第49話 褒美


 オーガの案内に従って上まで登り、腕を組んで見下ろしている赤いオーガの下まで来た。

 赤いオーガの横には見たことのないオーガがおり、青いオーガとオーガらしくないスラッとした姿のオーガがいる。


「よくキタな! さっきたいりょうのショクザイをもってきたとホウコクをうけたゾ!」

「喜んでもらえたなら良かった。何か褒美でももらえるのか?」

「褒美? 随分と図々しいことを言いますね。ゴブリンの中じゃ優秀なようですけど、オーガの中じゃ最底辺なのを分かっていますか?」


 話に割って入ってきたのは、スラッとした体形のオーガ。

 口調には棘があり、俺を邪険にしていることはすぐに伝わってきた。


「ジルーガ、そんなにオコらなくていい。このゴブリンはホントウにユウシュウだからナ! それにホントウにホウビをあたえるためによんだ!」

「出過ぎた真似を申し訳ございません」


 そう口では謝罪をしながらも、ジルーガと呼ばれたオーガは俺のことを睨みつけている。

 ボスらしき赤いオーガの言葉は聞き取りにくいが、スラッとしたオーガの方の言葉は聞き取りやすいのは少し気になるな。


「褒美をくれるとのことだが、一体何をくれるんだ?」

「ゴブリン、口調に気をつけろ。……三度目はないぞ」

「ジルーガ、イイといっているだろ! ゴブリンにレイギなどおしえるヒツヨウがない!」

「申し訳ございません。ですが、このゴブリンはしっかりと話すことができ――」


 そう弁明したところで、赤いオーガの拳がジアーガの顔面を捉えた。

 スラッとした体形というのもあったからか、俺が想像していた以上に吹っ飛び、地面を転がっていった。


 動きとしてはやはり相当速かったな。

 いきなりということもあって立ち上がるまでは目で追えなかったが、殴るときはしっかりと目で追うことができた。

 俺ならギリギリではあっただろうが躱すことができていたと思う。


「ムダなクチをはさむな! ゴブリン、すまないナ!」

「いや、大丈夫だ。それよりも本題に入ってほしい」

「ああ、そうだナ! ホウビというのは、まえにハナしたとおもうリーダーのけんだ!」

「俺をゴブリン達のリーダーにしてくれるって話か?」

「ああ、そうダ! ツギののうひんびから、オマエにゴブリンのリーダーをつとめてもらうことにきめタ!」


 褒美が貰えると言ったから期待はしていたが、まさかのリーダーを任せてくれることだとは思っていなかった。

 これは俺にとっては一番の褒美だし、変なものを貰うよりもよっぽど嬉しい。


「それは本当にありがたいが、そもそもゴブリンのリーダーって何をすればいいんだ?」

「ゴブリンたちをまとめるやくダ! もうオマエはショクリョウをおさめるひつようはなく、ゴブリンたちのあつめたショクリョウをオレのところにもってくればイイ!」

「オーガ達がやっていたことを俺がやればいいのか。もしノルマに届かなかったらペナルティとかはあるのか?」

「もちろんあるガ、サイショのさんかげつはタッセイしなくともバツはあたえない! うまくゴブリンたちをツカえるようになってくれ!」

「……分かった。しっかりと食材を納められるように力を尽くす」

 

 深々と頭を下げ、赤いオーガに忠誠を誓う――フリを行う。

 頭を下げながらも、俺の思考はどうオーガ達を出し抜いて下克上を果たせるかしか考えていない。


 三ヶ月の猶予があるといいことは、三ヶ月間はノルマを気にする必要がないということ。

 三ヶ月間でゴブリン達を纏め上げて、適当に食料を集めさせつつ下克上を果たす準備を整えるのが目標。


「ツギののうひんびからヨロシクな! オレからのはなしはいじょうダ! もどっていいゾ!」

「ああ、戻らせてもらう」


 赤いオーガと別れて、その場を後にした。

 今回の呼び出して得られたものが大きすぎるな。


 青いオーガは一言も喋らず、唯一このオーガだけ測りかねたが、赤いオーガのパンチを間近で見ることができたし、ジルーガというオーガのことも見ることができた。

 正直黙っていた青いオーガとボスである赤いオーガは、既に倒せる気がしている。

 一番の問題はジルーガと呼ばれていたオーガであると睨んでいるのだが……。


「おい、ゴブリン。無礼な態度を取ったこと、私は許していないからな」

「黙って寝ていろ。またあの赤いやつに殴られるぞ」

「――ふっふっふ。いつか本気で殺しますね」

「やれるものならやってみろ」


 鼻から大量の血を噴き出し、地面に倒れながら俺に絡んできたジルーガを挑発したが、睨むだけで流石に襲ってはこなかったか。

 動き的には一番嫌だと思った相手であり、ここで俺に攻撃を仕掛けてきて詳細な情報を入手しておきたかったが仕方がない。


 俺の目に映った限りでは、ジルーガは赤いオーガのパンチを見切っていて、拳がぶつかる直前に後ろに下がってダメージを軽くしていたように見えた。

 目も開いたままだったし、赤いオーガの忠実な手下なようで一番の実力者と踏んでいる。


 俺の近くにもバエルという似たような存在がいるため、バエルと同じ臭いをジルーガから香ったのだ。

 基本的に流暢に喋ることのできる魔物は全て警戒すると心に決め、俺は気持ちを切り替えて下の広場にいる例のゴブリン達に話しかけることにした。


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