第55話 一人行動


 新しい巣作りと並行して、ローテーションしながらの魔物狩りを始めた。

 俺は常に魔物を狩る側であり、基本的には俺以外がトドメを刺しているため、大変だけど強くならないという損な役割をこなしていた。


 この体に進化してからは能力もほとんど使っていないし、この間で一番使った能力は何の魔物から得たのかも分からない【微風】。

 能力が判明した時は絶対に使わないスキルだと思っていたのだが、魔物を狩った後は確実に火を起こして調理するため、その火起こしの場面で使う機会の多い能力。


 わざわざ能力を使わずに息を吹きかけるでもいいのだが、手から風を吹かせることができるならそれがいいし、【微風】の能力を使っても体力をほとんど使わないからコスパもいい。

 今のところは一番使える能力となってしまっている。


 ……ただ、流石に一番使える能力が【微風】では駄目だと強く思っている。

 今日は待ちに待った単独で動く日であり、能力を使うに値する敵を探しに行くつもり。


「シルヴァさん! やっぱり一人で行くんですね」

「ああ。留守番よろしく頼んだ」

「僕もついていっちゃ駄目ですか? 絶対に邪魔にならないようにしますので!」

「駄目だ。今日は一人で行く。……後ろを見てみろ。イチ、ニコ、サブがこっちを見ているし、バエルを連れていくってなったら確実にあの三匹もついてくる」

「うぅ……。そういうことでしたら今日は我慢させて頂きます」

「そうしてくれ。巣作りの方はバエル中心に頑張ってくれると助かる」

「はい。材料は集まっていますし、今日で結構進めることができると思います」

「よろしく頼んだ」


 バエルにそう告げてから、俺は久しぶりの一人での探索に出た。

 ここからどう動くかが非常に重要であり、森の入口か森の奥に進むか――最初の決断で全てが決まる。


 最近は森の入口には一切近づかず、森の奥を目指して魔物狩りを行っていた。

 今日は一人のため、森の入口付近に近づいていいはずがないのだが、逆に一人だからこそ近づけるというのもある。


 見つかっても逃げやすいし、そろそろ森の入口付近を調べたいという気持ちが強い。

 おっさん戦士達を倒してから、もうそろそろ三週間近くが経つ。


 捜索隊が既に捜索を打ち切った可能性もあるし、仮に狩ることができそうな人間がいれば非常に大きい。

 ここが非常に悩む場面であったが……。


「…………とりあえずはまだステイだな」


 森の入口に向かいかけていた足を止め、引き返して森の奥に向かって進んで行く。

 流石にリスクが高すぎるというのと、まずはオーガが先だろう。

 

 森の入口に向かうのはオーガへの下克上後と俺の中で決め、今日は強い魔物を求めて森の奥に向かった。

 最近よく来ている辺りを抜け、森の奥地と呼べる場所までやってきた。


 オーガがテリトリーとしている場所を抜けた先であり、俺も一度も踏み込んだことのない場所。

 一体何があるのか分からないが、森の奥に進むごとに魔物が強くなっていることを考えると、この先に強い魔物がいることは確実。


 色々と面倒くさいため、オーガとは鉢合わせないように気をつけつつ、魔物がいないか探りながらゆっくりと森を歩く。

 心なしか空気がピリついているように感じ、聞いたことのない物音も聞こえ始めてきた。


 少し前までは恐怖でしかなかったが、今の体になってからはワクワクしかない。

 いつ遭遇してもいいように進んでいると――前方に何かが動く影を見かけた。


 森の奥地では初の魔物との遭遇であり、飛び出して攻撃したい気持ちに駆られたが、ひとまず身を隠しながら前方にいる何かの確認に動く。

 木に隠れながら確認すると、俺の視界に捉えたのはライノスファイターだった。


 ライノスファイターは、サイのような見た目をした二足歩行の魔物。

 オークよりもパワーもスピードも優れており、並外れたパワーから繰り出される斧での一撃は木をへし折るほどの一撃。


 冒険者ギルドで出されていた依頼では、シルバーランク以上の冒険者推奨だったはず。

 前世の俺がシルバーだったことも考えると、格上の魔物……であるはずなんだが、なぜかそこまでの恐怖を感じていない。


 おっさん戦士との死闘を経験したからか、それともおっさん戦士を喰った影響なのか。

 どちらかは分からないが、倒せるのではと思ってしまっている。


「…………いけるのか?」


 小さくそう呟き、再度自分に問いかけた。

 油断さえしなければ、今の俺なら狩れるだろう。


 動きを注視して見ているが、隙も多いし鈍くも見える。

 何より俺の自身の胸の高鳴りを抑えることができず、飛び出すようにライノスファイターに斬りかかったことで、シルバーランクの魔物である――ライノスファイタ―との戦闘が始まった。

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