第3話 麓の屋敷
森を抜け、山の麓にある屋敷を目指して歩いていると、思っていた以上にその屋敷が立派なものだと言うのが分かった。
まるで貴族の屋敷か何かだと思わせるほどだ。
「ここいらの領主か何かの住居だろうか? 辺鄙な所に建っているにしちゃあ、立派な門構えや建物だ。……ま、地方や田舎にはそんな連中もいるからな」
地方の名士や貴族がそれだ。冒険者を続けていると、そうした連中からの依頼が舞い込む事もある。
特に旅仲間の神官は上流層に顔が利くので、そうした連中との付き合いもあった。
もっとも、ド田舎出身の剣士からすれば、そうした連中との付き合いなんぞ、財貨と名声を得るための手段と割り切っているため、特に思い入れや取り入ってやろうと言う邪な発想もない。
仕事を受けて、それを解決し、既定の報酬を貰う。それだけだ。
「ま、お貴族様の前に出るために、作法を無理や躾けられたのが面倒だったわな」
その辺りは神官にあれこれ差配されたが、武闘家と魔術師はからっきしだったため、結局自分と神官の二人で出かける羽目になったなと、かつての思い出を頭に浮かべてはニヤリと笑った。
そうこう思い出に浸りながら歩いていると、その屋敷の門前にまで到着した。
その門前には完全武装の衛兵が待ち構えており、それだけでもこの館の主が財力、権力が透けて見えるというものであった。
(あと、雷鳴が意外とうるさい)
屋敷から少し離れた所にある山は、麓から眺めてもやはり雲がかかっており、時折光っては雷鳴が轟いていた。
そして、剣士はその門の前まで来ると、二名の衛兵は天に向かって掲げていた槍を傾け、門の前で“×字”に交差させ、招いてもいない来訪者を威圧した。
「何者か!? ここはロット家の領域である!」
「用無き者は即刻立ち去られよ!」
二人の門番は己の役目として、不審者を追い返そうとした。
だが、勇者の試練を受けるために、剣士はここへやって来たのだ。
おそらくはあの山がそうなのだろうと考えたが、そこへ向かうに際し、地元の人間からの情報は必須であると考えた。
威圧されようが、剣士はそれを流し、神官仕込みの作法に則り、門番二人に対して丁寧にお辞儀をした。
だが、どうにも堅苦しいのが苦手な剣士は、あっさりと素を出してしまった。
「突然の来訪、悪いね。俺の名前はラルフェイン。あの山の、試練ってやつを受けに来た」
少し礼儀作法としてはどうなのかと言う態度だ。
実際、交渉事は神官に丸投げして、自分は横で聞いて相槌を打つだけ。こういう場面も何度かあった。
しかし、今は一人であるため、それはできない。
作法の未熟さは如何ともし難い。
しかし、威圧されながらも堂々たる来訪者の振る舞いにて返したのが良かったのか、門番は槍を再び天に向かって掲げ、揃ってお辞儀を返してきた。
「これは大変失礼いたしました」
「試練を受けに参られた方ならば歓迎いたします」
門番二人は歓迎の意を示し、門が開け放たれた。
「ようこそ、ラルフェイン様。ロット家の屋敷に来訪されましたること、僭越ではございますが、まず私共が歓迎させていただきます。先にご説明しておきますと、この地は我らがお仕えするロット家の領域でございまして、当家の初代様が神よりの啓示を受け、この地に住まわれるようになりました」
「そして、神様が仰られるに、『試練を受けに来た者が万全の態勢で挑めるよう、便宜を図るべし』とのこと。ですから、試練を受けに来られる方は歓迎というわけでございます」
「なるほど、そういうことか」
それを聞いて、少年は急に態度を変えた二人の事を納得した。
話しに聞く“勇者の試練”とやらの管理がこの館の主人の代々の職務だと言う事で、自分はその試練を受ける挑戦者というわけだ。
少しばかり眉唾な話の“勇者の試練”の話ではあったが、こうして管理者がいることで却って安堵した。
「では、ご案内いたします。当主様がお出かけになられる前で良かった」
そう言うと、門番の一人が先導する形で屋敷の門をくぐり、剣士は中へと入って行った。
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