レフィーナの場合

 打ちひしがれたような表情を浮かべるその姿が、私の目の前にはあった。

 私はあえて、事情を何も知らないふりをしながら妹のセレアに声をかける。


「セレア?顔色が悪いようだけれど、何かあったの?」


 彼女は煽られていることを感じ取ったのか、イライラを隠しもしない様子で私の言葉に答える。


「…性悪女…全部知っているくせに…私が憎いからそんなことを言うのかしら、レフィーナお姉様」


セレアはこれまでその美貌ゆえに、男性に振り向いてもらえなかったことが一度もなかった。それゆえに彼女は今回、大きな勘違いをしてしまった。

 …今の自分なら、上級貴族様でさえも自分のものにできると考えたのだ。


 たかだか一般平民の男性にちやほやされるだけの彼女が、そんな勘違いをしてしまったのが終末であった。


 上級貴族様を誘惑することに決めた彼女。それからの行動は早かった。似合いもしないお洋服を大量に調達してきたり、臭くて仕方がない香水をわざわざ隣国から取り寄せたり、それはそれはみっともないものであった。


 そして、思い出してみても私まで恥ずかしくなってしまう二人の会話が、このように繰り広げられた。



「…ファルク様、私はあなたと結ばれる運命なのです…あなたのために私は、この体をもあなた様に差し出す覚悟ができております…最初はお互い不安なこともありますでしょうが、私たちならば必ずや乗り越えられると確信しております!」


 貴族様が自分に落ちるところを私に見せつけたかった彼女は、わざわざ私を呼び出したうえで彼を誘惑しにかかった。けれど彼が出した答えは…




「…はあ?」




 私に見せつけたその時の貴族様の表情を、私は永久に忘れることはないでしょう。それから完全に今までの自信を失った彼女が私を見るたびおびえるようになったのは、また別のお話…(笑)

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