第40話 ゴブリンバロン
イチとサブだけでこれだけの進化があったからな。
バエルがどれくらいの進化を遂げたのか期待してしまう。
「次は僕の番ですね。まずはサブと同じように的を狙わせて頂きます」
一歩前に出たバエルはそう宣言すると、何故か拳を構えた。
弓やらパチンコで的を狙うのかと思っていただけに、今何をしているのかさっぱり分からない。
「無手の状態で一体何をするんだ?」
「見ていてください。すぐに分かりますので」
バエルは俺にそう告げると、変な溜めから掌底を放った。
『掌底を放った』と言っても正面には誰もいないため、ただ空振りしたようにしか見えていない。
――が、次の瞬間。先ほどまでサブが矢を撃ち込んでいた的が粉々に破壊された。
何が起こったのかさっぱり理解できなかったが、バエルの方を見てみるとドヤ顔をしていることから、バエルが何かしたということだけが分かる。
「……今、何をしたんだ? 俺の目線からでは何も分からなかったぞ」
「もうネタバレしてしまいますが、これは気功術です。体内に溜めた気功を放つことで的を破壊したんですよ」
残念ながら、ネタバレされても何一つ理解ができない。
気功術という言葉自体に聞き覚えはあるが、それが何なのか元人間の俺でも分からないからな。
なぜバエルが気功とやらを使えるようになっているのかも気になる。
「気功術についてほとんど知らないのだが、魔法の一種のような感じか?」
「多分近いと思います。やれることが少ない代わりに、魔力を消費しない魔法って感じでしょうか」
「またとんでもない能力を手に入れたんだな」
「ふふふ、シルヴァさん! 驚くのはまだ早いですよ」
バエルは笑いながらそう言うと、次は両手を前に突き出した。
気功術を会得しただけで、既にイチとサブ以上の進化を遂げたと言っても過言ではないのに、まだ他にも会得した能力があるのか。
期待しながらバエルの動きに注目していると、突き出した両手が赤く光り始め――炎が生み出された。
その炎を上空目掛けて放った後、次は風を両手に纏わせ始め――その炎目掛けて放った。
炎と風が上空で交じり合って大きな火球となった後、綺麗に弾けるように広がって消えた。
俺は口を開けてその光景を見ていることしかできなかったが、恐らく今のこそ正真正銘の魔法だろう。
「……魔法も使えるようになったのか?」
「はい! 気功術と魔法を会得しました。これでシルヴァさんのお役に立てると思います」
「いや、まぁ役には立てるだろうが……そうだな」
俺以上の力を身に着けているのではと思うほどの進化っぷりに、内心焦りが止まらない。
冷静に考えて、ルーキー冒険者を捕食しただけでこれだけの能力を得ることができるのか?
バエルが捕食した戦士は装備品が他よりもワンランク高かったし、持っているアイテムの量も桁違い。
捕食した人間が普通のルーキー冒険者ではなかった可能性もあるが、それにしてもバエルのポテンシャルが高かったとしか言い様がない。
「正直、期待以上の進化で驚きの方が大きいな。かなり困惑しているぞ」
「ふふふ、まだ驚かれては困ります。もう一つ会得した能力がありますので」
「まだ……あるのか?」
現時点でも過剰なほどの能力を得たと思っているのに、まだ会得した能力があるのか。
気功術に魔法。これ以上に何を会得したのか見当もつかない。
「イチに斬りかかったように、僕にも斬りかかってもらえますか? あっ、手加減はしてくださいね!」
「分かった。斬りかかればいいんだな」
言われた通り木剣を構え、俺は何も構えていないバエルに斬りかかる。
速度はイチに斬りかかった時と同程度で、言われた通り緩い速度で剣を振ったのだが――。
バエルの動きに凄まじい違和感を覚える。
ただ俺の攻撃を躱しているだけなのだが、躱す動きがワンテンポ速いのだ。
まだ三回しか剣を振っていないが、訳が分からなくなり攻撃の手を止めて詳しく尋ねることに決めた。
「バエル、一体何をしたんだ? 脳を完全に見透かされている感覚があった」
「流石はシルヴァさんですね! 僕が会得した能力は、相手の思考を読むことができるです!」
「思考を読み取る……?」
馬鹿げた能力すぎて空いた口が塞がらない。
思考を読むことができれば絶対に攻撃を食らわない上に、自分の攻撃は当てることができる。
考えうる最強ともいえる能力だろう。
「範囲が一メートルくらいと狭いのと、思考を読んでも反応できない速度で攻撃されたら意味をなさないのですが、便利な能力だと思います」
「便利というか、最強に近い能力じゃないか? 能力を使う上でのデメリットはないのか?」
「使用している間は頭が締め付けられるように痛くなって、十秒以上は読めないって感じですね」
「それは大幅なデメリットだが……正直期待以上の能力で驚きを隠せない」
「ありがとうございます。これで少しはシルヴァさんのお役に立てると思います!」
少しどころではなく、もはやリーダーをバエルに任せてもいいのではと思うほどの能力を得ている。
反旗を翻されないかが怖いが、純粋無垢な笑顔を俺に向けていることからもその心配をしなくていいのだけが救いだな。
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