第23話 服。


そろそろ街ゆく人の服装もだんだんと袖が長くなり、暑い日よりも肌寒い日の方が多くなってきた。




夏はTシャツにGパンで過ごしていたが、そろそろそうも行かない時候に入ろうとしている。


例年通りならばチェックのシャツにGパンという、夏までと大して変わらない服装で過ごすのだが、今年はそうも行かない。


なんといっても花の大学生だ。


オシャレの一つや二つも覚えなくてはならないだろう。






「と、いうことなんです先輩。


どこか服買いに行きませんか。」




「なるほどね。そういうことなら協力しましょう。」




こうして実季先輩とのお買い物の約束が成立した。




「ちなみにご予算はいかほど?」




「まぁー、コート類も買っておきたいし、ステージ用のスーツも欲しいし、あまりケチるつもりはありませんけど、量を買いたいです。」




「そんなあなたにぴったりのお知らせよ!」




実季先輩はそういってカバンの中から二人分のチケットを出した。




「このチケットは?」




「会員様限定セールの招待状!」




「おぉ!そんなものが!」




「大手アパレル会社が主催しているセールで、その会社のブランド全てが1つのビルでセールをしているの!」


「1か所で全部揃うということですね先生。」



「そういうことです。それでは今週の土曜日に行きましょう。」




「かしこまりました!」






時間は過ぎて土曜の朝。


セール会場行きの無料シャトルバスに乗る二人。






「どんな服があるんですかね?」




「そこそこなハイブランドの服もあるし、メンズならスーツもジャケットもカジュアルもなんでもあるわよ。」




「じゃあ、先輩も色々見たいかもですけど、コーディネート一緒に考えてもらってもいいですか?」




「もちろん!」






会場につくと、メンズはどうせ後からでも選べるからということで、先に実季先輩の服を選んだ。


ビルの上から下までを一通り見終わる頃には、私の両手にはパンパンのビニール袋が四つぶら下がっていた。






「先輩選ぶの早いですね。」




「どうせ8割引9割引なんだから。


気になったものは全部買うの!


考えるのは家で考えたらいいのよ。」




「なるほど…。」




あまりにも大きい荷物なので、実季先輩は先に会計をして、配送処理をしてもらった。

私はその間、会計済みの商品を配送カウンターに持っていく仕事をしていた。

会計額は怖くてみていない。





会計と発送が済んで元気ハツラツの実季先輩。

「さぁ!行くわよ!」




「はい!」




そうして、実季先輩と向かったのはメンズ売り場の、割とモードで細身の服が揃うブランド。

そもそもメンズ売場と言ってもそこそこの市民会館の大ホールくらいある。

しかもそれが2フロア。

掘り出し物が沢山ありそうだ。





「自分好みとかあんまりないんで似合うのお願いします。」




「はいよー!」




実季先輩はほぼほぼノータイムで服を袋に入れる。


自分の役目といえば、時々試着を求められるくらいだ。


オシャレな人は選ぶのが早いと知った。






結局そのブランドではTシャツ2枚とセットアップを2組、ジャケットを一つ買った。




「はい!次!」




「はい!」




お次はスーツだ。


自分が持っているスーツといえば3シーズン用の真っ黒な入学式できたスーツだ。


実季先輩曰く、クソダサいとのこと。


まずサイズもあってないし、色味も微妙で、ネクタイの合わせ方も壊滅的だという。




なので見繕ってもらうことに。




スーツはやはり試着をしないといけないらしく、何度も着ては脱ぎの繰り返しだった。




結局、シャドウストライプが入った明るい紺色の冬物スーツと、グレンチェックのダークトーンが強い冬物スーツ、麻の夏物スーツと、紺のストライプの夏物スーツと、スーツだけで計4点購入した。


