第一章───ひさかたの⑤
結局、力量の差を示しただけで、探雪は窓際を光起に
仕方なく探雪は通路側の布団の
「
さして荷物もなく畳の上に身を投げた光起は、探雪が整理している画材に目を向けている。人と関わることをあまり求めない印象だったから、探雪は少しだけ
「うん、やっぱり今でも実際に紙に描くことが好きだから。四季隊に入れなかったら捨てなくちゃいけないって、
前代の将軍から始まった絵の規制は、今もなお続いている。最初は名のある絵師の絵など、一部を対象に
「へえ、絵が楽しいなんて気持ち、俺はもうないけどな」
光起に冷たく言い放たれ、探雪は言葉を失う。もしかしたら、絵を通してなら分かり合えるかもしれないという
光起は鼻をならして、続ける。
「四季隊に入って、これから
「絵が好きなだけで、吞気って決めつけないでよ。僕だけじゃなくて四季隊の隊員は、絵が好きな人がほとんどでしょ。みんな本当は、絵が当たり前に描ける世界が戻ってくればいいって思っているはずだよ」
四季隊の名目は、倒幕派から将軍を守ることと治安
結成した当初は、もともと幕府の
同じ名目のもと集まった絵士たちにも、それぞれの事情や願いがある。養成学校にいる間にも、それを感じる機会は
絵がある世界を取り戻したい。他の隊員もそう思っているはずだが、
すると、光起が冷めた表情のまま口を開く。
「絵を描く自由を取り戻したいなら、倒幕派についた方がいいと思うけど」
思ってもみない言葉に、探雪は目を
光起は、探雪の答えを先回りするように続ける。
「まぁ、どうせ人を傷つけるようなやり方はしたくないとか言うんだろ、優等生」
本物の優等生が言うのだから、皮肉が効いている。
「そうだよ。倒幕派が現れてから、いろんな場所で
「けど、四季隊にいたところで、
「幕府の犬って……そんなこと、人に聞かれないようにしなよ」
「聞かれたって、どうってことないさ。俺たち絵士がいなけりゃ、倒幕派に対抗する術なんてないんだから。絵師たちの自由を
雑な物言いではあるけれど、
幕府は今、絵画を取り
「……僕だって、
「ふうん……」
光起は、興味があるのかないのかわからない返事をしながら、探雪のことをまじまじと見つめる。
「そういう光起は、どうして四季隊に入ったの?」
富嶽百景グラフィアトル 瀬戸みねこ/角川ビーンズ文庫 @beans
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