第48話 引っ越しました。後編



荷物を搬出搬入してもらっている間、暇なのでどこか行こうかと思ったのだけれど、こういうのって立ち会わなきゃいけないのね。




どこも行けないなら呼べばいいということで、暇な時間を生贄に5つ星モンスター実季先輩を召喚する。ターンエンド。




「何やってんの?」




「あ、実季先輩。」

実季先輩は呼び出しから到着までが早い。

どうやってるんだろう。



「呼ばれてきてみりゃ何事。」




「いや、引っ越すことなになりまして。」




「あら。そうなの?

中途半端な時期ね。解約金とかえぐそう。」



「まぁいろいろありましたもんで。」



「?ふぅん。」



「搬出と搬入中、暇なんで呼びました。」



「あんた先輩をなんだと…!」



「まぁまぁ。」



「しかも搬入まで私拘束されるの!?」



先輩の歯軋りが聞こえてくる。



「新居、見たくないですか…?」



「……見てみたい。」

先輩の歯軋りの音がさらに強くなった。




「荷ほどき手伝ってくださいね。」



「貴様ァ…。」



「で、どこに引っ越すの?」



「六本木す。最寄は溜池山王。」



「近っ!!!そして家賃相場高っ!!!」



「たしかに。」



「あんなとこはねぇ!学生が住んでいい街じゃないのよ!クソボンボンが!」



「先輩どこ住んでるんでしたっけ?」



「表参道ヒルズ。」




「クソボンボンが。」


先輩は卒業を控えているということもあり、実家から出てきて一人暮らしを始めた。

何年かやってみて飽きたら実家帰るらしい。

なお、ご実家は田園調布でピアノは竪琴マークのグランドピアノな模様。




「まぁでも高いところ選んだわね。」



「まぁツテで。」



「ふぅん。」




先輩で暇つぶしがをしてたら搬出が終わったので、私たちは新居でトラックを待つことに。




「じゃ新居行きましょうか。」



「はーい。」



駐車場に来て、車に乗り込もうとすると、先輩がまたキレる。



「学生が乗っていい車じゃねえだろ。」



「いいんすよ、家の車です。」



「なんで、18のガキがベンツ乗ってんだよ…。」



「細かいことは言いっこなしですよ。あともう誕生日すぎたんで19です。」



「えっ!おめでとう!いつ?」



「先月?」



「最近じゃん!」



「そうでもないっしょ?」



「じゃあ今日は晩ご飯ご馳走してあげる!

この前の借りもあるし!」



「お!ほんとですか!うれしいなぁ!

家の近くにいい寿司屋あるんですよ!」



「そうなんだ!え、ても、近所?

