第48話 納品日
ニコと共に魔物狩りを始めてから、あっという間に一週間が経過した。
オーク以降は躊躇することなく魔物にトドメを刺せるようになったし、メキメキと成長しているのが近くにいるからはっきりと分かる。
進化自体はしていないのだが、食べた魔物の質を考えるとイチやサブには匹敵した力を持っていてもおかしくないと個人的には思っている。
実際に色々な能力を使って見せており、ニコも戦力として数えられる成長を遂げてくれた。
ただ、これだけ強い魔物を食べたのに進化しなかったということは、ゴブリンが進化するには人間を食べなくてはいけないのかもしれない。
そうなってくると大分ハードルが高いが、別に通常種ゴブリンでも強くなれる訳だし、ニコも満足そうだから問題ないだろう。
そして、今日は一ヶ月ぶりのオーガへの食材納品日。
この一ヶ月は色々ありすぎて、本当に内容の濃い一ヶ月だった。
他のゴブリンに一線を画すことができただろうし、オーガとの能力差も実際に見て計りたいところ。
ちなみに献上する食材はちゃんと集められている――どころか、サブが狩りをし過ぎたせいで二百キロくらい献上する予定。
少しもったいない気もするが、俺達だけでは処理できないしオーガに渡してしまう方がいい。
麻袋に献上する肉を詰め、全員で分担していつもの広場まで運んだ。
この森のありとあらゆる場所から集められたゴブリン達が集結しており、そんなゴブリン達に浴びせているオーガの怒声が耳に届く。
中には殴り殺されているゴブリンもおり、同胞という感覚はないが何度見てもいい気分はしない光景。
「おっ! キョウもシッカリとにくをモッテキタか!」
「いつもよりもたくさん狩ることができたから、言われている量よりも多めに持ってきた。確認してみてくれ」
「イイこころガケだナ! ハカラセてモラう!」
俺達が持ってきた肉を担ぎ、百キロを量る天秤に持って行ったオーガ。
……こうして対峙した限り、オークと同じように簡単に倒すことができると思えた。
力はやはり強そうだが、動きも鈍いし思考速度も遅い。
有象無象のオーガならイチやサブでも倒すことができるだろう。
「バエル。オーガを見てどう思った?」
「なんといいますか……凄く弱そうに見えてます。この間見たときは恐ろしくてたまらなかったはずなんですけどね」
「そう思えているなら良かった。普通のオーガは多分楽に勝てるだろう」
それが分かっただけでも大きな収穫だが、一番重要なのは上で偉そうにしている赤いオーガ。
ここを取り仕切っている赤いオーガを倒せない限りは、俺達の下克上は潰えてしまう。
他のオーガとは体格から違うし、この距離でも圧のようなものを未だに感じる。
流石はオーガを仕切るボスなだけあり、一筋縄ではいかない雰囲気だ。
「オマエたチ、すごイナ! ノルマのバイのリョウがアッタぞ!!」
計量から戻ってきたオーガは興奮気味で俺達にそう告げると、飛び跳ねて嬉しそうにしている。
よく見たらオーガの体にも叩かれたような跡があるため、仕切っている場所の食料が少ないと、このオーガ達も怒られる仕組みになっていそうだ。
「大丈夫だったなら良かった。俺達はもう帰っても大丈夫か?」
「イヤ、チョッとマッテくレ! ボすがキテくれとイッテいる!」
すぐに広場から立ち去ろうとしたのだが、まさかの赤いオーガからの呼び出し。
近くで見るチャンスではあるが、呼び出されるというのはあまり気分の良いものではない。
「何か変なことでもしてしまったか?」
「ソウじゃなイ! タブンだガ、ホメられル!」
「褒められるなら、喜んで行かせてもらう。俺一人だけか?」
「アア! リーダーいがイはカエっテイイ!」
バエル達にも近くで赤いオーガを見て欲しかったが、俺一人だけ呼び出しということで先に帰っていてもらおう。
以前話したホブゴブリンやゴブリンソルジャー、それからアルビノのゴブリンとも話したいと思っていたし、ここで別れるのも都合がいい。
「そういうことだから先に戻っていてくれ。戻ってやることは……巣を大きくするための材料集めを頼む」
「分かりました。シルヴァさん、どうかお気をつけてください」
バエルは心配そうにそう声を掛けてから、イチ達を連れて巣へと戻って行った。
さて、一匹になったことだし赤いオーガの下へ向かうとしよう。
ただ褒めるだけで呼び出しはないと思うため、何かしら言われることは間違いない。
最悪、理不尽に殴られることも念頭に置きつつ、俺は広場の上から見下ろしている赤いオーガの下へ向かった。
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