第一章 最悪の出逢い②
朝緒と桃は、廃墟の四階まで上がってきていた。
しかし、異形市の競りが行われる場にしては、
「……どうにも、様子が変だ。ここまで仲買人がいねぇとは……俺はもっと、競り場に着くまでに無法者共の相手で骨が折れるもんだと思ってた」
朝緒の疑問に、桃はどこか楽しげに笑いを
「そりゃあ、おまえ。仲買人どもは全員集まってんだろ、競り場に」
どこか確信めいた言葉に、朝緒は
「どういうことだ?」
「競り場で、何かしら
「新人」という言葉に朝緒は目を見開く。そういえば、桃の
どこか得意げな桃に「新人がこの仕事に
桃は、今まで
「……急いだほうがいい。じゃねぇと、下手したら
桃の
「ああ。異形市の無法者共が暴れてんだろ。事前に聞かされてないのが気に食わねぇが、新人一人には荷が重い。早く、新人のもとへ」
「いや、手遅れになるのは新人以外の方な」
桃の不可解な言葉に「ああ?」と首を
「朝緒。おまえ、新人の前では何があっても
「はあ? 何でだよ。異形たちにもしものことがあるなら、俺は」
「そん時は俺が出る。だから、とにかくおまえは変化だけはやめろ。いいな?」
扉が閉まるのと同時に、また銃声が遠くから鳴り
「あのバカ……! 単独行動は厳禁だって、いつも言ってんだろ!」
朝緒は短く息を
そんなことを考えていると、桃が「SCREEN4」と書かれた大部屋の中に入っていく姿がすぐそこまで
「おい、桃。何やってる」
「怪物観察」
朝緒の問いに返ってきたのは、またもや不可解な言葉。既に大部屋の中にいる桃は、競りに出されている異形たちを見て、そんなことを言ったのだろうか。朝緒は、相変わらず人でなしな桃の発言に
「こんな時にまでふざけやがって……ろくでなしの
朝緒は短い階段を早足で
「な……」
大部屋全体を
一方桃は
「やっぱ、とんでもねぇ新人だな。あの
競り場に集まっていたと思われる、三十人近くの仲買人や買い手の無法者共は、座席のあちこちに力なく散らばって
しかし、
(あいつが、例の新人か……?)
朝緒はその
スーツの男は、真っ
「……そ、そこを
ゆらり。男の
バン。銃声が
(こいつ、対話を求めてきた
男の行動に信じられない思いをしながらも、朝緒は異形の女に短く
「こいつに近寄んな!
異形の女は悲鳴を上げて、再びスクリーンの方へと転がるように走って
男は朝緒の体当たりを受けてもなお、身体自体は
「おい、てめぇ! いい加減にしねぇか!
そのまま背後から男を
「うるさい。
男は朝緒の腕を背負うように、恐ろしく強い力で引っ張った。
「は……」
朝緒が声を上げる間もなく、一本背負いの形で
「が……っは……!」
朝緒は咄嗟に腕で蹴りを受け止めて、
そんな中でも朝緒は、確かに感じていた。あのスーツの男が音も無く、こちらに近づいてくる気配を。
「う、うぅ……あ……」
倒れ込んでいる朝緒の視線の先。少し
「ごほっ……っか、は……ク、ソが……! お前ら、もっと遠くに、逃げ」
朝緒が
チリリ。
怪物の右耳にある二連の銀色ピアスがぶつかり合って、
しかし、朝緒にはそれが怪物にしか見えなかった。冷え切った灰色の
人間らしさなど、
カチャリ。
「
銃声と共に、視界が真っ白に染まる──が、朝緒のすぐそばで、聞き慣れた低音の男の声が小さく笑う。その低い笑い声が
「退け、狂犬。こいつは〝如月屋の人間〟だ」
そこには、朝緒に突きつけられていた銃口を片手で逸らし、怪物のスーツの胸倉を逆手で掴んで、朝緒から押しのけている桃の姿があった。
怪物は桃の手を
「落神」
怪物が、涼しげに目を細めて桃を呼ぶ。
「……そこにいる異形共は、ぼくに
「
桃の言葉に怪物はしばらく
「まあ、いい。いつかは全部、殺すから」
朝緒は遠ざかってゆく怪物の背中を
「ごほ、ごほっ! おぇ……っは、は、は……う、あ!」
自分はたった今、死んでいたも同然だった。
地に頭を
「悪い、朝緒。あいつの殺気は
桃の手の動きに合わせて、朝緒は何とか呼吸の仕方を思い出してゆく。
「異形を恐れる人間、人間を恐れる異形。そんで、あの
桃のその言葉は、否定したかった。いつもの朝緒なら絶対に否定しただろう。しかし、今の朝緒にはどうしても否定できなかった。なぜなら、あまりにも強大すぎる恐怖に呑まれた朝緒は、心底思い知ったからだ。
桃に「狂犬」と呼ばれていたあの〝怪物〟。あんな恐ろしい怪物のそばで生きてゆくことなど、
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