心通う愛歌

①画伯

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【心通わせ紡ぐは愛の歌】

『透音ラブ』

 最新のAI技術と独自の音声合成技術により紡がれるのはまさに天使の歌声!

 自然な繋ぎにブレスの呼吸音まで再現可能で、生歌と遜色ないパフォーマンスを実現しました!


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「なぁなぁ画伯ぅ……昼飯奢ってくれよぉ。今月キツくってさぁ」

「画伯って呼ぶな、あとキツいのは毎月だろうが」


 ある美術系の大学のキャンパス内を二人の男子学生が歩いていた。


 一人はツーブロックを金髪に染めた4年生で、ブランド服にアクセサリーと、かなりお洒落を意識している。いるのだろうが、服に着られている感が凄まじい。

 染めた頭も生え際がかなり黒くなってきており俗にいうプリン頭という状態だった。

 これ見よがしに中身の入っていない長財布を逆さに振って見せつけながら“画伯”と呼んだ相手の男子学生に絡んでいる。


 もう一方、“画伯”と呼ばれた男子学生は、一着2000円程度の安売りブランドのYシャツにスラックス姿で色は黒に統一されている。

 やや伸ばし放題の黒髪は頭の後ろに流してヘアバンドで一纏めにされていた。

 しかし、なにより目立つのは構内にもかかわらずその両目を覆う濃い黒のサングラスであろう。


 金髪の方を木島良武、サングラスの方を暮井隆臣といった。


 良武は隆臣の同期生でありイラストレーターコースの4年生で成績は中の下。

 バイト代や親の仕送りのほとんどを服や趣味につぎ込んでいる為、年中金欠でありいつも誰かに金の無心をしていた。

 それでも彼を嫌う者がいないのは一重にその憎めないキャラクターゆえだろう。


 隆臣は数年前に負った視覚障がいを理由に、イラストレーターコースから日本画コースに転科していた。

 イラストレーターコースの頃から教員達の評価は高く将来を嘱望されていたが、日本画コースでもその才能はいかんなく発揮されているようで、先日開催されていた日本画のコンクールでは審査員特別賞を受賞していた。


「なぁなぁ頼むよ隆臣」

「ヨシ……俺はお前に一体いくら貸せばいい?いつ返してくれるんだ?」

「ケチ臭いこと言うなよぉ。知ってるぜ……また売れたんだろ、絵」

「まぁそうだけどな……」


 2年前、隆臣がコンクール用に描いた水墨画の技法で描いた都会の街並みは、会場に絵を鑑賞しにきていたナントカという日本画好きの外国の金持ちにいたく気に入られたようでその場で買い取られていった。

 こんなこともあるんだなぁと当時は隆臣も嬉しく思ったものだが、さすがに同じことが何度も続くと嬉しさより困惑が勝った。

 正直、手慰みに描いたモノクロ風景画の何がいいのか隆臣自身はサッパリわからなかった。


「OH!!SESYU!!ってな! 現代に甦った雪舟だって外国の雑誌にも取り上げられてたろ」

「んな大層なモンじゃねえよ」

「またまた! で、この間のはいくらで売れたんだよ?」

「……300万」

「かぁあああ、羨ましい! あやかりたいねぇ!  ていうかあやからせろ!」


 良武の声量のせいか、隆臣の評判もあるだろうか。

 チラチラとすれ違う学生達が二人に視線を向けていく。

 そんな二人の背後からコツコツコツと、早足のハイヒールの床を鳴らす音がすぐ後ろまで近づいて来るのに声をかけられるまでどちらも気づかないでいた。


「ヘイ! 若人達! 男二人なのに姦しいネ!」


 急に声をかけられ、ビクっと肩を跳ねさせた二人が振り向くと、赤に染めたおかっぱ風の頭、赤いタイトスカートのコーディネートに赤いハイヒール。頭の先から爪先まで真っ赤な女性がニヤニヤと嗤っていた。

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