それに合わせて、サンプル品として出ていた激安シャツをまとめて数枚お買い上げと相成った。

先輩曰く「白シャツは消耗品。安い時にまとめて買っとけ」とのこと。




途中で気になったパラブーツというメーカーの革靴も、奇跡的に自分のサイズとぴったりのものがあったためお買い上げした。




やっと終わりかと思いきや、まだ終わらない。


「次はカジュアル!」




「はい…。」




ヘロヘロだったが、気力を振り絞り、実季先輩イチオシのブランドにやってきた。


西海岸発のセレクトショップで、ファッション感度が高いお店だ。


セールとはいえ、他のブランドから一線を画す雰囲気を醸し出している。






そこで実季先輩チョイスのパーカーやシャツ、パンツなどなど、合わせて8点ほど買った。




最終的なお会計金額は自分のだけで50万円以上と、頭がおかしいのではないだろうかと思う金額だった。

卒倒するかと思った。

まぁ3万円のスーツ4着買うだけで12万だもんな。

それくらいはするか。



額面の大きさに驚く私とは対照的に、実季先輩は別段驚くわけでもなく、いい買い物ができたと言わんばかりの満足げな顔をしていた。




ちなみに、元値でいうと150万円を軽く超えるほどのものなので、確かに安い買い物だったのは間違いない。




「なんでセットアップを2組買ったんですか?」




「セットアップだとコーディネート考えるのが楽だからよ。


上下決まってたら、残りを選ぶの簡単でしょ?


しかも上だけとか下だけでも使えるし。」




「なるほど!!!」


ファッショニスタの先輩の言葉に目からウロコが落ちる思いだった。






ちなみに会計はデビットカードで済ませた。


クレジットカードも、持っていることは持っているが、怖くてまだ使ったことがない。








次の日からは、その時に買ったセットアップやジャケットを着て学校に行ってるのだが、やはりおしゃれをするとテンションが上がるのか、いつもより練習に気分が乗っていた気がする。








side 柳井実季






今日は吉弘くんからデートに誘われてしまった。


なんでも服を選んで欲しいとか。




神は私を見捨ててはいなかった。




早速約束を取り付け、セール会場にお連れすることにした。

セール会場だからと侮ることなかれ。

これがなかなか盛り上がるんだ。

多分。



そのセール会場とは、昔から家族ぐるみでお世話になっている服屋さんの主催する大規模なセール会場で、服好きの間ではよく知られたセールだ。




もともと吉弘くん自体が服をしっかり買うつもりがあるので、楽しめそうだ。



~~~数時間後~~~



結局私の服の荷物持ちをさせてしまったことは申し訳ないと思っている。


しかし、吉弘くんに色目を使ってくる販売員が結構な数いた。

彼女さんですか?という探りに対して違いますと、馬鹿正直に答えなくてもいいのだぞ?吉弘くんよ。




私ばかり楽しむのも非常識なので、吉弘くんの服もしっかりと選んであげねば。

あ、そもそも今回のデートは吉弘くんの服を選ぶのか。



もともと、頭の中の妄想で吉弘ファッションショーは何度も開催しているので、そのイメージに合う服を渡すだけの仕事だった。



正直吉弘くんは元がいい、スタイルもいいし背も高いので何を着せても似合う。




細身のセットアップを着た時なんて鼻血が出たかと思った。


スーツ姿なんぞ見せられた時にはもう昇天しかけた。近くにいた他の女性たちも目を奪われていたし、目が肥えた販売員さんたちの目線をも釘付けにしていた。




特に紺のスーツなんて、爽やかすぎてスカウトが来ないか心配になったが、なんとか乗り切った。






お会計の段になってびっくり。


総額は60万円に近いほどの金額。


これは買わせすぎたかと思いきや、カードでさらっと払っていた。


かっこよすぎかよ。






これでまた明日から学校に行く楽しみが増える。










side ある女子大学生たち






「ねぇ!見て!ヒロ様の服が!!!」




「す、すごくおしゃれに!」




「ちょっと前までクソダサだったのに!」




「それがかわいかったのに!」




「お顔立ちと相まってもはや神々しい……」






女の子の心をつかんで止まない?吉弘であった。


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