⑥ライブ当日
その週の土曜日。
昼過ぎまで寝ていた隆臣はのそのそと起き出した。
隆臣はしばらくボーっとしていたが、今日が件のライブ当日であることを思い出し気だるげに身支度を始めた。
普段、特に予定が無ければ外出は日が落ちてからにするのだが、あいにくライブは19時からであった。
隆臣は日用品とついでに酒類でも買うかと下宿のマンションから徒歩圏内のスーパーマーケットに向けて歩きだした。
原付スクーターはあるが、日の眩しい時間帯の運転は多少不安ということで視覚障がいになってすぐに隆臣は大学近くのマンションに越してきていた。
中途半端な時期の引っ越しであった為、大学近くの安いところは空いておらず、少し高くついたが大学近くの防音そこそこ、オートロックの小綺麗なマンションに越すことになった。
おそらく防犯面がちゃんとしているからだろう。住人は同じ大学の女子学生が多かった。
隆臣の絵が売れた数年前から妙に両隣の住人と顔を合わせることが多くなったのは気のせいではないだろう。
隆臣はそれに気づかぬ程鈍くはなかったが、美人に分類されるであろう彼女らに愛想よくされてもまるでときめかないのは単に視覚障がいのせい
か、あるいは……いや、ホモではないが。
いつもと外出の時間が違うからか隆臣は隣人と顔を合わせることなくスムーズにマンションを後にすることができた。
あれこれ買い込んで重たくなったレジ袋をぶらぶらさせ、ついでに近所の定食屋で昼食を済ませてしまう。時間にしておおよそ2時間ほどか。隆臣がマンションの自室に戻ると……。
「隆臣君、お帰りなさぁい」
良武がしなを作って待っていた。
「俺はホモじゃない」
「え、なんだって?」
「いや、いい……それよりなんで部屋にいる、ヨシ」
「ああ、訪ねて来たら隆臣がいなかったからよ、ロビーで待ってたら隆臣のとこのおばさんがちょうど来て上げてくれた。惣菜置いてすぐ帰っちゃったけどな」
「お袋が?」
「お前、スマホ忘れてっただろ。おばさんが電話したら部屋で鳴ってたぞ」
「あぁ、本当だ」
隆臣がポケットをごそごそやると確かにスマホがなかった。
生活リズムを変えるとやはり何かポカをしてしまうようだ。
「ま、とりあえず上がれよ」
「ここは俺の家だ。つうかなんで来てるんだよ? 今日がライブだっただろうが」
隆臣がまるで我が家のように振る舞う良武に呆れながら部屋に上がったところだった。
隆臣は思わず大きな声を出してしまった。
「なんじゃこりゃあああ!?」
隆臣の部屋は様変わりしていた。
というか模様替えされていた。
ミニマリスト、とまではいかないが画材以外は大してモノのなかった部屋なのだが、小さな本棚や簡易ベッドは部屋の脇に追いやられており、代わりにスピーカーやらプロジェクターやらが元々あった机などを利用して設置され壁にはスクリーンがかかっている。
配置が変わっていないのは暗幕のような厚手の黒いカーテンだけだろう。
「まさかノートPCの画面でライブを見るつもりじゃなかっだろうね? 隆臣くぅん?」
「おま……他人の家を勝手に……」
隆臣は自慢気に胸を張る良武の頭をかなり強めに、一発叩いた。
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