あぁ、こいつの新居六本木なんだった…。」




「っと、はい着きました。」




「うーん、近い。ってここ赤坂じゃん!」




「あ、住所的には赤坂なんですね。」




「えっどこ行くの?」




「地下駐です。」




「ワー…

見て見て〜、ロールスロイス、フェラーリ、ランボルギーニ、あれはベントレーかなぁ〜」




「先輩のとこも似たようなもんでしょ。」




「いや、うちはほら……。


プロボックス(主な用途は商用バン)とか、ハイエース(主な用途は商用バン)とか、日野プロフィア(大型トラック)とか……。」




「それ下のテナントの車っすねぇ!!!!」




「バレたか。」




「先輩車好きなんすか?」




「ううん、特にそういうわけでもないけど、街ゆく車でかっこいい車見つけたとき、これなにー?ってお父さんに聞いたら大体答え返ってくるから覚えちゃった。」




「なるほど。」

そういう高級車が良く通る町にしか行ったことがないと。




なおちゃんから指定された、居住者用の駐車スペースに車を停め、またこちらも居住者用のエレベーターに乗る。




「何階?」




「41階す。」




「最上階……。

あれ、押せない。」




「あ、セキュリティあるんで、この鍵さしてまわしてください。」




そう言って鍵を差し出す。




「はやりのダブルオートロックってやつね…。」


先輩が鍵を回すと、自動で41階が点灯する。


「先輩のとこもそうじゃないです?」




「うちはカードかざすタイプ。」




「なるほど。」




エレベーターを降りると、少しのホールと廊下があって、玄関ドアがある。




「最上階二軒しかないのね。」




「ですね。」




ちゃんドアを開けたら鉢合わせしないように、ドアは反対側のドアから見えない位置にある。


そして、人がエレベーターホールにいると、廊下の電気が自動でつく。




お隣さんには本日入居の旨を伝えてあるので、時間を指定して優先的にエレベーターを使わせてもらっている。






しばらくすると業者さんから到着の連絡があったので、下まで迎えに行き、少しではあるが手伝い、搬入が完了した。




引っ越し代って近くなのに結構値段取られるのな。






「まぁー、なんと広いお家だこと!!!」




「えーと、500平米くらいですね。」




「広っ!!!!!」




「あと防音室有ります。」




「えっ!?!?見せて見せて!!」




「こちらです。」




「広っ!!!!!」




「50畳くらいですかねぇ。」




「羨ましい…。」




「なんか、前の持ち主さんがサロンコンサート開きたかったから作ったって聞いてます。」




「しかも防音なんでしょ?」




「もちろん。」




「この広さならグランド置けるね…。」




「そうなんですよ、グランド買おうと思って。」




「あらほんとに。」




「まぁ詳しい話は夜ご飯の時話しますから、さきに荷ほどきしましょう。」




「おっけー。」






食器やら割れ物やら細々したものの梱包を一つ一つ剥いてあるべきところに収納していく。


服は全部まとめてウォークインクローゼットにぶち込み、食器は作りつけの食器棚にぶち込み、あらかた終わったところで、先輩はテーブルを拭いたりしてくれていた。




「あ、先輩ありがとうございます。」




「はいよー。


そういえば吉弘くんの家ってテレビないんだね。」




「前の家にはあったんですけど、ほとんど見ることなかったんで売っちゃいました。


今はこれですね。」




徐に私はスマホでスイッチを入れる。


すると真っ白な壁一面に映像が投影される。




「えっ!プロジェクター!?


どこから!?」




「シーリングライトに一体型です。」




「はぁー、おっしゃれやなぁ。」




「そろそろご飯行きますか。」




「はい。」




向かうのは前なおちゃんと行った個室の寿司屋。




「で、なに?


ピアノ買いたいって?」






「まぁそれもなんですけど、先輩には話しとこうかなって。」




先輩はなにを話されるのかと身構えた。


そこでこの前なおちゃんに話した話とおんなじ話をする。






「あー、なるほどね。


それでピアノを買うと。」




「まぁそうですね。


どこか紹介してくれませんかね。」




「ちょっと心当たりあるから電話してみる。」




そう言って先輩は個室を出た。










〜〜〜〜〜〜side柳井実季~~~~~~




「もしもし、実季です。


弓先生、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど今お時間よろしいですか?」




「あら〜実季ちゃん!


いいわよ?どうしたの?」




「知り合いがピアノ買いたいって言うんですけど、一台都合つきません?」




「まぁないことはないけど、どんなのが欲しいのかによるわよ。」




「えーと、コンサートピアノです。


プロになるから買うって。」




「あらそう。なら何台か用意しとくから試奏しにいらっしゃい。」




「そんな簡単にいいんですか!?」




「いいわよ、今ピアノ売れないんだから、私もピアノ屋さんに紹介してあげたいし。日にち決まったら教えて頂戴。」




「わかりました、ありがとうございます!」




そう言って私は電話を切った。




「にしても吉弘くんがプロになるのかぁ。

男の子ってすぐかっこよくなっちゃうなぁ。




はぁ…ここのお寿司いくらなんだろう…。」










愛する教え子からの電話を切ると、笑みが溢れる。


「とうとう動き出すみたいね、彼が。




こうしちゃいられないわ、ピアノ屋さんに電話しなくちゃ。」






〜〜〜〜〜〜side 藤原吉弘~~~~~~






「おかえんなさい。どうでした?」




「私のピアノの先生が都合つけてあげるから試奏しにきなさいって。」




「えっそんな簡単に!?」




「みたいよ?」




「そうなのか…。」


グランドピアノのしかもコンサートピアノってそんな簡単に用意できるもんじゃないはずだけどなぁ…。




「いつにする?」




「じゃあ来週の13時で。」




「OK。」




あとは先輩が先生に連絡をつけて、予定が決定するのを待つのみだ。




「あ、返事きた。いいよーって。」




「じゃあお願いします!!」




「まかされた!!」




その後は先輩からこの前のライブの講評とかアドバイスとか、次やるんだったらこうしたほうがいいよとか聞いてたらお開きの時間になった。




先輩は終盤には結構酔っていたが、前ほどではなかったので、車でおうちまで送り届けておいた。


その際に、送られ狼が出てきそうになっていたのでそそくさと退散した。


あの時の先輩絶対酔ってなかったと思う。




ドア閉める前に舌打ち聞こえたし。

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