第一章───ひさかたの③

「断る」

 組分けの命を聞くなり、光起ははっきりとそう口にした。

「どうして、俺がこいつと組まなくちゃいけないんですか」

 光起は切れ長の目をさらに尖らせ、探雪をちらりと見る。

「理由がわかりません。首席の俺の相手が、万年れつとう生の狩野探雪になる理由が」

「悪かったね、万年劣等生で」

 好き勝手言われ、探雪はげんな声で返した。

 確かに成績で言えば、光起は非の打ちどころがないくらいゆうしゆうだ。本来なら、一緒に組めることを有難いと思うべきかもしれない。なんなら探雪は、万が一入隊することができたら、どんな相手とでも快く組もうと考えていた。それなのに、だ。

 光起の明けけな言い草に、だんだんと腹が立ってきた。思わず、探雪も負けじと言い返す。

「でも、その劣等生に風景画演武の科目で負けたの誰だっけ?」

「たった一科目、勝っただけじゃねえか。実戦で足を引っ張ることが目に見えてる。さっきだって、ねずみぴきたおせなかっただろ」

「あれは、たまたまえんが通じなかっただけだし。試験用のキュウソじゃなかったらたおせてた」

「課題は、『ねこけものを具現化してキュウソを倒す』だっただろ。課題っていうのは実戦で言ったら上からの命令だ。課題通りにできないってことは、実戦で命令通りに動けないってことじゃないのか?」

「それは……」

 腹は立つが正論なので、返す言葉が見つからない。

 仕方なく探雪は議論をほうした。

「そんなにいやなら別の相手と組んだら? 僕だって光起と組みたいわけじゃないし」

「だから、そうするって言ってるだろ」

 そのとき、言い合うふたりの間を取り持つように、守景が割って入った。

「まあ、まあ。組分けはもう決定したことだし。っていうか、ふたりとも断る権利なんてないから」

 探雪も光起も、ぐっと押しだまる。

 すると、かたわらで静観していた一蝶も口をはさんだ。

「光起、優秀だけど、組みたがる子いないよ」

「一蝶、それ以上はダメ」

 すかさず守景が止めるが、さすがの光起もこれには返す言葉がないらしい。

 光起は優秀だが、優秀さゆえに周りから敬遠されている。さらに、光起の鼻持ちならない態度が周りとのきよを広げていた。そして、そのことは光起も自覚している。

「つまり俺たちは余りものってことですか」

 ため息をつきながら、光起が言う。

「勝手に一緒にしないでくれる?」

「は? どう考えても、お前の方が余りものだろ」

 ふたりがまた顔をき合わせたところで、守景がパンッと手をたたいた。

「そこまで! もう言い合いはなし。さっきも言った通り、組分けは決まったことだから。お前たちが何と言おうとくつがえらない」

 探雪も光起も、その事実をなんとか吞み込もうと小さくうなる。

「それに、一緒にやってみたら案外うまくいくかもしれないし。ね?」

 後押しするような守景の言葉も、今のふたりにはひびかない。探雪も光起も、しぶい顔をしたままだった。

 それでも、組分けはもう決まってしまったのだ。

 あきらめて、荷造りのためにふたりはりようもどることにした。

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