないと思ってた。すぐいくね。」
緋奈子優しい…。
緋奈子しゅき…。
ファーマシーなどで必要だと思われる諸々を買い込んでしばらく緋奈子を待つ。
「幸祐里〜」
「緋奈子!!!!」
緋奈子を見つけた私は彼女を抱きしめる。
「同じ抱きしめられるならヒロくんがよかった…。」
「私だって同じ抱きしめるならヒロのほうがいいわよ。」
「「間違いないね。」」
緋奈子と合流できたので、ニューヨークを軽く観光して、いよいよヒロの公演に向かう。
地下鉄に乗り、着いた会場は思ったよりも広く、いかにもニューヨークといった感じの都会的なガラス張りのレンタルスペース。
洒落てる~…。
外から見てもわかるのだが、既にお客さんは結構入っている。
そして、お客さんの層が幅広い。
マダムといった感じのセレブ風な女性もいれば、いかにもライター風の業界関係者らしき人もいるし、子供連れのママさんもいるし、日本でも見たことあるような業界人?もいる。
見たことあるような人は人違いだったらすいません。日本の有名な自動車会社の重役さんにそっくりなんです。
あとなんか有名な舞台俳優さんいない?
あの有名な歌劇団のさ。
まぁでも、まさかこういうとこ来ないよね。
時間が経つにつれて会場にはさらに人が入って、パンパンになった。
「すごい人出だね…。」
「私もこれほどまで人が集まると思わなかった…。」
緋奈子とひそひそ話をする。
時間になったところで、ガラス張りの空間に暗幕が下され、外からの光を一切遮断される。
会場のざわめきが収まり、天井から降ってくる光の量も少なくなり、ほぼ真っ暗になる。
そして始まるコンサート。
ヴィオラの音が最初に響き、チェロが乗り、ピアノとヴァイオリンが乗ってくる。
思わず息を呑むような一体感。
これから始まる何かが好奇心を刺激する。
映画の始まる前のようなワクワク感を感じさせる序章が終わると誰かが前に出てきて、その人にピンスポが当たる。
ヒロだ。
「今日はお越しいただきありがとうございます。
本日は皆様を二次元の世界にお連れいたします。
どうぞよろしくお願いいたします。」
会場ははてなの嵐に包まれた。
二次元…?
しかし、次の曲が始まるとすぐに意味を理解した。
天井や壁にプロジェクションマッピングで映像が投影された。
銀河だ。
前、ヒロに言ったことがあるけど、なんかヒロの音って星みたいなんだよね。
すごくイメージに合っていると思う。
今回の編成は5人組(カルテット)と呼ばれる編成。
ヒロと、彼ら五人によって生み出される圧倒的な音圧がただの音としてではなく、圧倒的な現実感を持って私たちを包んだ。
真っ暗な空間と光と生音が相まって、圧倒的な没入感をもたらす。
音はもちろんのこと、そもそも物語もめちゃくちゃよかった。
モチーフは星の王子様みたいな話なのだが、一つ一つの感情がリアルすぎて。
没入感がすごすぎて、主人公の悲しみの場面では涙を誘うし、コミカルな場面では、会場を笑い声が包む。
クライマックスのシーンでは嗚咽も聞こえた。
セリフもあるわけではない。
でも宇宙の中に入るみたいで、生身の感情が直接脳に入ってくるみたいで、
新しい概念の音楽を見せられている感じがした。
演奏が終わるとまたヒロが出てきた。
「いかがだったでしょうか?
きっと楽しんでいただけたのではないでしょうか?
それでは、また皆様とお会いできる日を楽しみにしております。」
ピンスポが消えるとまた会場は真っ暗になり、アウトロと共に天井にエンドロールが流れる。
それがめちゃくちゃかっこよかった。
エンドロールが終わり、会場に電気がつく。
すると演奏者はもういない。
まるで私たちは夢を見ていたようだ。
会場では電気がついた後もしばらく誰も動けなかった。
「めちゃめちゃよかったね。」
ぽつりとひなちゃんが言う。
「うん、すごかった。
最後誰もいないステージがなんか鳥肌立った。」
「わかる!!なんか背筋ゾクゾクした!」
「ね!かっこよかったわぁ〜。」
「ほんとに!でもなんか有名になっちゃうのかな…ヒロ。」
「有名になったところでもうそれは遅いか早いかの違いしかないよ。
いずれこうなってた。」
「たしかに。」
「じゃ楽屋挨拶行こうか。」
「いくー!!!」
お姉さんっぽいひなちゃんにはほんとに助けられっぱなしだよ。
関係者席に座っていた私たちは近くの係員さんに聞いて楽屋に向かった。
すると楽屋には既に何組も先客が。
さっき見たライター風な人もたくさんいて、取材申し込みが殺到している。
ヒロは心底めんどくさそうな顔をしているが、私たち二人の顔を見た瞬間目を輝かせて、ライターさんたちに言った。
「わかりました!取材受けますので、事務所に連絡してください。
こちら連絡先です!」
そうして彼は名刺を渡しているが、私たち二人は顔を見合わせて笑った。
あの名刺に書いてある電話番号は日本の番号だし、その電話が通じるのも日本時間の昼間の1時間だけ。
ほぼほぼ取材を受ける気がないのがわかったからだ。
「たぶんヒロくん、変わらなさそうだね。」
「そんな気がする。」
ライターさんたちは名刺を大事そうにノートに挟んで、一人、また一人と楽屋を後にする。
そうして、手が空いたヒロは私たちに手招きする。
「今日は来てくれてありがとう。幸祐里も間に合ってよかったね。」
「こちらこそ呼んでくれてありがとう。すっごかったよ!ね!」
「うん、すっごかった。とんでも無く良かった!!!!」
「ね!なかなか新しい試みでしょ?
舞台芸術やってる友達にシナリオ描いてもらって、知り合いのMITの人にプロジェクションマッピングやってもらったの!」
「思ったより世界最高峰の技術詰まってた。」
「でしょ?何の気なしにみんなに話したらえらい乗り気で。」
「すごいなぁー、世界の第一線だ…。」
「たまたまね。」
そんなふうに今日の話をしたり聞いたりしているとチェロの人がヒロに話しかけた。
「ヨシ、今日はどうする?」
「今日は友達来てるから、お前らでやってくれよ。」
「ほんとか!!!やったぜ!!!!」
???
これから打ち上げか何かだろうか?
だとするとなぜ喜んでいるのだろう?
「ん?お嬢様。
何で打ち上げでヨシがこないのに喜んでるの?って顔してるな。」
「えぇ。どうしてかしら?」
「これは打ち上げの誘いじゃないんだ。」
「え?」
「いつも俺たちは演奏会が終わると、その熱が冷めないうちに大反省会をやってる。」
「大反省会。」
「まぁはやい話がヨシのシゴキがあるってことだな。」
「シゴキ」
「最初の頃は怖すぎて会場から外に出られなくなるくらいまで追い込まれたもんだ…。」
「追い込み…」
あ、この人目尻から涙が一滴溢れた。
「というわけさ。今ではそのシゴキも楽しめるようになってきたけどな。」
「私はお前にはもっと危機感感じてもらわないと困るんだが。」
「いやいや、すいません…ホント…。」
「まあそういうわけだ。よろしくな。」
ヒロってそんな怖いんだ…
「「「うぃーす」」」」
「よし、二人ともご飯行こう!!」
「「はーい!!」」
せっかくヒロが時間開けてくれたからしっかりいろんな話しよ!
楽しみだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます