第2話

「ルーシア、君との婚約は破棄させてもらう事にしたよ」


 婚約関係にあったのもつかの間、一方的に婚約破棄を告げたのは、侯爵位の貴族であるジャーケン。彼はどこまでも冷たい表情で、高圧的に言葉を放った。


「と、突然そんなことを言われても…な、なにがあったのでしょうか…?」


 なんら心当たりなどないルーシアにしてみれば、これほど理不尽な事はない。これまで婚約者として誠心誠意尽くしてきたというのに、このような状況が受け入れられるはずがなかった。


「妹のスフィアと相談した結果だ。彼女に言わせてみれば、君が私の魔法の技術目当てに婚約したとしか思えないのだという。そして私は彼女に関して、全幅の信頼を置いている。そんな彼女のいう事を、無下にすることはできない。もちろん、最後に決断を下したのはこの私だ」


 そう、ジャーケンは自身の妹であるスフィアを病的ともいえるほどに溺愛していた。


「またスフィアですか…すべて彼女の言いなりになっていいのですか?仮にもあなたは侯爵位の貴族であり」「もういい、そこまでだ」


 正論な彼女の意見を途中で遮ると、彼はそのまま自分の言葉を放つ。


「もうきめたことだ。君との婚約は終わりにさせてもらう。魔法技術を盗めなくて残念だったな?君と婚約してから調子が上がり、魔力に困らなくなった。どうせその時期を見計らっていたんだろう?思い通りにならなくて残念だったねぇ」


 嫌味のように言葉を放つと、彼はルーシアに背を向けそのままその場を去っていった。ついこの瞬間まで婚約者にあった人物への態度とは、到底考えられない事であった。


――――


 妹が毛嫌いする婚約者を追い出し、いよいよ順風な生活が待っていると思われた。しかしそううまくはいかなかった…


「な、なぜだ…つい先日まで魔力には困らず、様々な魔法を扱えていたのに…どうして急に何も反応しない…」


 いろいろな可能性を考えたものの、思い当たるものはひとつしかない…


「…まさか、ルーシアが関係していたというのか…このところ調子が良かったのは、婚約を果たして彼女がここにいたためなのか…?」


 信じたくはないその可能性、しかし試さずにはいられなかった。ただし、その考えに絶対反対を取る人間が一人…


「そんなの絶対にありえない!!あの女に頭を下げるだなんて!!!」


 …彼女がここまでこだわるのには、ある理由があった。…それも、自分の発した言葉がそのままかえってくるような思惑が…




「ま、まさか…私の魔法の能力を横取りしようとしていたのは…ルーシアの方じゃなく…」

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