第57話 リーダー


 ライノスファイターを倒した後、俺は一人で動く日は決まって森の奥地に行って魔物を狩った。

 出会う魔物が強い魔物ばかりではあったものの、一番接戦を繰り広げたのは最初に戦闘を行ったライノスファイターだった。


 戦闘欲は満たせなかったものの、しっかりと強くなるという目的は達成。

 俺が新たに得た能力は、ライノスファイターから【土撃】【突進】【角生】。ラストスコーピオンから【鎧化】【高温耐性】。ダーティクラブから【水中呼吸】【挟撃】の能力を獲得。


 やはり使える能力が多いことはもちろん、分かりやすい能力というのも非常にありがたい。

 胃袋が小さいせいで一日に一体ずつしか食べることができなかったのだが、それでもかなり成長ができたと思う。


 そして成長したのは俺だけでなく、バエル達もしっかりと強くなっている。

 やはり目覚ましい成長を見せているのはニコであり、コボルトキングから得た【疾速】というスキルを多用して大暴れしている。


 通常種ゴブリンのままなのに、これだけ強くなるとは微塵も思っていなかった。

 そして、そんなニコを追随しているのはバエルで、ニコに負けず劣らずのスキルを獲得した上に、魔法や未来予測の固有能力の扱いまで上手くなっている。


 バエルとニコは暇があれば模擬戦を行っております、勝率は九割バエルではあるものの、バエルがゴブリンバロンであることを考えると、ニコの凄まじさも分かると思う。


 イチとサブも頑張っているが、二人共に補助に特化しているため派手な成長はない。

 イチはタンクとして、サブは狩人としての能力を磨いており、この一ヶ月はイチは巣作り、バエルは狩りで大いに役に立ってくれた。


「シルヴァさん、そろそろ時間ですので行きましょう!」

「そうだな。もう食料は納めなくていいって言われているが一応持っていっておこう。バエルが色々狩ってくれたしな」

「オーガにケンジョウするのはモッタイないけど、ボクたちだけジャたべきれナイもんね」

「毎日のように狩ってくるからな。その都度ジャーキーにしているが、肉が余って余って仕方がない」


 サブが狩った獲物の他に、俺達は魔物を狩っているからな。

 他のゴブリンたちにおすそ分けしても全く減る気配がない。


「きょうがオワッタラ、あたらしいスにヒッコシですよネ?」

「ああ。無事にゴブリンのリーダーに任命されたら、新しい巣に移動だ。サブリーダー候補には既に声を掛けているから、恐らく近くに住むことになる」

「わかってマス! そのためにヒロいばしょにつくりましたカラ!」

「そういうことだから、イチ、ニコ、サブはよろしく頼む。それじゃ向かうとするか」


 いよいよ広場へと向かう。

 今日が俺にとっては大きな分岐点の一つになることは間違いない。

 

 ゴブリンのリーダーに任命されたら、ゴブリン達をまとめあげてオーガへの下剋上を果たす。

 ここまでは当初から思い描いていた絵であり、オーガへの下剋上を達成した日には、勇者の背中も見えてくる。


 不安も大きいが、俺にはバエル達がいてくれている。

 完全に信用する気はないが、ある程度の信頼を置くことができるため、俺はワクワクした気持ちで広場へと向かったのだった。


 食料を持って広場に着くと、今日は珍しくボスであろう赤いオーガが下で待っているのが見えた。

 完全に俺を待っていたようで俺の姿を見つけるなり、ゆっくりと近づいてきた。


「マッテいたぞ、ゴブリン。やくそくどおり、おまえをコンゲツからゴブリンのリーダーにニンメイする!」

「約束を守ってくれてありがとう。しっかりとゴブリン達を率いらせてもらう。もう俺は食料を納品しなくていいと言われていたが、これはお礼の品として送らせてくれ」


 赤いオーガに深々と頭を下げてから、サブが狩りまくって余った肉を献上する。

 ジャーキーにしていた分も含め、三百キロ以上はあると思う。


 狩るなって言っても狩人の血が疼くようで、毎日一頭か一羽は狩ってきたからな。

 食い切れずに余った物を押し付けた形なのだが、オーガは忠誠の証として捉えてくれたようで満足そうに頷いている。


「いらなイといっタのニ、いつもいじょうにモッテくるとは……! オマエをリーダーにニンメイしてヨカった! オレのキタイにこたえて、ゴブリンをまとめアゲてくれ!」

「ああ、期待に応えさせてもらう」


 口ではそう言いながらも、必ず下克上を果たしてお前らの上に立つ。

 ――そう心の中で宣言していると、赤いオーガの後ろで待機していたジルーガが俺を睨みつけている。


 完全に俺を目の敵にしているようだが、赤いオーガがいるからか手は出してこない。

 唯一、俺の本当の考えにも気づいていそうだし、引き続きジルーガだけは注意しておくか。


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