第3話

「お兄様、いつになったらあの婚約者を追い出してくれるのですか?」


 甘えるような声でそう泣きつくメリーエ。


「大丈夫だ。もう婚約破棄の上で追放してしまう事は決めたから、何も心配はいらないよ」


 そんなメリーエに優しく言葉をかける、彼女の兄であるラーク。彼はリリーという婚約相手がいながら、その婚約を破棄してしまうと言っているのだった。そう考えるに至った理由というのが…


「君に言われてしまっては、そうするしかないというものだ。僕にとっては君の存在こそが一番大切なのだから」


「まあ、ありがとうございますお兄様♪」


 そう、ラークは自身の妹であるメリーエを溺愛しているのだった。そして彼女もまたそんな兄の特性については知り尽くしており、これまでも甘えるような形でいろいろなわがままを通し続けてきた。そして今回の彼女の望みというのが、兄であるラークの婚約破棄なのだった。


「私はあの婚約者を信用できないのです。お兄様にはもっともっとふさわしい人物がいるに決まっています。私の人を見る目を、是非信じてください」


 もっともらしくそういう彼女だったが、それはたてまえだった。このまま婚約を果たされてしまったら、自分の言いなりになる都合のいい存在が横取りされてしまう。そう考えた彼女は、兄に甘えることでその先手を打ったのだった。


「まぁ、たしかになんの存在価値もない人物だったし、婚約破棄してしまって正解だろう。君の言う通り、真に僕に相応しい人物がこの先現れることだろう」


 …しかし二人は見誤った。自分たちの欲望を優先するあまりに、気づけたはずのリリーの正体に気づけなかったのだから…


――――


「ま、まさか…彼女が王族につながる人間だって…!?」


 人伝いにその情報を入手したラークは頭を抱えた…これまで一方的に冷遇してきたその人物の正体が、自分たちよりもはるかに階級が上の人間であることをこのタイミングで知ったためだ。もう婚約破棄は成立してしまっており、その取り消しもできない…


「や、やむを得ない…こうなったら、最後の手段を…」


 ラークはそう言葉を漏らすと、ある人物の元へかけあう準備を始めるのだった…


――――


「ほほう…我が最愛のリリーを愚弄しておきながら、よくもまぁここまで顔を見せに来られたな」


「そ、そのことなのですが…お、王子!!実はすべての罪は妹のメリーエにあるのです!だから私は何も知らずに…何も知らずにこのような事に巻き込まれたのです!!!」


 …これ以外ないと本人は考えたらしいが、こんな話が通るはずもなく、結局兄妹仲良く遠方の地へと追放されることとなったのだった…

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