第15話 危機一髪


 若干くすんでいるとはいえ体が緑色なため、近くまで来ない限りは同化して見つかる可能性は低い。

 そう分かってはいるのだが、人間を敵として初めて対峙して分かるのはその得体の知れなさ。


 ルーキー冒険者なら今の俺達でもなんとかできるくらいの力量だろうが、ベテラン冒険者なら見つかったら瞬殺される。

 更にトップクラスの冒険者ならば、隠れるなんて意味をなさないほどの力を所持している。


 装備品や歩き方で大まかな判別はつくものの、その判別が間違っていたら死が確定する訳だからな。

 どんなに弱い人間だろうが、今の俺の目には強者にしか見えない。


「…………う、ウガが! うガガガ!」


 俺は色々と思考を巡らせながらうつ伏せの状態で息を殺していたのだが、隣で伏せているバエルが何やら呻き出した。

 よく見れば目は血走っており、理性が半分飛びかけている。


 この状態のバエルを見て、魔物は人間を見たら襲うという本能が組み込まれているというのを思い出した。

 このままでは完全に姿を確認した瞬間に、バエルは勝てない相手だろうが襲い掛かってしまう。


 止む無しだが……俺はバエルの上に覆い被さり、首に腕を回して絞める。

 体勢が悪かったものの十秒ほどで落とすことができ、バエルを理性を失う前に気絶させることができた。


 そこからは冒険者が離れていくのを静かに待ち、見つかることなく足音が遠くへ行くのを聞いて胸を大きく撫で下ろす。

 今回は運良く見つからなかったが、このままではいつかは見つかってしまうだろう。


 バエル達には何としてでも、本能のコントロールを身につけてもらわないといけない。

 本能さえなんとかできれば人間との無駄な争いを避けられる上に、上位種である魔物も食べることができる。


 どう克服できるのかは分からないが、唯一分かっているのは人間を食べて進化すること。

 人間との戦闘を避けるようになるために、人間を殺して食べなくてはいけないのは無茶苦茶な気もするが……。


 その辺りは集落に唯一いるゴブリンウォリアーの爺さんにまた話を聞くとして、今は気絶しているバエルを叩き起こしてゴミ山探しを続行しよう。

 何をするにしても、まずは食料を安定して取れるようにならなくては動くに動けない。


 冒険者がいたことからもこの辺りは超危険地帯だが、危険を冒さなければ成果を得ることはできないのだ。

 改めて気を引き締めた俺は、気絶させたバエルを起こしてゴミ山の捜索を再開した。



 捜索を再開してから一時間ほどで、俺達は無事にゴミ山を発見することに成功。

 冒険者と遭遇してからは慎重に慎重を重ねて移動したこともあり、移動自体は全然できていないが見つけることができて良かった。


 ちなみに一番最初に見つけたゴミ山ほど、ゴミがたくさん捨てられている訳ではないが……良さそうなものはちらほらと見える。

 特に目を引いたのは、強度は低そうだが金網で作られたカゴ。


 錆びも目立つし耐久性も伸縮性も皆無だが、分解すれば紛いなりにも金属が手に入る。

 あとは投げ捨てられたロープも落ちていたし、雨水が溜まって虫の巣窟となっていた水を入れることができる皮袋も拾えた。


 目ぼしいものといえばこの三点ぐらいだが、質は高いため大きな成果を上げることができた。

 危険を冒した甲斐はあったし、さっさと戻って罠づくりをするとしよう。


 帰りも命を最優先に考え、焦らずゆっくりと歩いたことで無事に巣に帰還。

 会敵するのを徹底的に避けたため戦闘は行っていないのだが、流石にバエルは疲弊し切ったようで戻るなり眠りについてしまった。


 残っていたイチ達もちゃんと仕事をしていたようで、大量の資材が巣の付近に集められていた。

 やはり数というのは偉大であり、バエル一匹に頼んでいた倍の量を半分の時間で集めることができている。


 この資材の他に落とし穴制作にも取り掛かってもらってるし、作業が一気に進んでいるな。

 イチ達も森の中をひたすら歩き回って野草を集めるよりも楽だったのか、次なる指示を期待した瞳を向けて待っている状態。


 昨日まで敵対していたとは思えない従順っぷりだが、俺としてはこれほどありがたいことはない。

 罠にかかってくれたイノシシに感謝しつつ、俺は三匹のゴブリンに指示を出した。


「イチは川から水を汲んできてくれ。ニコとサブは朽ち木から幼虫を取り出す作業を頼む」

「ウガッ! うがが!」


 指示を出すとすぐに作業に取り掛かり始め、本当に手がかからないゴブリン達。

 俺もゴミ山から取ってきたアイテムの仕分けをしてから、昨日解体したイノシシ肉の加工作業を行おう。


 ちなみに残っているイノシシ肉は全て干してジャーキーにし、オーガに献上するつもり。

 自分で食う訳でもないのにこんな面倒くさい作業はやりたくないのだが、腐りかけているから食材として認められないと言われたら終わりだからな。


 日持ちするようにジャーキーにし、絶対に文句を言わせないようにする。

 肉を切っては干していく作業を行いながら、いずれはオーガ達に下克上を叩きつけることを心に決めつつ、俺はひたすら作業に没頭した。

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