第81話 ロシアへ。2

空港を出るとひなちゃんがさらに輝き始めた。

今からホテルに行くので、ひなちゃんが空港に待機していたタクシーを捕まえて

ホテルの住所を伝える。




「このホテルまでお願いします。」




「はいよー。


お嬢ちゃんロシア語うまいね!」




「少しロシアの血混じってます。」




「ほぉ!道理で!」




ホテルに着くまでは、ひなちゃんがロシア語でずっと運転手さんと会話してた。

後からひなちゃんに聞いた翻訳だとそんな感じの会話だったらしい。




ホテルに着いたのでお金を払おうとすると受け取ってもらえなかった。




「ロシアを楽しんでっておっしゃってますよ。

ここは大丈夫です。


お礼言ってあげてください。」




「スパシーバ!」




運転手さんは満面の笑みでサムズアップしていた。




「あ!血の上の救世主教会!」




「めっちゃ近いね、後で行ってみよ!」




「うん!」




ホテルのチェックインはひなちゃんがしてくれた。

お金は既に予約の時に支払っているので問題はない。




こう、ロシア語でテキパキっとされるのをみると、惚れてしまいそうになる。


頼り甲斐ありすぎ。カッコ良すぎ。




ボーイさんに案内されて最上階のスイートに案内される。




「うわぁ、すごい。」




「これは…。」




さすが歴史のある高級ホテルだけあって、クレムリンの中かと思うほどゴージャスな内装だった。


バロック形式というのだろうか、伝統的な建築様式で、内装の色はやはりというべきか赤とゴールドが多いような気がする。






ピアノはしっかりスタイン。

破格の待遇だ。

ひなちゃんには言ってないが、さすが高値の部屋なだけある。




「ねぇ、吉弘くん、ほんとにあの値段だった?」

少し硬い声色のひなちゃん。



「えっ?」




「本当に私に言ったあの値段だったのかなぁって!聞いてるんだよ!!」


やばい、そうとうお怒りかもしれない。

でも、高いホテルだからって喜ばないところ素敵…。




「う…ほんとは…」




「ほんとは?」




「その10倍くらい…。」




「ッーーーーー……。」


ひなちゃんが卒倒した。

ひなちゃんがロシアの地でぶっ倒れた。

いかん、今ひなちゃんに倒れられるとどうにもしようがなくなる!


すかさずひなちゃんを抱き起こす。



しばらくすると落ち着いたのか、目が覚めたひなちゃん。




「ねぇ、なんでそんなことするの?


払えないよ?私。


あの時見たホテル、そんな値段じゃなかったじゃん。」




そう、2人で部屋をネットで探した時に表示されていた値段と、今私が伝えた正しい値段は明らかに乖離している。


それはなぜか。




「あのページで書いてある値段は、最低額。


私たちが今泊まってるホテルは最高額の部屋…という…。」




「!?!?!?

このホテル最安値の部屋であんな値段するの!?!?」




「五つ星ですから…。」




「大学生が泊まるようなホテルじゃねぇ!!」




「まぁその辺はね、うまくやってますから。

ね?もうこれ以上その話はナシ。OK?」




「怖くて問い詰められないよ…。」




「だから楽しもう!精一杯!

このホテル代とかは、通訳代ということで!


たくさん迷惑かけるので!」




「そうね…。

わかった、もう過ぎたことはしかたないし。

悪いことじゃないんだし、受け取るね、ヒロ君の厚意。」




「ありがとう!

じゃあ、とりあえず飛行機長かったからお風呂入ってさっぱりしよう。


お先どうぞ!私ピアノ弾いてる。」




「じゃあ言葉に甘えて…。」






もうピアノが弾きたくて弾きたくて仕方がなかった。

スタインが部屋に置いてあったのは嬉しい誤算だ。



タブレットにはロシアの作曲家の楽譜を山ほど詰めてきたので

それを片っ端から弾いていく。

弾きたいが勝ちすぎてつい没頭してしまった。




「ふぅ…。」




「気は済んだ??」




「!?!?!?」




「さっきからずっと素敵な演奏聴いてたよ。

ヒロ君声かけても全然返事がないから。」




「ご、ごめん…。」




「でも、ヒロくんのピアノ独り占めにできて、すっごい幸せな時間だった。


ありがとう。」




「えへへ、そう?


