2 城 翼 愚痴
足を止めるルキアがいる。
「兄様? どうかされました」
「いや、いつ来てもいつ見ても立派な城だ」
垣根を抜けるルキア達の前に、立派な城が佇んでいる。
大きなテラス、幾つか並ぶ窓の一つから視線を感じるルキアは、ぶつぶつと何かを唱えその先を見据えるや「
「兄様? 今魔法を?」
不思議に思う妹は抱かれている位置から、ルキアの目を覗き込んだ。
「くす、空耳だろう?」
誤魔化すルキアがいる。
ルキアは胸いっぱいに空気を吸うと満足そうにするものの何故か、呆れた。
「相変わらずの立派さだ」
ルキアは笑う。
「うん、ねえルキア。やっぱり僕達と一緒に暮らさない?」
「オレは……」
黙り込むルキアがいる。
間を開け、リリィを伺う。
「リリィが倖せならそれで良い」
「ルキア」
「リリィ、楽しいか?」
「はい、兄様。でもリリィは兄様も一緒の方が尚、嬉しいのですが……」
ライもリリィも、ルキアの晴れ晴れしい
「ライ、リリィを頼む。でも今日は一緒だぞ、城に泊まる予定だ」
「嬉しいです兄様!!」
しかしライは怪訝な面持ちを。
ライの不機嫌な意味を知るルキアは、黙って耳を傾けてやる。
「ルキア……今日は嬉しい。けど、だけど、今日だけじゃなくそうじゃないんだ。僕が言いたいっの!! ……は……」
ライはルキアに、きつく睨まれる。
「ライ、言うな。それはダメなんだ。それに更にオレは……」
「ルキア?」
ルキアは城の全貌を眺め、その先の空を伺う。
上空には、雄々しい翼を優雅に泳がす一匹の
ルキアは自由な翼がなんだと。それが故、捥がれる翼もある。
その時はどうするんだと、飛ぶ鳥を視線で追う。
でも鳥は翼を広げ、ルキア達の頭上に影を落とし、大きく飛び去って行くだけであった。
「ははっ、本当に立派……だ。叔父さんが統治するに相応しい場所にしておまえたちの居城。それに比べ、オレの父。そしてオレは……」
「ルキア?」
「一緒はダメだ」ぼやくルキアを心配するライも、城を見ゆる。
赤い屋根瓦を持つ尖塔には、朱色にはためく旗がある。真ん中には立派な金糸で刺繍された長い龍と国印があしらわれる。
この赤い旗は、国のシンボル。
「ふ、ライが跡取り……ふ。世も末だな」
「なにぃ〜?」
ルキアのひと言に、ムキになり赤面さらすライは拳も同時に放つ。
「じゃあ代わってよ、賢くてカッコいいルキアくん!」
「やだよ、オレに地味は似合わない」
「地味ってなんだよ。国王だぞ、ルキア」
ルキアはライの力ない拳を、胸に素直に受け止めた。そしてまた空を眺める。
もうそこに、先ほどの鳥はいない。
「なあ、ライ。自由ってなんだろう」
「え、いきなり哲学振られても困るよ」
「そういうつもりではない」
ライを揶揄う饒舌口のルキアは、黙り込む。
「どうしたんだよ、何かあったの?」
「うん、あったよ」
妹を肩に抱えルキアは、足音なく静々歩く。
逆にライは、力込めて地面を歩く。
「自由なんて知ったところで、オレにはもう……遅いのかもな……。そう、たぶん遅いんだ」
「どうしたの? 今日はいつになくおセンチだね?」
「おセンチで済めば良いんだけどな」
ライもリリィも、含み笑いをするルキアをいぶしがる。
そんなルキアはただじっと目を、空にやってやる。
同じように空を見はるライに、ルキアはぽそり言う。
「オレー……実はさ……」
「? なあ〜に、ルキア」
「いや、落ち着いてから話す」
ライはいつになく、真面目なルキアを不思議がる。ルキアはライの視線に気付くと微笑み返す。
優男の笑顔にライは照れてやると、その様子を眺めるリリィがののほんとルキアに踵返す。
「ルキ兄様、お腹でも壊しましたの?」
「なんだそれ!?」
「おっしゃることがリリィにはまったく分かりません。人間、変なことを口にする時はご気分がすぐれない時に多いと教わりました」
「ああ、あの家庭教師にか?」
リリィは人差し指を口に添え、考える。
「いいえ、父様に」
「そうか。国王か……でも良いんだ。リリィには分からなくても」
「それと兄様はいつまで父様のことを叔父さんか、国王呼ばわりなのですか?」
ルキアは一瞬、黙り込んだ。
その意味を知るライもまた、黙り込む。
沈黙の間を深く考えないリリィは、ライから受け取った花束に顔を埋め花の香りを満喫している。
「リリィは今幾つだ?」
「ふふ、今年で十四ですわ」
「そうか、まだ幼いな」
「まあ、偉そうに、兄様方とは三つ違うだけでしてよ?」
「まあ、幼いリリィは余計なことを今は。考えなくていい」
「ま、子供扱い! ご自分もでしょう?」
ルキアはリリィを肩から下ろすと、お姫様抱っこに切り替えた。
「そうだな、第一オレは。放浪の身でだらしないからな」
「じゃあ身なり良く、お城に入ればいいじゃないですか!?」
「勘弁してくれリリィ。そうでなくてもオレは自由でいたい。なのに監視されてるんだ」
ルキアは長いまつ毛を下げ、リリィの顔を直視する。
リリィが大人びた風に艶っぽく微笑すると、綺麗な指がルキアの高い鼻を摘んだ。
「ふふ、お外ばかり彷徨くからですわ」
「オレは窮屈は嫌だ」
「ふふふ、リリィが兄様に首輪をつけて差し上げますわ」
「話聞いてる? それやめて? 言うことが叔父に似てきた。それ、ほんと怖いわ」
「まあ、父様も同じことをお考えに? 嬉しい」
「ほんと勘弁してくれよな〜。そして今も、覗かれているのは確かだな」
「父様?」
「……リリィ、俺の監視はな」
「? 何ですの?」
「……無駄話の続きは城でだ。さあ、行こう」
ルキアがぼやくと黙りだったライも話し始め、また声が賑わう。
枝から漏れる日差しは明るいが、ルキアの心境はそうではなかった。
ルキア達があと少しで城に入る。
「俺の『風』はもう届いたかな?」
ルキアは城の一角に目をやる。するとルキアを窺う者に、ある異変が起きた。
窓辺に佇む人は、いきなりの突風に襲われたのだ。その風は、先ほどルキアが放ったものだ。
強風で割れた窓の破片は、そこにいる影を嘲笑うかのように散っていく。
破片の音に紛れ、疑問に満ちた声がその者の耳にはっきりと届けられた。
「オレに首輪は必要か? 叔父さん」
「……ルキア。おまえ……」
そこにあった人影は城のバルコニーに勇み出て、外を眺めた。
頼むから! オレの好きにさせてくれ。 ~卑屈?な少年を竜と魔女と天使は笑う?~ 珀武真由 @yosinari
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