第101話 日本を発つ日。
「今日か。」
一応の日本最後の日、別にまたすぐ帰ってくるつもりなのだが、の目覚めは思ったよりもすっきりとしたものだった。
九月一日の向こうでの入学式に備えて、到着予定日は3週間前に設定した。
もちろん現地に慣れるためという意味もある。
そして、やっぱり愛着もあるので車はアメリカに持っていくことにした。
持っていく期間が一年以内であるならば、日本の登録のままで海外で乗ることができるという制度を見つけたからだ。
輸送の流れとしては前もって申請していた国際ナンバープレートを受け取り、取り付け、そのまま空港に向かい運送会社に引き渡して空輸してもらって、現地で私が引き取るという形だ。
向こうでは車が二大の生活になる。
「起きるか。腹減った。」
朝食をいつも通り食べる。
ご飯を食べながら、頭の中で家やその他もろもろに関する手続きが合ってるかどうかを反駁する。
水道電気は今日までの契約で明日から止まるようにしてもらった。
ガスは立ち合いが必要だったので昨日済ませた。
冷蔵庫の中はすでに空っぽにしているため、今食べているこのご飯も、
昨日前もって買っておいた朝食なのだが。
食べ終わると身支度を整える。
飛行機の時間が長いので、ゆったりとした寝やすい服にした。
なんとなく明日からここに帰ってこないと考えるとソワソワしてくる。
忘れ物はないか、送り忘れはないか、すごく気にしてしまう。
いよいよ、大きな銀色のグローブトロッターのスーツケースの最後のパッキングを終え蓋を閉める、鍵をかける。
トロッターのスーツケースはこの留学に合わせて購入した。
安い買い物ではなかったがずっと使えるものだ。
「わすれものは…ないよな?」
なんとも不安だが、気にするとずっとこのまま何なりそうなので諦めて家を出る。
その際ブレーカーを落とすのを忘れない。
「じゃ、いってきます!」
家を出て、ゲレンデに乗り、一路JAFへ!
国際ナンバープレートを受け取り、装着するためだ。
JAFでの作業はつつがなく終了して、新しいナンバーで空港に向かう。
そして空港に併設されている運送業者の会社に行き、車を預ける。
輸送先はニューヨーク、JFKエアポート。
そう、私と同じ空港なので、私が到着した後しばらく待てばそのまま乗ることができるという算段だ。
場合と便によるがわたしよりも先に着いている可能性もあるので、現地に着いたらまず空港の運送会社の事務所に行って欲しいと言われた。
自分としてはまさかそんなことできると思わなかったが、プロの方がいうんだからそうなんだろう。
本当にありがたい。
車を預け終わり、我が身ひとつとなったところで、空港のロビーに入る。
出発は今日の夕方の予定なので時間はまだ十分にある。
何故こんなに早くに空港に来たのかというと…
「ヒロくんお疲れ様。」
「吉弘おつかれ。」
この二人が私を早くから呼び出したのだ。
「時間早すぎだろ。」
「いやぁ、会えなくなっちゃうからさぁ。」
ちょっと照れながらそんなことを言うのは幸祐里だ。
彼女は留学すると息巻いていたが結局審査に落ちた。
おそらく成績的には問題無かったと思われるが、横車を押すには少し力が足りなかったようだ。
「そうよ、もうそう簡単に会えないんだから。」
そういうのはひなちゃん。
ひなちゃんはニューヨーク月一で行くねと言っていたがどうなることやら。
日常生活の全てをカード払いにして、マイルを溜めまくってニューヨークへの往復航空券を買うらしい。
というか、この二人知り合いだったんだよな。
全然知らなかった。
このまえのフグ事件でやっと知れたよ。
ちなみにひなちゃんはカニをご所望だったのでカニ食べに行きました。
なんにせよ、お見送りにきてくれるのは本当に嬉しい。
二人とも忙しいだろうに。
でも私も、日本で最後に見る人の顔はこの二人が良かった。
一番仲が良くて、一番かわいい二人。
そのあと三人でいろんなことを語らう。
幸祐里と二人でウィーンに行った話や、ひなちゃんと二人でロシアに行った話。
話せばキリがないほどの思い出をよく一年で積み上げられたなと思う。
楽しい時間が過ぎるのはあっという間なので、すぐにギリギリの時間になった。
「じゃあ、そろそろ行くね。」
名残惜しいけど、行かなくちゃ。
「うん、気をつけてね。」
「いってらっしゃい!
帰ってくる時は真っ先に連絡すること!」
「ちょっと!私と先に行くんだから!」
「はいはい。わかりました。
また三人でご飯でも行こう。」
「「しかたないなぁ」」
幸祐里はこういう場面で泣きそうだなと思っていたが、
意外と堪えている。
そういうところに成長を感じる。
「じゃ、いってきまーす。」
私は努めて何でもないように出国ゲートをくぐる。
手を振る二人を背に感じながらわたしは国際線ロビーを後にする。
〜〜〜〜~〜side 幸祐里and緋奈子~~~~~~
「いっちゃったね…。」
「うん。」
わたしは幸祐里ちゃんの背中をさする。
「ほら、泣かないの。せっかくこらえたのに。」
幸祐里は涙を流している。
よく堪えられたね。
「だって…。」
「泣きたいのは私もなんだよ?」
「そうだけどさぁ…」
私もまさか最大のライバルたる幸祐里ちゃんとこんな風に仲良くなってしまうとは思わなかった。
お互いヒロくんを譲ったりシェアしたりするつもりは一切ないし、引く気もないのは当たり前なのだが、当のヒロくんが押しても引いてもびくともしないのでこうなってしまった。
つまり、一時休戦といった状態ね。
抜け駆け、出し抜きなんでもありだけど。
「今はヒロくんの門出を祝いましょう。
美味しい物でも食べに行くわよ!」
「はい…。」
私たちは空港を後にした。
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