第56話 思わぬ苦戦
不意を突いて斬りかかったのだが、すぐに気配を察知したライノスファイターは片手で斧をぶん回してきた。
今までの相手なら絶対に斬りかかることが場面だったのだが、長くて重そうな斧をいとも簡単に片腕だけ振ってきた。
「楽に倒せると思ったけど普通に強そうだな」
近づいてみると体の大きさが俺の倍以上あり、生物としては完璧に負けていることを思い知らされる。
そしてライノスファイターはというと、斬りかかってきたのがゴブリンだと分かるや否や、小馬鹿にしたように笑った。
完全に見下しているようだが、こっちも勝率は俺の方が高いと見ている。
生物としては負けているだろうが、俺はただのゴブリンではないからな。
「まずは能力を使わずにいかせてもらう」
そう宣言してから、俺は小さい体を活かして潜り込むように突っ込んでいく。
ただライノスファイターは低い姿勢からの攻撃にも即対応。
思い切り足を踏み込んだ瞬間に、俺の真下から尖った岩が突き出てきた。
体を捻ったことで回避には成功したが、続けざまにもう一度同じことをしてきたため、俺はバックステップで一度距離を取る。
ライノスファイターの能力を知らなかったが、これが能力の一つであることは間違いない。
今使われた能力について考えていると、畳み掛けるように頭部に生えている角が一気に伸びだした。
それから身を屈ませると――高速で俺目掛けて突っ込んできたライノスファイター。
物理法則を無視した速度であり、これもまた能力の一つだろう。
回避が間に合わないと即座に判断した俺は、迫ってくるライノスファイターに対して思い切り剣を振り下ろす。
木剣で木を薙ぎ倒したほどの一撃。
正直、本気で剣を振ったら戦闘が終わってしまうと思っており、なるべく避けたかったかのだがこの場面では仕方がない。
ライノスファイターの角をへし折り、その先の体まで一撃でぶった斬った――イメージだったのだが、俺が本気で振った剣はライノスファイターの角とぶつかると甲高い音を立てて止まった。
ライノスファイターの突進を止めることはできたものの、想定していた以上に角が硬かった。
これは流石に、俺も能力を使わないといけない。
【身体強化】、そして【跳躍力強化】の能力を発動させ、静止した状態で振ってきたライノスファイターの斧での一撃をジャンプで回避。
そのまま背後を取り、もう一度剣を振ったのだが、ライノスファイターは回避のために先程の突進能力を使ってきた。
【身体強化】を使用していた分、先ほどよりも剣の振りが速かった分斬り裂くことはできたものの、致命傷とまではいかなかった。
……想像していた以上に強い。
正直、もっと楽に倒すことができると思っていただけに驚きを隠せていないが、ブラッドセンチピードやポイズンリザードはアイアン級。
オークがギリブロンズ級ってことを考えると、シルバー級のライノスファイターは今までの相手とは別格の魔物だもんな。
現時点で能力も三つ使いこなしており、どの能力も実用的なものばかり。
正直この森にはもう敵がいないのではと慢心していたが、自分の能力を見つめ直す良い機会を貰えた。
まずは――目の前にいるライノスファイターから能力を頂く。
背中から大量の血を流しているが、逃げる気配はなく怒りからか鼻を激しく鳴らし始めた。
またしても体制を低く構え、突進攻撃を行う体制を取るライノスファイター。
速度が速い分、直線の攻撃しか行えないことはこの二回で分かった。
どんだけ速かろうが、攻撃が来る方向とタイミングが分かっていれば微塵も怖くない。
ギリギリまで引き付けておき、ライノスファイターの攻撃を仕掛けてくるタイミングに合わせ――突進を交わしながら剣を振り下ろした。
【身体強化】を付与された一振りに、ライノスファイター自信の突進の威力が上乗せされ、腹部を深々と斬り割く。
臓物を撒き散らせながら、まだ立ち上がろうとしていたライノスファイターだったが、滑ったようにバランスを崩すとそのまま動かなくなった。
本当に死んでいるのか不安になるが、流石にあの傷で生きていることはないだろう。
俺は念のために【毒針】を撃ち込んでから、大きく息を吐く。
想像していた以上に苦戦を強いられたが……楽しかった。
戦闘の楽しさを久々に味わえたことで、更に戦闘を重ねたくなってくる。
このまま次の魔物を探し、連戦と行きたいところだが、ライノスファイターを食ったらもう満腹になってしまうだろう。
食わないと強くなれないという制限にモヤモヤした気持ちを抱えながら、俺は仕方なくライノスファイターの死体を担いで帰路につくことに決めた。
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