第67話 元日
「さて、あけましておめでとうございます。」
「「おめでとうございます!」」
昨日のコンサートの帰りにニューイヤー花火を見て、みんなであーだこーだ感想を言い終わったあと、家で先生と年越し蕎麦を作りみんなで食べた。
家族と友達にあけましておめでとうのメッセージを送って、そのあとは普通に眠ったのだが、今朝になって先輩に叩き起こされた。
「吉弘くん!起きて!挨拶だよ!」
「挨拶ぅ〜?」
どうやら、先生はこういう節目節目のイベントを大事にしているらしく、挨拶をやるらしい。
「ほら着替えて!」
急いで服を着替えて身嗜みをそこそこ整えて、和室に向かう。
「和室なんてあったんだ…。」
「こういう時とかイベントの時しか使わないけどね。」
和室に入るとすでに先生がまっていた。
着物姿で。
そこで冒頭に戻る。
「では、今年の目標を聞こうかしら。」
「はい!私は技術の向上と、先生の弟子としてより一層の精進を目標とします。」
先輩がテンプレートのような目標をおっしゃる。
「今年は藤原くんがいるから真面目な目標ね。」
「先生、カッコつけさせてくださいよ…。」
「去年は5kgダイエットだったじゃないのよ。」
先輩はこれ以上どこを削るというのだろうか。
女性のダイエットは永遠の目標なのかもしれない。
「それは!秘密です!」
先輩が少し怒っている。かわいい。
「では、藤原くん!」
「はい!私は今年の前期の授業は単位をフル単で取り切って、後期から1年間の留学を目指します。
そのための交渉なども頑張ります!」
「よろしい!
それでは、お待ちかねの。」
先輩のテンションが目に見えて一段上がった。
「お待ちかねの!」
「お年玉よ!」
「「うぉぉ!!」」
なんでも先生曰く、芸事の世界では師匠が弟子にお年玉をあげるのは普通のことらしい。
いつも無茶振りしてゴメンネということだ。
なおかつ、弓先生は弟子にお給料をあげるタイプの
ガッチリ弟子を抱え込んだお師匠ではないので、
年に一度のお年玉くらいは奮発してあげようとのことだ。
本当ならこちらからレッスン料をお支払いしてもいいくらいなのに、これには喜びを隠しきれない。
「はい、実季ちゃん。」
「ありがとうございます!」
先輩がもらったお年玉を見て目を疑った。
ポンと置いて立つレベルの厚みがある。
「はい、藤原くん。」
「ありがとうございます!!」
こちらもずっしりと重く、ポンと置いて立ちそうな量がある。
「「今年も一年頑張ります!!」」
「はい、よろしくね。
あとそのお年玉は、年末のお仕事の報酬ということで、きちんと税金を払うように!」
なるほど、そういうことか。
単にもらうだけなら税金が大変なことになるが、先生の事務所からいただいたお仕事の報酬ということなら金額にも納得できる。
先輩から聞いた裏話によると、この金額は先生の映画でのお仕事の依頼料の0.1%ほどしかないらしく、先生は本当にお年玉気分で渡しているらしい。
気分次第なところはあるが、ちゃんと相場にちょっと色がついているくらいの金額というところに先生のしっかりした所を感じる。
とはいえこの現金にはハリウッドはスケールが違うぜ!と思わざるを得ない。
しかし、私はこの金額よりも、ハリウッド映画のエンドクレジットに自分の名前が出る方が嬉しい。
とりあえず、帰国の際に税金を払えそうでよかった。
アメリカでは流石に、元日は大体のお店がお休みとなる。
しかし、日本と違うのは、休みが元日だけというところだ。
なので、やることもないため朝から晩まで練習する。
ピアノは練習すれば練習しただけうまくなるのがいい。
基礎練はやればやるだけ応用が効くようになるのがいい。
先生の家にはたくさんのグランドピアノがあるため、同じ曲でもスタインで弾いてみたりベーゼンで弾いてみたりファツィオリで弾いてみたり、ヤマハで弾いてみたりカワイで弾いてみたりすると全部表情が変わるのが面白い。
1日基礎練をするというのも芸がないので、たまたまやりたくなったりした曲を弾いてみたりする。
何にも縛られることなく1日音楽に触れていられるというのはなんと幸せなことだろうか。
音楽をしているだけで1日があっという間に終わる。
時々先生が様子を見にきてくれて、アドバイスをしてくれるのもいい。
晩ご飯の時に帰国の日程なども話し合った。
「帰国日どうしましょうか?」
「一応オープンチケット2枚分あるわよ。」
オープンチケットとは日程を決めずに買えるチケットのことだけど、年末年始って使えるんだっけ?
まぁでも先生が使えるというんだから使えるんだろう。
「もうお手伝いするお仕事なさそうなら、
もう少し遊んでから5日くらいに帰ろうかと思うんですが。
吉弘くんはどうする?」
「私もそれで大丈夫です。
姉と一度会うので途中2〜3日抜けますけど。」
時間の都合がつけば明日か明後日には行こうと思っていた。
「あら。そうなのね。お姉さまはどちらに?」
そういえば家族の話をしたことがなかったなと思う。
「いま、姉はカリフォルニアに拠点をかまえて調整してるのでそちらに行こうかなと。」
「あら、アメリカにいらっしゃるの?」
「はい、プロゴルファーなので。
今年からメジャー挑戦してます。」
「へぇー!すごいわね!」
「で、両親はロンドンに行ってますし、せっかくなので会って来ようかと。」
「私も行きたいわ!!」
「先生はピアノあるところじゃないと行かないじゃないですか。」
「あら、ハリウッドの家があるもの。」
そうだった、ハリウッドはカリフォルニア州ロサンゼルス市にあるのだった。
「じゃあ明日から行きましょう!」
先生のフットワークの軽さに先輩は慣れたもので、ご飯を食べ終わるとすぐに荷物をまとめ始めた。
ごはんを食べたあとは、姉に明日から遊びに行くという旨のメッセージを送り、就寝する。
きっと飛行機で行くんだろうけど、チケットとか大丈夫なのだろうか?
そして翌日。
「こ、こういうことか…。」
そこにあったのはビジネスジェット。
つまりチャーター機だ。
「アメリカは飛行機が簡単に借りれるから便利よねぇ。」
「そうだった、先生はこういう人だった。」
そう呟いたのは先輩であるが、先輩も日本生活が長いため、ビジネスジェットには数えるほどしか乗ったことがないらしい。
「こういう世界もあるんですね。」
「アメリカじゃ最近はもう普通のことよ。
さすがに私でも自家用ジェットは持ってないし。
周りの人は持ってる人多いけどね。」
「確かにハリウッドスターの人とか持ってる人多いイメージあります!」
「あの人たちは映画何本も同時に進行してて、ロケ地を転々としないといけないからある程度お金あると自家用ジェットあったほうが便利なのよね。
車よりもジェット使うことが多い人もいるわよ。」
「知らない世界ですね…。」
「多分私もずっとアメリカにいたなら買ってたかもしれないわねぇ。
私はもう全盛期過ぎちゃったから…。」
先生はそんなことを言いながらも今でも仕事は尽きないし、寝てても年間数億円ではきかないレベルの権利報酬が入ってきていることを私は知っている。
我々一行は、一路カリフォルニアへ!
あ、なおちゃんに先生も連れて行くこというの忘れてた。
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