第16話 献上


 三匹のゴブリンを仲間にしてから約二週間が経過。

 イチ、ニコ、サブが加わったお陰で、作業は目に見えて捗っている。


 そのお陰でくくり罠を新たに三つ作成することができ、新たにもう一頭イノシシを罠に嵌めて狩ることができた。

 内臓はまたしても五匹で均等に分けて食べ、身の部分はしっかりと下処理を行ってオーガに渡せるようにしてある。


 一ヶ月という期限間際だったということもあり、今回はジャーキーにせず生のまま取っておいてある。

 ジャーキーにすれば日持ちがよくなるものの、水分が飛んで軽くなってしまうからな。


 できるだけ生のまま渡したいため、狩ってから四日が経過している状態だが……まぁオーガに味なんて分からないだろうし問題ないだろう。

 それに万が一文句を言われた場合でも、当初渡す予定だったイノシシのジャーキーがまだ残っている。


 念には念を入れているため特に気にすることなく、今日は朝早くに起きて、全員で狩ったイノシシを持ち運ぶための準備を行った。

 そろそろ迎えが来るはずなのだが――やっぱり来たか。


 見る度にぶくぶくと太っている、俺達の親に当たるゴブリン。

 巣に入ってきた時は怠そうな表情を見せていたが、イノシシの肉を見るなり驚いた表情へと変わった。


 ただまたすぐに怠そうな表情へと戻り、興味なさそうに前回の集会を行っていた場所までの案内を始めた。

 親のゴブリンの後を追い、前回と全く同じ広場に辿り着く。


 既に多くのゴブリンが集まっており、ほぼ全てのゴブリンが疲労困憊といった様子なのが目に付いた。

 担いでいる食材も見るからに目標量に届いていないし、やはりオーガが与えてきた百キロというノルマは厳しすぎるものだったのだろう。


「これカラ、あつめテきたショクザイをわたシテもらう! くみゴトにワカレて、オマエたちのマエにいるオーガにわたせ!!」


 前回と同じように高い場所から大声で指示を飛ばしてきた、オーガのリーダーらしき赤いオーガ。

 そんなオーガの声を皮切り、ゴブリン達は前から順にオーガにこの一ヶ月で集めてきた食材を手渡していった。


「ゼンゼンたりてネェジャねぇかよ!!」

「コノむのうドモ!! いっかげつカンなにしテたんだ!!」

「カンタンなしごともできネェのか!!」


 あちらこちらからオーガの罵声が響き渡り、中には思いきり殴られているゴブリンもいた。

 鼻から集められるとは思っていない態度であり、罵声を浴びせるのも慣れているのが分かる。


 食材を集めさせながら、自分達のストレス解消も同時に行う。

 意味も分からず付き従えられた上に、こんな扱いを受けるなんてな。

 人間も相当だと思っていたが、それ以上に圧倒的な縦社会だということを身を以て教えられている気分だ。


 ただ、俺達はノルマを達成している。

 未だにノルマを達成したゴブリン達はいないため、一体オーガがどんな態度を取ってくるのかが分からない。


 今回はどんな理不尽なことをされようと、死を覚悟しない限りは反発しないと決めているため、こっちサイドで出来ることは何もないんだけどな。

 食材を集めたことで逆に異分子とみなされ、殺されかけた場合は……イチ、ニコ、サブには悪いが囮となってもらおう。


 そういえばあまりにも影が薄くて忘れかけていたが、コボルトを捕食したことで【魔喰】のスキルによって得られた能力がある。

 その能力というのは――四足歩行がスムーズに行えるというもの。


 手と足を使うことで逃げ足は多少早くなるものの、それなりのデメリットを伴うため今のところ使いどころはゼロ。

 一応何度か練習はしてみたものの、四足歩行がスムーズにできようがゴブリンの体は四足歩行をするために作られていないため、手を普通に怪我してしまうことが多かった。


 ゴブリンと同じ最弱のコボルトということで全く期待はしていなかったが、低い期待ですら下回る結果に萎えたのを今でも覚えている。

 ただ、オーガから逃げる際には使えるかもしれない。


 いつでも四足歩行で逃げられる準備をしつつ、いよいよ俺達が集めてきた食材を渡す番が回ってきた。

 ここまで流れ作業のように罵声を浴びせていたこともあり、オーガは俺達にも罵声を浴びせようとしているのが分かる。

 そんなオーガが叫ぶ前に、俺は目の前に生のイノシシの肉を置いた。


「百キロ分の食材を持ってきた。確認してみてほしい」

「オマえらッ! ……んン!? ホントウにヒャクキロぶんのしょくざいをもってきたのか?」

「間違いなく百キロ分に届いている」

「…………カクニンさせてもラウ」


 口を一文字に閉じ、俺達が持ってきた肉を自家製の天秤の上にどんどんと置いていった。

 天秤の片方には百キロ分の石が積まれているようで、吊り合えば合格ということだろう。


 そして天秤はというと、肉を全て乗せた段階で肉の方に傾いており、その上に野草の入った袋を乗せたことで完全に石が持ち上がった状態となった。

 野草は絶対にいらなかったため、渡さずに自分たちの分として取っておくべきだったな。


「ホントウにヒャクキロのしょくざいダ!」

「俺達は合格ということで大丈夫か? 次も百キロの食材を献上すればいいのだろうか?」

「ちょ、チョットまっていロ!」


 俺達の担当のオーガは急いで上へと向かい、仕切っている赤いオーガへ報告に向かった。

 そして数分ほど待っていると、先ほどのオーガは赤いオーガを連れて俺達のところに戻ってきた。


「まさかショカイからたっせイするゴブリンがいるとはなァ! フセイはしていないだろうな!」

「していない。確認してもらっても大丈夫だ」


 露骨にテンションが下がったオーガとは違い、リーダー格の赤いオーガは嬉しそうに食材の確認をし始めた。

 不正はしていないと言ったものの、肉の質だけは劣悪なため気になるが……。


「ぶはハ!! ちゃんとクサっていないニクだな! モンダイない! あとジュッかいれんぞくでノルマをタッせいしたら、オマエたちをゴブリンたちのリーダーにニンメイしてやる! ちゃんとショクザイをあつめるんダゾ!」


 俺にそう告げると、赤いオーガは大声で笑いながら定位置へと戻って行った。

 五ヶ月連続でノルマを達成したら、ゴブリン達のリーダーにしてくれると言っていたんだよな?


 ゴブリン達のリーダーがどんなものなのか分からないが、とりあえずゴブリン達のリーダーを目指してもいいかもしれない。

 ここから四ヶ月間は献上する食材を集めつつ自身の強化に励み、ゴブリンのリーダーとに任命されたら、そこからはゴブリン達を率いてオーガに下克上する準備を整える。


 ひとまずこの四ヶ月間をどう過ごすかにかかっているため、一日一日を大事に過ごしていこう。

 そんな決意をしつつ、オーガによる食材徴収が終わるのを静かに待った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る