(新)4話 青い月ガイア

 凍ったような時間の中、オレはひたすらに真っ白な頭を回し続け、回って焦点が定まらない目をひたすらに泳がせ続けることしかできなかった。


 ロクシスはそんなオレの目をただジッとしばらく見ていた。


 いつまでも続く長い沈黙、しかしそれは唐突に終わりを告げた。


 なんと突然ロクシスが大声を出して笑い始めたのだ。



「ハハハハハハッ  そんな涙目にならなくていいじゃん! はぁ~可笑しいぃぃ!!」


「ロクシス?」


「冗談よ冗談!! ごめんね〜!!」


「はぁ~。 もぉ〜ロクシス!! ちょっと悪ふざけが過ぎるじゃねぇか」


 オレは引っ込んだ吐き気の代わりにでた気の抜けたため息とともに、ロクシスに怒りをあらわにする。 しかしロクシスはいに返さず笑いすぎてこぼれてしまった、自身の涙をハンカチで拭い口を開いた。


「いやね…悪ふざけじゃないんだ…。」


「え?」


 オレが疑問で首に傾げると、ロクシスは扉を開け、こちらに振り向いた。


「もうこの店、貸し切り予約時間おわっちゃうからさ…。 外で話そうか? このあと予定とかないでしょ?」


「行こ!」

「は?」


 困惑するオレの声を気にもとめず、ロクシスは持ち前の凄まじい膂力を持ってオレの手を掴んで外へ飛び出した。


「ちょ…引っ張らないで〜!!」


 店内中にオレの悲鳴が響き渡った。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 純白の王都ガルサガン


 文字通りオルレルケアの国王の住まう都市で、国の中心部に位置する。



 貸し切りの店から外に出たオレは、そんな王都の歓楽街の大通りをロクシスに手を引かれて、ひたすら歩いていた。


「なぁ…どこに連れて行くつもりだよ。」

「いいからついてきて。」


 ロクシスは、あいも変わらず凄まじく強引に、オレの手を引き、大通りを歩き続けている。


 少しまぶしい。


国全体の文化に言えることだが、この国の建造物は、見栄えが良く硬度の高いワイバーンという魔物の牙を用いて作られている場所が多くその素材は道路を構成しているレンガにも混ぜられているため、どれも白っぽい色合いをしている。


 まさにこの街の景色は、純白色に彩られているため、降り注ぐ日光がこの街に住んで長い俺でさえ、たまにずいぶんと眩しく感じる。


 明るいのは街の景色だけではない。


 この街に住まう人は、皆、極めて裕福で幸せを謳歌している者たちばかりだ。 そのため皆おおらかで賑やか、商売に精を出す人と遊び歩き続ける人々、常に歓声がそこら中に鳴り響き、その中にいると俺まで元気を貰える反面、耳鳴りがするほど喧しく思えるのも事実だった。


 加えて、もうすぐ【青月】という数年に一度の特別な日が訪れる。


 今この街は、その早くもお祭りの準備に賑わっていた。


「なんだか…不満そうだね。。そんなに僕と一緒に散歩するのいや…?」


ロクシスは俺の方を見て悲しそうに尋ねてきた。


 「いや そうじゃない。 オレはいつも魔法で身体を煙化して移動している。 街を普通に歩くのが嫌なんだよ。 だって…」


「おお、あれは!勇者様に若賢者様!!」


「勇者様…。 相変わらず綺麗ね。 目の保養になるわぁ。」


「いつも応援してます。頑張ってください!」


「よっ! オルレルケア最強コンビ!!」


早くも周囲の人々は俺達の、存在に気づいては、俺の言葉を遮り、皆一斉に話しかけたり、指を指して、俺達の話をしたりしてきた。 ロクシスもそれに対して、笑顔で応対したり、手を振ったりしていた。


 これだから街を歩くのは嫌なんだ。



俺達【勇者パーティー】はこの国で知らない人がいないほど有名人だ。 街を歩けば、こうやって祭り上げられる。 


 特に国王の娘であるロクシスはここで生まれ育っている。 だから、彼女とこ都市に住まう人々は、ほぼ何かしらの馴染がある。


 それ故に他の地域では恐れ多さに話しかけに来ないなんてことすらなく、皆気づけば、一言二言彼女に挨拶は絶対する。


「おいアレ勇者様と賢者様じゃないのか?」

「ホントだ!!俺の推しが二人も並んで歩いてる!」

「おいまじかよ。激レアじゃねぇか…。 てか勇者様絵で見るより、実物のほうがずっと美人だな。」

「射影機持ってないのか? 誰か!撮れよ」

「そんな最新技術機、都合よく持ってるやついるわけねーだろ!」



道は開けてくれるものの、俺達の話をしている奴らが、周囲で多すぎるせいで、より一層耳が痛い。 有名人ってのも辛いもんだ。


 そして更に厄介なのが…。


「おい! お前ら待て!そこでとまれ。」


俺達の後ろから、ずいぶん遠周りの奴らと声色と口調が違う奴らに呼び止められた。


 


 振り返るとそこには、コートと大きな帽子を被ったワイルドな見た目の男二人組が立っていた。

 

 魔力の総量が少し多いな。オレにわかるこの二人は魔法使い…。 即ちオレと同業者的な奴らだ。 


「? 君らは?」


「俺達はお前らと同じ…。 冒険者だ!!」

「お前ら…今日で終いだぜ。」


「な…なんでそんな怒ってんの?」


ロクシスの問に、二人組の冒険者はあいも変わらず礼儀知らずな口調で応えた。 その言葉には、明確な怒りとそして殺意までもが、こもっていた。 ロクシスはその原因を二人に聞く。 


 だいたい答えは解ってはいるけれども、一応確認として。


「特別指定依頼…お前らはギルドランキング1位の座に居座って図っとソレを独占するせいで俺達は食いっぱぐれてんだよ!!」


 なるほどな、特別指定依頼とは、ギルド協会がギルドランキング1位のパーティーに直接持ってくる依頼のことだ。 


 特別指定依頼は、普通の依頼とは違い、並の冒険者たちが何千人いても達成不可能、生存不可能な超難易度の無理難題な分、報酬は格別だ。


 コイツらののぞみはその特別指定依頼。大方俺達を倒して、実力をこの国中に示して、ギルドランキング1位の座を狙うつもりだ。



「オレは認めないからな…特に若賢者! お前がオレを差し置いて、最強の魔法使いと呼ばれていることが、我慢ならないんだよ!」


「ナルホドねぇ…。 わかったよ君! じゃあこの賢者ゴルジがお前の不満を受け止める!」

 

  ロクシスはオレの背中を彼らに向かって押した。


「おいロクシス!なに勝手に!」 


「ゴルジ…。リーダー命令だ! 久々に対人戦の動きを確認させてくれ。」


…ズルい。 まいったな。


「上等だ!! ぶっ殺してやる。」


 そう言って輩の、一人は、背中から杖を抜き、もう一人は分厚い本をを取り出した。 コレは魔導書だ。この行為は完全に、魔法使いが本気で戦う時の体制だ。 


まじかよ。





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