第50話 希少種


 バエルのみならずイチとサブが進化し、ニコも魔物を食べて成長しているため、もはや他のゴブリンの助力なんていらないのではと思ってしまってもいるが、相手がここにいるオーガである以上は少しでも戦力は欲しいからな。

 それにオーガ側に立たれたら非常に厳しいため、せめて手出しはしないという約束ぐらいは取り付けておきたい。


 そんなことを考えつつ、俺は広場にいるゴブリン達の下に向かった。

 まず見かけたのは、前回も最初に話しかけたホブゴブリン。


 この間は変な対応をされてしまったが、気にすることなく話しかけに向かう。

 喋り方も流暢だったし、このホブゴブリンは敵に回したくないからな。


「よう、今日もノルマを達成しているみたいで凄いな」

「…………できれば話しかけて欲しくないんですがね」

「そう邪険にしないでくれ。実は次の納品日から、俺はゴブリン達を束ねるリーダーに任命された。ホブゴブリンとは良い関係を築きたいと思っている」

「えっ!? あなたがゴブリン達のリーダーに任命されたのですか?」

「さっき直々に命令された。もしかしてホブゴブリンも打診はされていたのか?」

「え、ええ。まぁ……ノルマを五ヵ月間達成したらという約束でして、今日がその五か月目だったんですよ」


 動揺したように見えたのは、それが理由だったからか。

 今持っている食材をオーガに届けたら、約束であった五ヵ月間が達成されていた。

 俺はまだ三ヶ月目であり、それを伝えたら文句の一つでも言いに行きそうなほど、ホブゴブリンはわなわなと体を震せている。

 

「そうだったのか。俺も全く同条件を提示された。タッチの差で俺が先にクリアしたという形だったんだな」

「タッチの差……。悔しいですが、落ち度は私にもありますので文句は言いませんよ。他のゴブリンに達成するのは無理だと高を括っていたのですから」

「恨まれていないようで少し安心している。ホブゴブリンには、サブリーダーのようなものを任せたいと思っていたからな」

「自ら名前を名乗る狂ったゴブリンの下にはつきたくないのですが、これも私の落ち度ということで受け入れましょう。サブリーダーという地位を頂けるのなら、喜んで引き受けさせてもらいますよ」


 てっきり断ってくるかと思ったが、頭がよさそうなだけあってあっさりと呑み込んでくれた。

 サブリーダーとなるなら、名前を付ける予定なんだが怒るだろうか?


 正直ホブゴブリンって味気なさすぎるし、他にホブゴブリンが出てきた時に区別がつかなくなる。

 狂った呼ばわりしてくるぐらいだから断ってきそうでもあるが……とりあえず考えるのは本当にリーダーに任命されてからでいいだろう。


「そう言ってくれて安心した。それじゃ俺がリーダーに任命された時はよろしく頼む」

「ええ、本当にあなたがリーダーに任命された時は引き受けます。半分くらいは嘘じゃないかと疑っていますがね」


 最後にチクッと刺してきたが、約束を取り付けることができたしいいだろう。

 あとは軽く戦闘したゴブリンソルジャーと、この間は見かけなかった白いゴブリンと話がしたい。


 広場をうろうろしながら二匹を探していると、視界の端で白いゴブリンがいたのが見えた。

 これだけ多くのゴブリンがいると探すのが本当に大変だが、真っ白ってだけで幾分か探しやすいのは助かる。

 俺はアルビノのゴブリンの下に向かい、早速話しかけることにした。


「ちょっといいか。というか、話は通じるのか?」

「……ええ。話せますけど、どちら様でしょうか?」


 見た目は白いこと以外は完全に普通のゴブリン。

 ただそれでも、口調が丁寧であるってことだけで可愛く見えてくるのだから、魔物の本能というは非常に恐ろしい。


「喋れるのか。俺はシルヴァという名前のゴブリンだ。以前から目に止まっていたから話しかけたんだが、お前は普通のゴブリンではないのか?」

「シルヴァ……? ネームドだったのですね。これは大変失礼致しました」


 ゴブリンとは思えないような礼儀正しいお辞儀をされ、本気で困惑してしまう。

 目を瞑ったら完全に人間と会話しているようにしか聞こえないし、元人間という俺と似たような境遇なのではと思ってしまうが、ネームドという単語が出たってことは純粋な魔物だろうな。


「ネームドではなく勝手に名乗っているだけだし、別に謝らなくていい。それよりも俺の質問に答えてくれ。お前は普通のゴブリンではないのか?」

「よく分からないのですが、私は希少種らしいです。オーガ様がそう教えてくださいました」


 ゴブリン希少種。

 これまた聞いたこともない単語だし、冒険者時代に何百匹とゴブリンを狩ってきたが、土緑色の汚いゴブリンしか出会ったことがない。

 まぁ希少種と名前がついているぐらいな訳だし、出会っていないのが普通なのか。


「だからそんなに言葉を話せるんだな」

「おじい様が言葉を教えてくださったんです。それより、シルヴァ様は私にどんな用で話しかけたのでしょうか?」

「実は、次の納品日から俺がゴブリンのリーダーを務めることになった。だから、目ぼしいゴブリンには先に声を掛けておこうと思って声を掛けたんだ」

「そうだったんですね。シルヴァ様がゴブリンのリーダーをお引き受けになったのですか。おめでとうございます」

「……言い回しが気になったんだが、もしかして他にもリーダーを打診されたゴブリンがいるのか?」

「他はちょっと分かりませんが、私は大分昔に打診されたことがあります。誰かを率いるとかは性に合いませんので、その時はお断りしたんですよ」


 最初に声を掛けられたのは、俺でもホブゴブリンでもなく、この希少種のゴブリンだったってことか。

 確かに話していても知性しか感じないし、恐らく戦いの腕も相当立つ。

 少し悔しい気持ちがあるが、結果的に俺がリーダーになる訳だから気にしないようにしよう。

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