第一章───ひさかたの④

 卒業後、絵士となった者は学生寮から四季隊寮に移ることになっている。

 しかも、最悪なことに相棒との相部屋だ。

 新しい部屋をのぞいてみると、ゆかりの一室は広く、大きな窓があって開放的だった。窓側と通路側にそれぞれしんだいとなるたたみがあり、上に布団が置いてある。簡素だが、暮らし心地ごこちは悪くなさそうだ。となりに立つ者とこれからずっといつしよに過ごすことを考えなければ。

「俺、こっち」

 新しい部屋に入るなり、光起はすたすたと奥の窓際へと進む。

「あ、勝手に決めるなよ。僕だって窓際の方がいい」

 探雪がすかさずこうするが、光起は取り合わない。

「俺より成績悪いくせに、窓際使いたがるな」

「にゃにおう……!」

 探雪はぎりぎりと奥歯をみしめた。ここで引いたら、ずっとめられたままだ。探雪は、ある提案を持ちかけることにした。

「それなら、ちようじゆうじゃんけんで決めよう」

「へえ、俺に画術でたいこうしようっての」

 光起が軽くあしらう。

 鳥獣戯画じゃんけんとは、うさぎかえる鹿しかの三手のいずれかをけ声とともに具現化して出し合い、勝負を決めるものだ。養成学校時代には、生徒たちが練習と遊びをねてよくやっていた。画術と言っても、確率的な勝敗の決め方なので、自分にも勝ち目はあるはずだと探雪はんだ。

「いいけど、やり直しなしの一発勝負だからな」

 光起が受けて立つ。

「わかってる……」

 探雪もしんけんな面持ちで向かい合った。

「じゃんけん……!」

 掛け声とともに、おたがいに思いえがいた動物を画術で具現化する。

 光起の傍らには、つややかな毛並みの立派な鹿が現れた。

「俺は、鹿。それでお前は……」

 見れば、探雪の隣には蛙の模様と座り方をした兎のような生き物がいた。

「それ、どっちだ……?」

「…………さあ」

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