第一章 最悪の出逢い①
空よりも濃く、海よりも淡い。
「……やっぱ、
少年──
「
「あー。俺を
「桃」と呼ばれた人並み外れた長身の男の名は、
桃は、淡いカラーレンズの丸眼鏡の奥にある、泣きぼくろが三つ散った眼を妖しく細めて、朝緒を振り返った。
「そういやあの人、
朝緒は桃の言葉に、心底
「また愛人のところかよ……このクズのヒモ男」
「だーから、愛人じゃねぇって。つーか、愛人の意味わかって言ってる? もうすぐ高校二年生のマセガキ朝緒くん」
朝緒はいつものように桃の
朝緒のすぐ後ろへと回って、同じように身を隠した桃が、
「どした」
「……におう」
「香水。そんなにハマったんなら、
「
朝緒は桃に小声で返しながら、そろりと物陰の向こうを
「異形……何人もの
異形市。それは〝異形〟と呼ばれる、
本来異形とは、人間を
異形に関する問題や
桃も、人影が行き
「もう見つけちまったか。相変わらず、鼻がよく
「犬
半眼で視線を
「俺が売人役。で、朝緒が異形市に出される商品役だろ? わーかってるって。にしても、俺みたいな善良そうな人間が、
「お前ほど怪しい男はいねぇだろうが」
朝緒は軽口を
桃が
「何度見ても
半異形とは、
目を細めて、感心したように朝緒をじっくり見下ろす桃。朝緒はそんな桃の足を、己のふかふかな一本だけの
「
「おー。ずいぶん
「ぶん
「
毛を逆立てる朝緒を
妖狐となった朝緒を連れ立って、ようやく異形市の現場へと歩き出した桃は、思いがけずといったように片手で口を押さえて小さく
「これ、やっぱ……犬の散歩」
「いい加減、そのふざけた顔面に
「
「どうも。あんたがここの市の窓口か?」
「……
男は
「ああ、それ。この通り」
桃はポケットから一枚の
「異形の灰でできたコイン。模様もここ、二条の異形市の印だろ?」
「異形の灰でできた」という言葉に、桃の背後にいた朝緒は並々ならぬ
硬貨を
「確かに。じゃあ、商品を見せてみろ」
桃は手に持つ鎖を僅かに
「妖狐……毛の色も
「おっと。ちなみにこいつはただの妖狐じゃあねぇよ? なんと、半異形の妖狐だ」
「……何だって?」
桃の言葉に、男は明らかに目の色を変えた。男はしばらくじっと妖狐を観察していたが、疑うような視線で再び桃を見上げる。
「半異形といやぁ、
「だろうな。こいつは妖狐の化け術の力が強いのか、完璧に人間と異形のどちらにも成れる。
桃がニヤリと
男は唸るように桃へと尋ねる。
「その、
「こいつの
桃がこれ見よがしに小首を傾げて見せる。男は一つ間を置くと、鼻を鳴らして背後にある裏口の
「いいだろう。ついてこい」
「お目が高い」
桃と朝緒は男に促され、裏口の扉の向こう側へと入る。入ってすぐそこには、
(攫われてきた異形たちの
朝緒は妖狐の
「よし。じゃあ、さっそく見せてもら……」
「はい、ご苦労さん。節穴
ミシッ! と骨が
「
朝緒は懐から兄が作った一枚の呪符を取り出し、正方形型の結界に貼り付ける。
「解」
朝緒が片手で印を結んでよく通る声を短く発すると、貼り付けた呪符は白い光と共に弾け、結界術を展開していた何枚もの呪符が燃えて
朝緒は異形たちに手を差し
「俺たちは〝如月屋〟という祓い屋だ。あんたたちを保護するために来た。
「うわあ! 近寄るな、人間!」
差し伸べた手は強く振り
異形市に
「い、
「人間どもめ……なんておぞましい。
一瞬、自分が半異形であることを明かせば、彼らは安心してくれるだろうかという考えが朝緒の頭に
『気持ちが悪い。……半異形など、産まれてはならない
幼い
半異形は、古より
「おい、異形ども。この場で死にたくなければ、裏口からさっさと外に出ろ」
異形に拒絶され、明らかに本調子ではなくなった朝緒の後ろで、桃が小さく鼻から息を
桃は異形たちが全員外に出たのを
「この異形市は
異形殺しとは、国立の対異形防衛組織である〝
一方、朝緒たち〝祓い屋〟は異形を殺すことは国から認められていない。
といっても、朝緒たちが属する祓い屋組織〝如月屋〟は異形市に
「だが、あの異形どもは外にさえ出しとけば、異形殺しに見つかる前に雨音とクラゲたちが何とかするだろ」
朝緒の
「んで。存外傷ついちゃって泣きそうな朝緒くん。次の現場には行けそうか?」
桃が
朝緒は沈んだ気持ちを奮い立たせようと強気に鼻を鳴らして、桃を鋭く睨み上げた。
「傷ついてもねぇし、俺は泣かねぇ。行くに決まってんだろ。仕事を
平気を
「プロ意識がお高いことで。んじゃ、次は異形市の
「ああ。確か上の階だって話だ。行くぞ」
朝緒と桃はすぐに階段を見つけると、上階にある異形市の競り場を目指して駆け出した。
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