第2話 過去

あれは、10歳になったばかりの頃である。



〜〜〜

「お兄さん、どこまで行くの?お母様はどこ?」


『お母様はこの先だよ』



ゆっくり歩いていくと、横たわる人影が見えてくる。視界に映る母親は、顔こそ母親そのものだったがその体には血の気がなかった。



「お母様!お母様!」



呼びかけるも、応答がない。

そんな母親の亡骸に夢中で、優那は後ろから漂う殺気に気づかなかった。



ーザシュッ



斬撃の音が響く。しかし、優那の身には傷一つついていない。代わりに優那に噛みつこうとした吸血鬼が斬られていた。



『……何……くっ貴様……』


「子供なんて襲うんじゃねーよ。しかも、子供の母親を殺害して油断させるとか…やり口が汚ねーんだよ」



吸血鬼の姿が木っ端微塵に消え去る。怯える優那に1人の少年がゆっくりと歩み寄る。



「大丈夫……じゃないよな。お母さん救えなくてごめんな。君……名前は?」


「……柊優那……お母様、狙われる日が来るっていつも言ってた……私、守れなかった……お兄さん、助けてくれてありがとう」


「柊か……この辺りは吸血鬼の奴らが沢山いるからすぐ離れた方が良い。安全なとこまで案内するから」



少年に連れられ、優那は涙を拭いゆっくりと歩みを進める。この間に、色々な会話をした。名前を颯斗ハヤトといい、15歳であること。

たわいもないをしていると、やがて優那が見知った道へと出た。



「こっから先は俺は行けないから…後は帰れるか?」


「ありがとう…また会える?」


「……きっと会えるよ。いつか」



そう言い残し、颯斗は姿を消した。


〜〜〜


あれから、5年。

颯斗には会えずにいる。子供の頃の約束であって、今思えば不安がらせない為の優しい気遣いだったんだろうと成長した優那は思っていた。



「でも…会ってもう一度お礼言いたいなあ」



ボソッと呟きながら、河川を眺めていると2つの人影が目に入った。



「あの気配……吸血鬼の気配…!!」



優那は、気づくと同時にレイピアの柄を握りしめ2つの人影の元に向かった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る