第51話 条件
俺よりも先にゴブリンのリーダーとしての打診がされていたということは、それだけ有能なゴブリンだということ。
ホブゴブリンと同じように、支えてもらうためのサブリーダーをぜひ務めてもらいたい。
元人間の俺ですら、ゴブリンの雄としての本能が騒いだ訳で、ただのゴブリンであれば、一発で惚れるだろうから下についてもらえたらやりやすくなるだろうしな。
「一つお願いがあるんだが、俺がリーダーに任命された際にサブリーダーを務めてほしい」
「んー、先ほども言いましたが、誰かを率いるとかは得意ではないんです」
「率いるのは俺がやる。指示とかも出したくないなら、俺に聞いてくれれば指示を出す。それでも駄目か?」
何としてでも、このゴブリン希少種は引き込んでおきたい。
条件もかなり譲歩したつもりだが、首を捻ってかなり悩んでいる様子。
「……分かりました。私からの条件を呑んで頂けたら、サブリーダーをお引き受けいたします」
「条件? その条件とはいったいなんだ?」
「この森の奥地にいるコボルトキングの討伐。これを達成して頂けましたら、サブリーダーをお引き受けいたします」
コボルトキング……?
冒険者時代の記憶を思い返しても、聞いたことのない魔物だな。
そもそもコボルトに上位種はいなかったはず。
つまり、コボルトのリーダー的な魔物の通称なのかもしれない。
「分かった。コボルトキングを討伐してくればいいんだな。特徴とかはあるか?」
「通常のコボルトの倍以上は大きな個体ですので、見ればすぐに分かると思いますが……強いて身体的特徴を一つ挙げろと仰るのであれば、左耳が千切れていることぐらいですかね?」
「コボルトの倍くらいの体で、左耳が千切れている個体だな。討伐の証明としては右耳を持ってくればいいか?」
「ええ。右耳があれば、コボルトキングかどうかの判別はつきます。ですが、二つ返事で了承してよろしかったのですか? 私としてはかなりの難題を出したと思っているのですが」
「お前をサブリーダーに据えたいって気持ちも強いし、そもそもコボルトキング如きで躊躇っていられない。俺はもっと先を見据えているからな」
「もっと先……ですか?」
「今はまだ詳しく話すつもりはない。条件は呑んだから、次回の納品日を楽しみにしていてくれ」
俺はゴブリン希少種にそう告げ、広場を後にした。
変な条件を出されてしまったが、ニコと一緒についでで狩りにいけばいいだろう。
強い魔物だった時が厄介ではありそうだが、おっさん戦士より強い魔物という想像はつかない。
全力で戦う機会なんてないし、逆に強くあってほしいところ。
色々と思考しながら広場を後にして去ろうとしていると……斜め前の木に隠れているゴブリンソルジャー達を見つけた。
正直、ホブゴブリンとゴブリン希少種をサブリーダーとして据える目途がついたため、ゴブリンソルジャーはもう用はないのだが一応声は掛けておくか。
「よう。何で隠れているんだ?」
体が出ていたし明らかにバレバレだったのだが、上手く隠れられていると思っていたようで、俺が声を掛けた瞬間に体を飛び跳ねて驚いた様子を見せた。
前回はイキが良かったのに、派手にやられたからか随分としおらしい態度になっている。
「……な、ナンだ! オれにナニかようカ!」
「いや、見かけたから声を掛けただけだ。今日は突っかかってこないのか? いつでも再戦を受け入れるぞ」
「う、ウルさい! オれはモウたたカワナい!」
「そうか。それは残念だな。それじゃ俺は行かせてもらう。……あっ、そういえば前回の礼を言ってもらうのがまだだった。俺がお前達の代わりに食料を届けたんだが、そのことは知っているか?」
去ろうとしたタイミングで思い出した。
おっさん戦士とやり合ったりと今日までの内容が濃すぎて忘れてしまっていたが、このゴブリンソルジャー達の代わりに俺が怒られたのだ。
その時の礼ぐらいは言ってもらわないと、俺としても腑に落ちないまま。
「し、シッテいる! ……ァりガト」
「ん? 何を言っているか聞こえない」
「アりガとうとイッタんだ! お、オマえたち、モウいくぞ!」
「礼を言ってくれたならいい。今度会った時は隠れないでくれよ」
一緒に隠れさせていたゴブリンビレッジャー達を引き連れ、広場へ行ってしまったゴブリンソルジャー。
あの様子を見る限り、負けを認めてしまっているからもう俺には手を出すことができないんだろうな。
正直、他の通常種ゴブリンよりも少しマシという程度だが、生意気な態度も含めて嫌いではないため俺がリーダーとなった時は可愛がってあげよう。
そんなことを考えながら、そそくさと去るゴブリンソルジャーの背中を見送った。
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