第21話 エルフ、連の思いを知る。そして、異世界で頑張る気になる。

 ――連。じいちゃんと一緒に、パチンコ行くか?


 きっかけは、今は亡き祖父のそんな言葉だった。


 まだコンプラとかいう概念に世の中が寛容だった頃、両親が共働きで一人家にいることが多かった俺を見かねて、祖父がパチンコ店に連れ出した。


 当時小学生ということもあって、騒々しい場所だなという程度の認識でしかなかった。


 パチンコだって祖父に言われて打っていただけだし、楽しいとは感じなかった。


 ただ、隣で台を睨みながら打っている祖父の様子が楽しそうだったのを覚えている。


 もくもくと上がる紫煙。間断なく流れてくる店内放送の声。ああだこうだと会話する客。その中に混じって祖父も笑っていた。


 次第に、俺もそんなパチンコ店の空気に馴染んでいった。


 ――子供連れは困りますよ。


 と、入店のたびに店員は苦笑いしていた。


 祖父は、すまないと悪びれる雰囲気のない謝罪を繰り返していた。


 中に入ってしまえば人当たりの良い祖父も、一介のギャンブラーと化す。


 俺のことなんて放って、遊戯に夢中になっていた。


 だけど、店内の空気に慣れた俺は寂しいとは感じなかった。


 祖父と仲の良い常連の客は良く話しかけてくれたし、ジュースを買ってくれたりもした。気前が良い時は、併設されたフードコートでカツカレーを食べさせてくれた。


 レトルトに毛が生えた程度の味付けだったけど、興奮した様子でパチンコを打つ感想を語る人たちの脇で食べるカツカレーは、妙に美味しかった記憶がある。


 ――連。母ちゃんと父ちゃん、好きか?


 唐突に、祖父がそんなことを聞いてきた。


 ――きらいじゃないと思う。


 そう答えると、にかっと笑った。


 その翌日、祖父は息を引き取った。


 今にして思うとあれは、祖父なりの俺と両親との仲を取り持とうとしたのだと感じた。


 もし、祖父が俺を放置していたままなら、両親を嫌いになっていたかもしれなかった。


 でもパチンコ店で俺は、人との繋がりを得て、寂しさとは無縁になっていた。


 たまに両親が揃っていると祖父がパチンコに連れて行ってくれないので、不貞腐れるほどだった。


 タバコを吹かして、時々盤面を覆うガラスを叩いていた祖父は、ただのマナーの悪い客だったけど。俺からすれば、本当に人生を楽しんでいるように見えて、羨ましかった。


 ――俺も将来、祖父のような人間になりたい。


 そんな、他人から見ればアホみたいな動機でパチ屋の店員になった。


 俺にとってパチンコ店は、大切な空間だ。


 自分が運営に携わる店舗は死んでも守りたいと思うし、そこで一緒に働く皆の平和も守りたいと強く思う。


 これが俺――八雲野連という人間のあり方だ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「なるほどの。連という人間が、少しわかった気がするぞえ」


「……あ? 夢、だったのか?」


「ちょいと、悪戯させて貰ったぞえ?」


 起きると、俺はいつの間にか自宅の布団の上で寝ていた。


 隣には、したり顔で微笑むラピスがいた。


「長としての視点でしか集団を導けなかった我には、面白い価値観じゃった」


 そう言って膝を叩くと、ラピスは俺を見つめた。


「連よ。我はもう少し、この世界に腰を据えてお主ら人間のあり方というのを学んでみようと思う」


 何かを決心したように告げるラピスの顔は、こころなしか晴れやかに見えた。


「お前……帰る手段がないだけだろ?」


「ちゃ、ちゃうわい! 帰ろうと思えば多分帰れる! じゃが、もうちっとだけ、お主と遊んでやってもいいと言っておるんじゃ!」


 ぷりぷりと子供みたいに怒るエルフを眺めると、口元が緩んだ。


 今回の件で、ラピスの魔法にはだいぶ助けられてきた。


「まあ、いいよ。気の済むまでこっちにいろよ」


 だから俺は、お礼の意味も込めて、もうしばらくの滞在を認めてやることにした。


「おうとも! 精々我と共におれる幸福を噛み締めよ!」


 久しぶりの休日ということもあって、俺はラピスと一緒に外に出た。


 空を見上げると太陽がご機嫌な様子で輝いていた。


 初夏を思わせる日差しで、少し歩くと汗が滴り落ちる。


 こういう日は、あれだな。


 目を合わせて意思の統一が済んだ俺達は、予定調和のようにパチンコ店に足を運んだ。


 二人合わせて、十万負け。


 帰り道にある飯屋で、泣きながら食べるカツカレーの味は、かなり切ないのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


【あとがき】


 こんにちは、はじめまして。

 拙作をお読みくださりありがとうございます。


 これにて完結となります。

 最後までお付き合いくださり、ありがとうございますm(_ _)m


 次回作は未定ですが、今年中にもう一本、十万文字程度のボリュームの作品を投稿  

 したいと思っています。よろしければ気長にお待ち下さい。

 別作品は毎日更新中ですので、よろしければそちらもご覧ください。



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エルフの女王、パチンコ屋の店員になる。 せいや @seiya0131

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