第33話 分断
「こら! 糞ゴブリン、止まりやがれ!」
俺は背後から聞こえる声を聞きながら、狩人を誘い出すことができており、広場まで半分くらいの地点を通過。
おっさん戦士の声は既に聞こえず、狩人に辛うじてついてきているのはタンクの男だけだ。
ここまでは完璧に作戦通り進んでいると言っていいだろう。
背が高い人間にはついてくるのが難しいルートをあえて選んでいるため、ガタイが良くフルアーマーだったおっさん戦士にとっては簡単には通ることができない場所。
それに、もしかしたら【毒針】も刺さっており、そうなれば毒の影響で動けなくなっている可能性も非常に高い。
おっさん戦士の方は後々見に行くとして、まずは狩人を仕留めることだけを考える。
ここからはバエルに頼んだ草を結んだトラップもあるため、まず捕まる心配はない。
ことごとくブービートラップに引っかかる狩人との距離を適度に保ちつつ、俺は落とし穴を仕掛けてある広場まで誘き寄せることができた。
狩人は頭に血が昇っているからか、完全に俺の姿しか見えていない様子。
そのことを確認してから、俺は落とし穴のある位置を狩人が通り過ぎるように疲れたように膝に手を置いて休んだ。
「ぜぇ、ぜぇ……。やっと止まりやがったな。ゴブリン如きが随分と舐めた真似してくれたじゃねぇか!」
背中の筒から矢を一本取り出すと、セットして歩きながら弓を引いた。
ニヤニヤと口角を上げながら、ゆっくりと近づいてきた狩人は弓を放つ前に――落とし穴に足を踏み入れ、真っ逆さまに穴へと落ちていった。
「うわああああ! 一体なんなんだ!」
まさか森の中に落とし穴があるなんて夢にも思っていなかったであろう狩人は、穴に落ちた後も何が起こっているのか分からない様子で叫んだ。
その隙に、俺は待機させていたサブを呼び、穴に落ちた狩人を仕留めるように指示を飛ばす。
「槍があるから、それで穴の下にいる冒険者を刺せ」
「ウガッ!」
槍で突き刺す練習もさせていたため、サブは問題なく狩人を仕留められるはず。
理性が若干飛びかけているサブは、落とし穴に向かって何度も何度も槍を突き刺していった。
最初は怒りの声が聞こえてきたものの、次第に懇願の声へと変わり、そして最後は何も聞こえなくなった。
強くなるためには絶対に必要と分かってはいるものの、俺はとうとう人間を殺めてしまった。
覚悟はとうに決めていたが、何も思わないことは決してない。
ただ、この行為もいずれ慣れていくのだと思うと……少しだけ怖いものはある。
「もう一人来るからサブは下がっておけ」
まだ一心不乱に槍を刺しているサブを無理やり定位置に戻し、狩人を追ってきていたタンクが来るまでに準備を整える。
まずは落とし穴にある狩人の死体を取り出し、この開けた場所に入った瞬間に見える場所。
そして、もう一つの落とし穴の奥に置く。
俺はというと、手を狩人の血で染めて食っているフリを行った。
この光景を見たタンクは、狩人は俺に殺されその場で食べられていると思うはず。
「おーい! イアン、どこに行っちまったんだ!」
狩人を探すタンクの声が徐々に近づいてくるのが分かり、そして草木を掻き分ける音と共にこの開けた場所に入ってきた。
一歩踏み込んだ瞬間に全てが見えたのであろう。
生唾を飲む音がここまで聞こえ、そして間を置くことなくタンクは腹の底から怒りの声をあげた。
「おいッ! クソゴブリン!! テメェは今何を食べてやがる!!」
耳が痛くなるほどの声量だが、俺は聞こえていないフリをして狩人を食べるフリをやめない。
両手で口に入れているような恰好であり、タンク目線では俺が狩人を貪り食っているようにしか見えないだろう。
「その汚い手を止めろと言っているんだ! 薄汚ねぇゴブリンには人間様の言葉が分からねぇのか!? ――地獄に叩き落してやる。イアンを殺しておいて簡単に死ねると思うなよ?」
一切手を止めない俺に対し、怒りの沸点が限界突破したのか、周囲のことなど関係なしに突っ込んできた。
冷静にこの場所を見渡し、なぜイアンと呼ばれていた狩人がゴブリンに殺されたのかを考えることができれば、不自然な落とし穴の存在にすぐ気づけたはずだが……。
片手剣を引き抜き、背中を見せている俺に斬りかかってきたタンクの男は、あっさりと狩人と同じように落とし穴に落ちていった。
反応は狩人とほとんど一緒であり、何が起こったのか全く分かっていない様子。
次はイチを呼び、同じように落ちたタンクを槍で殺すように命じた。
流石にパーティの壁役を担っているだけあり、駆け出しの冒険者ながら中々に死なず、イチが一分ほど突き刺したことでようやく絶命にまで至った。
狩人と同じように落とし穴から引きずり出し、二体の死体が俺の前に並ぶ。
ここまでは作戦通りであり、冒険者を殺すことができたイチとサブは進化することができるはず。
十分すぎる結果であり、今日のところはこのまま引き返してもいいのだが……。
やはり気になってしまうのは、フルアーマーの戦士のおっさん。
あの男は最低でもシルバーランク冒険者であり、殺して食べることができれば自身の強化に繋がる上に装備品も手に入る。
フルプレートのアーマーに鋼の大剣。道具も良い物を持っているだろう。
様子だけ見に行って、仮に【毒針】が刺さっていたとしたら仕留めようか。
嫌な予感はビンビンにしているものの、危険を冒さないといつまで経っても底辺のまま。
覚悟を決めた俺はバエルだけを連れ、おっさん戦士の様子を見に行くことに決めた。
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