こちらこそ聴いてくれてありがとう。」




「じゃ、お風呂入っておいで。」




「はーい。」






お風呂もまた広くてとんでもなく素敵なお風呂だった。

サウナまでついてるし。






風呂に入ってさっぱりすると、ひなちゃんは既にお出かけできるくらいの準備は整っていた。




「ごめん、お待たせしたね。」




「ううん、大丈夫。


せっかくだしちょっと散歩してみようよ。」




「OK!」


髪を乾かして、服を着替えて、身嗜みを整える。


せっかくお風呂に入って整髪料も落としたのだから、今日は帽子にしよう。


お気に入りの、ロシア人がかぶるようなモコモコの耳まで隠れるフライトキャップを被り、ナンガのダウンを着る。


インナーはもちろん超極暖。


ナンガはフロントファスナーを一番上まで上げると鼻下まで暖かい。


国産メーカーのため、インポートに比べるとめちゃ安で、

それでいて信頼できる作りで、めちゃめちゃあったかいナンガなら

きっとロシアの寒さもナンとかしてくれるはず。




ひなちゃんはカナダグースを着ていた。


オッシャレー!




ホテルを出るとやっぱり2月なので刺すような寒さが襲う。




「さみー!!!!」




「これは、やばいね…!」


ひなちゃんはたまらずフードを被り、ファスナーをぴっちり上まで締めることで、なんとか目以外の顔を隠すことができた。




一方私は、さすがはナンガと言ったところか、とても快適だ。


もともとフードをかぶることが好きじゃないので、耳で隠れる帽子を買っておいて良かったと思った。






ロシアの寒さの洗礼を受けた後は、教会や、ロシア美術館の外観を見たりして散策した。




夜ご飯はホテルでバイキングなので、程よいところで帰ることとする。




「寒かったね…。」




「うん、でも私は結構平気だったかも。

超極暖とナンガは優秀だったわぁ〜。」




「グースもあったかいんだけど、

私の防寒が未熟だったからか、やっぱり耳がねぇ。」


そういうひなちゃんは、休憩がてら入ったモールで見つけたアウトドアショップで2〜3千円のニット帽を買ってた。


めちゃ暖かいらしい。現地の人が使うものに間違いはないね〜。




晩ご飯はボルシチとかピロシキとか出てきてすっごい美味しかった。

何気にロシア料理初めてかも。






美味しい晩ご飯の後は明日の日程決め。






「ロモノーソフって昔はオラニエンバウムって言ってたんだってね。おばあちゃんが言ってた。」




「そうなんだ?なんて意味?」




「オレンジの木。ロシア帝室にあった植物園の名前なんだって。今のロモノーソフは、科学者のロモノーソフからとった名前らしいよ。」




「へぇ、初知りだわ。」




「で、ロモノーソフまで何で行く?」




「タクシーの予定。40キロくらいだし、ロシアはタクシー安いし。」




「まぁそうよね、一応私も調べてみたけどタクシーが一番楽だなって思った。」




「じゃあタクシーで!ホテルで配車してもらう?」




「Uberでいいんじゃない?お金のやり取りするの面倒だし。」




「そうね。」




そんな感じであらかた予定がにつまった。




「じゃあ明日もよろしくね!」




「はい!」




予定も決まったのでピアノでも弾くか。

昼間散々飛行機で寝たから夜寝られない。




「なんかリクエストある?特別になんでも弾いてあげる。」




「ほんとに!?


じゃあねぇ〜…」




2人の夜はピアノの音とともに更けていく。




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