②紅ちゃん先生
「げ、紅ちゃん先生」
「木島! げ、とは何カ、げ、とは」
「あ、いや、へへへ」
声をかけてきたのは非常勤講師の
台湾出身の現役イラストレーターであり、数々の作品を手掛けている人気イラストレーターでもある彼女が講師を勤めるこの大学のイラストレーターコースは、“神絵師に教わるイラストの秘技”と受講希望者が多いことで有名であった。
若人達などと声をかけてきたが、紅本人もパッと見の年齢は20代前半にしか見えず実年齢は知らないが多分学生達と年齢はそう離れてはいないのだろう。
“紅ちゃん先生”のあだ名で親しまれ、取っつきやすい上に美人で絵が上手いと人気の講師だった。
「木島に貸した2300円……ワタシは忘れてはいないネ!」
「ヨシ、講師にまで金の無心するとか正気か?」
「バっカ隆臣お前! 金無さそうな同期に頼むよりは確実だろうが」
「お前なぁ……あー、紅先生しばらくぶりっす」
「暮井君、久しぶりネ。聞いてるヨー、大活躍じゃないカ」
転科前、紅にはかなり目をかけられていた隆臣だったが転科後はあまり顔を出せておらず、少しばつが悪そうに頬をかいた。
紅のほうは久しぶりに会えたからか嬉しそうな笑顔を見せている。
そんな二人の様子に良武はかねてよりの疑問を口にしていた。
「なぁ、前からちょっと噂になってたんだけど二人って付き合ってんの?」
「な、はぁ!?」
「ぶち殺されたいカ、人間!」
「怖っ」
良武は照れ隠しにしては激烈な紅の反応に若干たじろいだが持ち前の能天気さですぐに立て直す。
「えーー! 超人気美人イラストレーターに新進気鋭の水墨画家。お似合いじゃん」
「紅先生とはそんなんじゃねえって」
「そうそう全く違うネ。はぁ……木島に付き合ってると話が進まないヨ」
そう言うと紅は何か小さな紙幣サイズの紙の束を取り出し、扇のように広げると口の前に持っていった。
「これが何か分かるカー?」
紅が取り出したのは何かの公演のチケットようだ。
チケットに描かれた特徴的な絵柄のキャラクターは紅の作画だろう。
「まさか! これPRTOCOL DIVAの……!!」
「そのまさかネ。7th Ritualのチケットヨ! ま……オンライン配信のだけどネ」
良武はすぐに気づいたようだか隆臣はこういったことにはトンと疎く何のチケットか全くわからなかった。
「なんだその、プロトコルだのリチュアルだのって」
「隆臣、知らないのかよ! DIVALOIDのライブチケットだよ! 毎回チケットが一瞬で売り切れるくらい人気なんだぜ。しかも今回からは透音ラブも参戦するもんだから余計にな。紅ちゃん先生、よくこんなに手に入ったなぁ」
「誰がキャラデザしてると思てるネ。コネよコネ」
「……その、それで、紅ちゃん先生。そのチケットはもら……いただけるのでございましょうか?」
「うちのコースとグラフィックコースの学生にって貰ってきたんだけどネー。木島にはどうしよっかナぁ?金返してくれないし、ネー?」
「ああああ返します返します! すぐ返します! だからどうかチケットをおおお!」
良武は空の長財布とは別の折り畳み財布から現金を取り出すと紅にすがり付くようにチケットをねだり始めた。
それを見下ろす紅の眼は下等生物を見るそれであった。
「ええい鬱陶しいネ! ちゃんとチケットやるから離れるネ!」
「うひょふひひ、あざああああっす!」
良武はチケットを受け取ると暫く頬擦りしていたが、急になにか思い付いたようにニヤっと笑った。
「よっしゃあ隆臣! 先に学食に行って席を取ってくるぜぇ!」
「お前……金持ってるじゃねえか。奢らんぞ」
「またあとでなああああ!」
隆臣の話を聞いていないフリをして、良武は凄まじい勢いで廊下を走っていってしまった。
残された紅と隆臣は顔を見合わせて肩を竦めるのだった。
挿し絵
紅ちゃん先生
https://kakuyomu.jp/users/Yutuki4324/news/16818093077706598779
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