④天使

 隆臣が学食につくとすでに良武が席にいて日替わり定食をがっついていた。

 離れていても大きなトンカツにかぶりつくザクザクという音が聞こえてくるような食べっぷりだ。


 隆臣も日替わり定食を頼み、待っている間にセルフの飲料コーナーに向かう。湯呑みに梅昆布茶の粉末を匙ですくい入れお湯を注ぐとほのかな昆布の薫りが鼻腔をくすぐった。


 誰がどういう基準で調べているのかは知らないが、この大学の学食はかなりランクが高いらしい。

 多くの学生が舌鼓を打って昼食を楽しんでいた。


「遅かったじゃん、隆臣。紅ちゃん先生と積もる話でもあったかー?」


 隆臣がプレートに定食を載せて良武のいる席までいくとすでに完食していた良武がニヤつきながらからかってきた。

 隆臣はため息を一つだけつき、無視をして湯呑みの梅昆布茶を一口飲む。


「無視すんなよー」

「紅先生の言う通りヨシに付き合ってると話が進まん。昼飯もな」


 なおも食い下がる良武にそれだけ言い返すと隆臣は定食に箸をつけた。


 ▽


「それで?隆臣もチケットは貰ったんだろ」

「あぁ」


 隆臣が定食を食べ終わると待っていましたとばかりに良武が話を切り出した。

 湯呑みに口をつけながら隆臣がすげなく応じると良武は「よしよし」と小声で頷いていた。


「隆臣はテンション低いなぁ。楽しみじゃないのかー? DIVALOIDのライブだぜ」

「そう言われてもな……よく知らないもんにそこまではしゃげねえよ」

「つまらんやつだなぁ……よし! 俺がお前にDIVALOIDのなんたるかを教えてやる!」

「wikiを読み上げるのは解説とは言わんからな」

「……」

「図星かよ」


 意気揚々と携帯端末を操作し始めた良武だったが隆臣の突っ込みに動作を止めた。

「ちぇー」と分かりやすく舌打ちのような声を上げると良武は思い出したように話を切り出す。


「ま、俺も詳しいってわけじゃないんだけどさ。隆臣が興味を持ちそうな話に覚えはあんだよ」

「っていうと?」

「……オカルトっぽい話」

「ほぅ」

「お、気になる? 気になっちゃう?」

「いいから話せ」


 ちょうど転科した頃から隆臣はオカルトに傾倒していた。

 隆臣の気を引きたいならオカルトとまで言われているほどだったが、真に受けた女子学生が深夜の廃墟探索にうっかり同行し、暗闇をものともせず進んでいく隆臣についていけず廃墟に置き去りにされたエピソードは学内でも有名だった。


食いついた隆臣に良武はDIVALOIDについてのある噂を語り始めた。


「怖いっつーか不思議な話なんだけどよ。最新のDIVALOIDの透音ラブはマジの天使なんじゃないかって噂があるんだよ」



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