第39話 二匹の能力


 イチ、サブ、バエルの三匹を横一列に並ばせ、俺とニコで三匹を見る形を取った。

 能力を見ると言っても、流石に大層な変化はないと思うがバエルには少しだけ期待している。


「それじゃイチから見せてくれ」

「ワカりましタ! オレのノウリョクはコウゲキをふせぐノウリョクです! このタテをツカッテいいですカ?」

「もちろん。勝手に使ってくれ」


 イチは木の盾を構えると、サブに合図を出して攻撃をさせた。

 単調な攻撃ではあるが、盾を上手く使って捌けている……ような気がする。


 申し訳ないが傍から見ているだけでは、どんな変化を遂げたのかさっぱりだな。

 これ以上遠巻きで見ていても何も分からないため、ここは俺が攻撃をさせてもらうとしよう。


「イチ。俺が攻撃役をやってもいいか?」

「エッ! シルヴぁさんがコウゲキするンですカ!? テ、テカゲンしてくれるならダイジョウブです」

「本気で倒しにはいかない。それじゃサブ、変わってくれ」


 俺はサブから木刀を受け取り、立ち位置を入れ替わった。

 さて、体は大きくなったがどれほどガードが固くなったのだろうか。


 俺はシンプルに構えてから、盾を構えているイチに斬りかかる。

 まずはフェイントなんかも入れず、ただただ打ち込んでいくだけ。


 軽めに打ち込んでいたのだが、楽々と受け止めてくるな。

 色々な方向から斬りかかったが、イチは冷静に攻撃を見極めて完璧に盾で防いできた。


 ここからは少しずつ速度を上げていこう。

 一振りごとに振る速度を上げていくと、反応が次第に遅れはじめ、盾の芯で受け止められなくなり始めた。


 そして俺の放った水平斬りに対応できず、イチの脇腹に直撃しようとした瞬間――急に俺の自身の動きが変になった。

 水平斬りを放っていた体が動きを止め、何故かシンプルな袈裟斬りを俺の意思とは関係なくイチに放ったのだ。


 水平斬りを止めるという動作を挟んでいるため、イチは余裕で俺の袈裟斬りを受け止めている。

 何が起こったのか頭で理解できず、俺は攻撃の手を止めた。


「……イチ、今何かしたか?」

「ハイ! コウゲキをうけそうにナッタので、ノウリョクをつかいましタ!」

「能力? 新しく能力を覚えたのか?」

「ハイ! もうイッカイ、きりカカってくださイ!」


 俺はイチに言われた通り、もう一度水平斬りを放つ。

 すると、さっきと同じように体が言うことを聞かなくなり、勝手に袈裟斬りへと移行した。


 体が不自由になるのは数秒だけだが、この数秒だけでも相当なアドバンテージ。

 動きに制限をかけるという能力なら、俺が思っている以上に使える能力を会得しているかもしれない。


「……これは凄いな。相手をイチの意図する動きにさせることができるのか?」

「チガいます! シるヴぁさんがいちばんナレたウゴキにかわるんでス!」

「俺は一番袈裟斬りが慣れているから、その動きを体が勝手に取るようにさせる能力ってことか。それでも……めちゃくちゃ使えるな。使用制限とかはあるか?」

「タイリョクをショウモウしますので、レンパツはできません!」


 なるほど。

 俺が魔物を食べて得た能力と同じで、イチのさっきの能力も体力を消費することで使用できるのか。


 連発はできないが、使いどころを考えれば強い。 

 流石に人間を捕食して得た能力なだけあって、ルーキー級の魔物から得た能力とはレベルが違う。


「イチは壁役として戦えそうだな。……ただ、もう少し盾を扱う技術は上げた方がいい。やり方は俺が教えるから、頑張って練習してくれ」

「ワカりましタ! ガンバリます!」


 気合いを入れて返事をしたイチに代わり、次はサブが前に出てきた。

 まぁサブに関しては何となく能力の予想はついている。


「ツギはボクがイキます! ミテテくだサイ!」


 サブは俺にそう告げると、狩人が持っていた弓を構えて遠く離れた的を狙った矢を放った。

 放たれた弓は勢いよく飛び、狙ったであろう的をぶち抜いた。


 威力も精度も申し分ない一射。

 以前まで使っていたバエルのパチンコとは比較にならない一撃だな。


「弓をここまで扱えるようになったのか。サブも戦力として数えられそうだな」

「マカせてくだサイ! もっとトオイきょりカラもアテられるようにしまス!」

「それは頼もしいが……動いている的は当てられるのか?」


 俺がそう尋ねると、ぽかーんと口を開けて首を横に捻った。

 これはまだ試していなさそうだな。


 実戦を想定するのであれば、動いている的に当てられなければ話にならない。

 イチ同様に軽く指導するとして、サブには動いている的を射ることができるようにしてもらいたいところ。


「その反応は練習が必要そうだな。ちなみに能力には目覚めなかったのか?」

「メがよくなるノウリョクをテにいれましタ! イチとおなじくタイリョクをショウヒシしますガ!」

「目が良くなるってのは狩人にあった能力で実用的だな。これは益々期待できる」

「アリガトウございまス! ガンバリます!」


 これでイチとサブの能力は分かった。

 二匹共に食べた人間の能力を得ることができていて、これからに期待できる。

 

 言語を習得しただけでも大きいが、戦力としても数えることができるのは非常に心強い。

 サブに至っては狩りが楽になりそうな能力だからな。


 ここまで期待以上だが、次はいよいよバエルの能力。

 流石に期待しているため、二匹の時以上にワクワクしながらバエルに能力の説明をさせる。

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